『キルラキル』燃える元ネタ解説! 全編に漂う濃厚な昭和テイスト…秋アニメ一番の異色作の源流に迫る!

アニメ

公開日:2013/10/31

 生徒会長・鬼龍院 皐月(きりゅういん さつき)によって支配される本能字学園。生徒達は、無星から三つ星まで与えられた制服によりランク付けされる。命を持つ繊維により作られた制服「極制服」は、着た者に星の数に合わせた特殊能力を授け、その力をもって皐月は近隣の高校はおろか日本全国を支配下におさめようとしていたーー。
 そんな時、本能寺学園に現れたひとりの転校生・纏 流子(まとい りゅうこ)。巨大な片太刀バサミを振るう流子は、亡き父の形見である意思をもつセーラー服「鮮血(せんけつ)」とともに、学園を支配する生徒会へと立ち向かってゆくのであった!



【あのコンビが6年ぶりに合体!】
 『天元突破グレンラガン』から6年、今石洋之監督/中島かずき脚本による完全新作がついに姿を現した。その名も『キルラキル』。今石監督が、GAINAXから独立、制作会社TRIGGERを設立して初めてのテレビシリーズだ。
 服を着る/服に着られる、服を切る/服を切られるという“4つ”の意味を複合したタイトルを持つこの作品は、第1話冒頭から『グレンラガン』以上のブッ飛び加減でアクセルを踏み続けている。ハイテンションなキャラクターと斜め上を行くストーリー展開に目を奪われてアッという間の30分だが、その裏側に隠された情報量は桁違いだ。今回は、『キルラキル』の発想のベースとなった海外SF作品や昭和のアニメ/漫画/ドラマについて解説して行こう。


天元突破グレンラガン

【それは『グレンラガン』最終話から始まった!】
 まずは、さかのぼること6年前の9月。当時GAINAX所属であった今石洋之と、劇団☆新感線の座付作家である中島かずきが手がけた、ロボットアニメ『天元突破グレンラガン』の最終話「天の光はすべて星」がオンエアされた。感動のラストシーン、壮年となった主人公シモンが、夜空を見上げてつぶやく台詞の元ネタとなったのが、フレドリック・ブラウンによる同名のSF小説『天の光はすべて星』だ。
 これは、かつてSF少年であった“中島かずき”たっての願いで実現したもので、その経緯は『グレンラガン』人気により復刊されたハヤカワ文庫『天の光はすべて星』に収録された、中島本人による解説に詳しい。そして、そこにはもうひとつの重大な事実が隠されていた!


ハヤカワ文庫『天の光はすべて星』

【世界初の服飾SFとは!?】
 復刊された『天の光はすべて星』の解説を任された中島かずきは、その中で『グレンラガン』がお手本としたもうひとつのSF小説として、バリントン・J・ベイリーの『カエアンの聖衣』という作品を挙げている…が、これがなんと「着る人間の人格を支配する服」が出てくる、世界初の服飾SF小説! そう、もう既に『キルラキル』に至る「服を着る/服に着られる」というテーマは、この時点で浮上していたのである。「服」をテーマに宇宙狭しと様々な奇想が縦横無尽に展開してゆく「※ワイドスクリーンバロック」である『カエアンの聖衣』に心奪われた中島は、これを「ドリル/螺旋」でやってみよう、と決意。そして結実したのが『グレンラガン』だが、さらなる変奏曲が『キルラキル』とも言えるのだ。

※英雄的な個人による宇宙冒険小説というスペースオペラ的要素を踏まえつつも、壮大なSF的な仕掛けと、しばしば哲学的なテーマ性を有機的に結合させた作品を指す。(はてなキーワードより)


ハヤカワ文庫『カエアンの聖衣』(現在絶版)

【キーになるのは70年代のあの作品!】
 そして、この日本にも「知性を持った服と人間の共生」というテーマで『カエアンの聖衣』と並ぶ作品があった! 皆さんもご存知、吉沢やすみ原作・東京ムービー制作による1972年~74年に大ヒットしたテレビアニメ『ど根性ガエル』である。Tシャツに張り付いたカエル・ピョン吉と少年・ひろしの関係は、そのまま鮮血と流子に当てはまる。ズバリ『カエアンの聖衣』+『ど根性ガエル』+学園番長ものこそが『キルラキル』の骨格なのである!

【『キルラキル』昭和テイストの源泉は?】
 『キルラキル』に濃厚に漂う昭和臭、どこか懐かしいキャラクターデザインやディフォルメの効いた漫画チックな動き、それらの根本あるのが『ど根性ガエル』。そして、その作画監督であった芝山努&小林治への熱いリスペクトだ。特に、主人公・流子の親友・満艦飾 マコ(まんかんしょく まこ)とその弟・又郎や家族とのギャグパート、下町(ドヤ街?)描写は影響大。
 それに加え、満艦飾一家のゲテもの喰いや、父親のマッドサイエンティストなヤブ医者っぷり、深夜の覗きなどバッドテイストな要素は『あばしり一家』や『オモライくん』など永井豪の諸作品から。第1話のボクシングバトル前のマコちゃんの逆さ吊りや、人間天ぷらもまんま永井豪である。


左が「天ぷらデスマッチ」の出てくる『あばしり一家』、右が世界一不潔な一家が活躍する『オモライくん』(現在、電子書籍にて購読可能)

 また『グレンラガン』でも、止め絵、透過光、クロスカウンター、光るゲロと、オマージュを捧げまくった出崎統監督作品へのリスペクトも健在。部活バトルがボクシング&テニスからスタートしたのも当然『あしたのジョー』や『エースをねらえ!』など、出崎作品を意識してだろう。『キルラキル』に関しては、芝山&小林~出崎(昭和の東京ムービー)の作風に、総作画監督すしお率いるアニメーター陣によるディフォルメの効いた超絶バトル作画が加わるというのが基本線と言える。

【漫画&実写の番長ものへのオマージュも!】
 最後に『キルラキル』における、番長もの/転校生もののルーツを探ってみよう。
右翼的な独裁者が支配する学園に現れた転校生という意味では、雁屋哲&池上遼一による漫画『男組』が筆頭にあげられる。主人公の名前「流子」は『男組』の「流全次郎」からだろう。


『男組』の女子高生版というのが脚本・中島かずきの狙い(現在、電子書籍にて購読可能)

 また、エンディングを観ると、これがまんま斉藤由貴主演のドラマ版『スケバン刑事』ファーストシリーズEDの構成/構図をなぞっている事が分かる。斉藤由貴版におけるスケバン刑事・麻宮サキの宿敵は、学園を支配する冷酷な美女・海槌麗巳(みづち れみ)。エンディングテーマが、昭和アイドル歌謡テイストを感じさせる点にも注目したい。

 もちろん、昭和期の作品だけでなく、漫画『覚悟のススメ』の悪趣味なアッパーさやアニメ『少女革命ウテナ』の様式美など90年代中期の作品の影響も探せば切りがないし、中島かずきが『キルラキル』直前に手がけていた実写特撮『仮面ライダーフォーゼ』もまた、熱血学園転校生ものだったりする。

【おわりに】
 長々と語ってきたが、もちろんこんな事は一切知らなくても楽しめるのが『キルラキル』のいいところ。若いファンのみなさんは、オッサンの戯れ言と聞き流して、熱く燃えるストーリー&ハイテンションなギャグとアクション、そして女性キャラ(と一部男性キャラ)の脱ぎっぷりのよさを堪能して欲しい。いよいよ4話からは、生徒会の放つ刺客と流子とのバトルが本格スタート(?)。流子の父を殺した真犯人は…などなど謎も満載の『キルラキル』、まだの人は観始めるなら今しかないでしょ!

(文=柳井洋二)

キルラキル

・TVアニメ『キルラキルKILL la KILL』オフィシャルサイト
http://www.kill-la-kill.jp/

・TVアニメ「キルラキル」公式 (kill_la_kill) on Twitter
https://twitter.com/kill_la_kill