『クラウズ』から遡るガッチャマン。予想を裏切る完全新作こそ、常に最先端を目指すタツノコスピリッツの具象である。

アニメ

公開日:2013/8/26

 夏アニメもついに後半戦に突入。多くのアニメが放送されている中、たまたま視聴のタイミングや機会を逃していたり、発表されたキービジュアルの第一印象で食わず嫌いならぬ「見ず嫌い」のアニメがあるのではないだろうか?

そんな隠れた名作を見ずに秋アニメを迎えるのは実にもったいない!

そこで今期一押しのアニメを当編集部のライターにじっくり語ってもらう新コーナー「俺の覇権アニメ」がスタート。第一回はネットでも評判の高い「ガッチャマン クラウズ」を、ガッチャマンとタツノコプロの歴史を紐解きながら紹介しよう。

とにかく「熱く」て「長い」紹介だが最後まで読んでほしい。きっとこの作品に興味を抱いていただけるだろう。

●はじめに
 1972年10月のアニメ第一作の放送開始から、なんと40周年もの歳月を数える『科学忍者隊ガッチャマン』シリーズ。もはやタツノコプロというだけではなく、我が国のアニメ文化を代表するコンテンツと言える。先日から公開中の実写版、そして現在オンエア中の新作『ガッチャマン クラウズ』と、今年は正にガッチャマンイヤー。今回は、その歴史を振り返りつつ、いよいよ佳境に入ってきた『クラウズ』を紹介しよう。

●『科学忍者隊ガッチャマン』1972〜1974


 時は1972年、テレビアニメ『科学忍者隊ガッチャマン』はスタートした。それまでの日本のSFアニメといえば、アトムや鉄人28号の流れを汲む、丸っこい漫画らしさを活かしたデザインが主流だったところへ、いきなり現れたガッチャマンは、タツノコプロ独特のアメコミ的でリアルなキャラクターに加え、なんと言ってもその重厚かつシャープなメカデザインで、少年たちのハートを鷲掴みにした。
 ガッチャマンの先鋭的なビジュアルを支えたのは、美術監督の中村光毅。そして、メカデザインにはこれが本格デビューとなる新人デザイナーの大河原邦男を抜擢。そう、後にあのファーストガンダムを手掛ける事となる二人なのである。放送当時リアルロボットの最先端を画にしてみせたガンダムだが、戦艦のブリッジやズムシティの公王庁など、随所にタツノコっぽさを残している。虫プロダクション系の富野監督〜安彦作画監督と、タツノコ系の中村美術監督〜大河原デザイナーのラインの融合がガンダムのカラーを決定づけたとも言えるのだ。
 そして、大人気となった『ガッチャマン』は、2年にも渡るロングランとなり、アメリカでも『Battle of the Planets』として人気を博し、ジュンのパンチラは海の向こうの少年たちの目に焼き付けられた。

●『科学忍者隊ガッチャマン2』『科学忍者隊ガッチャマンF』1978〜1980


70年代の終わり頃はちょうど劇場映画『さらば宇宙戦艦ヤマト』公開後〜ファースト『ガンダム』放送前というアニメブーム胎動期。前年スタートの新『ルパン三世』や『新巨人の星』など、世間はちょっとしたリメイクブームだった。
 その中で、現れた『ガッチャマン』の続編だが、やや視聴率に苦しみ『F』でのテコ入れ後は、新メカ「ガッチャ・スパルタン」の上に立ち上がった健が刀を構えて突進する必殺技など、リアルさを増していた当時のアニメ界では、そのけれん味に違和感があった。
 『2』の演出陣には、後に『うる星やつら』『攻殻機動隊』を手掛けることになる巨匠・押井守監督など当時の若手が抜擢された。ちなみに『うる星やつら』はスタジオぴえろ、『攻殻機動隊』はProduction I.Gと、どちらもタツノコ出身のスタッフが立ち上げたスタジオによる制作。近年の※ビィートレイン〜※P.A.WORKSなども含めて、その時代時代のアニメの最先端を担っているのが、タツノコの遺伝子である事が分かるだろう。

※ビィートレイン
竜の子プロダクション出身の監督真下耕一と制作出身の堀川憲司がProduction I.Gの出資を受けて設立したアニメ制作会社。

※P.A.WORKS
ビィートレインの堀川憲司が設立したアニメ制作会社。設立時は越中動画本舗株式会社。今期アニメは有頂天家族を制作。代表作にtrue tears、花咲くいろはなど多数。

●OVA版『GATCHAMAN』1994


 長く続いた『ガッチャマン』の歴史の中でも、あまり目に触れる機会が無いのがこの作品だろう。作画監督は梅津泰臣。代表作を挙げると『Zガンダム』のOP/EDを担当と言えば「あれか!」と思っていただけるだろう。水も滴る様な艶やかなキャラクターのキレキレの演技に酔うばかりだ。
 ストーリーは旧シリーズの発端からラストまでを3話に凝縮したもの。もちろん1話はタートルキングの襲撃からスタート。のっけからバードミサイルを撃ちたがるジョーが最高(ジョーのミサイル撃ちたがりは旧作からのお約束で、ファンによるMAD動画は抱腹絶倒もの)。  キャスト的には、ベルク・カッツェを演じる故・塩沢兼人が期待通りのハマリっぷり。高画質でのBD化が待たれる。

 その後ガッチャマンは、朝の情報番組内のショートアニメ『おはよう忍者隊ガッチャマン』をはさんで、現在オンエア中の最新作『ガッチャマン クラウズ』に至る。

●『ガッチャマン クラウズ』2013


 2015年、東京・立川に住む高校2年生の一ノ瀬はじめは、突如あらわれた長身の男J・J・ロビンソンから謎の手帖「NOTE」を手渡される。その日から、はじめは「ガッチャマン」となり仲間とともに、人類に害をなす侵略者との戦いに赴くのであったーー。

 と、設定・ストーリーともに従来のシリーズから一新された『ガッチャマン クラウズ』。
ズバリ言って今作品に関しては、過去作をきれいさっぱり忘れたほうがいい。なまじ旧作のイメージを引きずって接すると「え〜っ? これがガッチャマンなの?」と拒否反応が起きる可能性が高い。
 もちろん、Gマークなど一部の意匠、ジョーがニヒルで、カッツェがオカマキャラ(宮野真守の怪演がすごい!)、総裁Xがモニター上の存在など、オールドファンをくすぐる部分は大いにあるものの、逆に旧作を愛するがゆえに、1話の段階で放り出してしまいそうな要素も多い。
 ガッチャマンの設定自体も全く違うし、そもそも主人公が女の子。しかもその主人公はじめのキャラクターがスタート時にはただのウザキャラに見えたりもするので、そこでつまずいてしまうのが非常に惜しい作品なのだ。自由奔放に見えて、実は物事の本質を見極める優れた直感力を備えるはじめに徐々に共感できるようになるだろう。さらに、なんと言っても緑髪で水着姿のうつつちゃんが超絶可愛い。お決まりの「うつうつします…。」を聞くと保護欲が刺激されるとともに胸がギュッと締め付けられる。こ、これが萌えというやつか?を体現できるだろう。

 先に述べて来たように、その時代の最先端をやるのがタツノコツピリッツ。『クラウズ』で問われるのは、ソーシャルネットワーク(GALAX)に依存した世界と人との関係性。その中で正義はどうあるべきか、ヒーローはこの世界に必要なのか?が、はじめ、清音、うつつ、丈、累、それぞれのキャラクターの視点から描かれてゆく。勧善懲悪な物語を描く事を良しとしなかったスタッフの意思を信じて見守ってゆこう。

 物語は前半戦を折り返し、最初のピークを迎えたところ。ついに、邂逅を遂げた「ガッチャマン」と「クラウズ」。そのいずれもがベルク・カッツェの圧倒的な力の前に為す術もない。はたして傷ついた丈の安否は? 未知の力を秘めるO・Dがその力を解放する時は来るのか? そして「GALAX」は世界の形をどう変えてゆくのか…?
 
 現在、日テレオンデマンドでは、1話〜7話を無料配信中(8月31日まで)。これを機会に、新世代の『ガッチャマン』の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

(文:柳井洋二)

こちらもチェック

『ガッチャマン クラウズ』
公式HP:http://www.ntv.co.jp/GATCHAMAN_Crowds/

日テレオンデマンド:http://vod.ntv.co.jp/program/GATCHAMAN_Crowds/

(C)タツノコプロ/ガッチャマンクラウズ製作委員