まんが日本昔ばなしが『まどマギ』空間演出の源流だった!「劇団イヌカレー」に独占インタビュー【後編】
公開日:2014/4/22
お知り合いのツテを頼りになんとなく、仕事をもらえたおふたり。成功続きかと思いきや「まどマギ」では、やり直しもあったとか。
前回に引き続き、彼らの秘密のベールを剥いでいく。 独特の作風が生まれた背景には、“あの”名作の影響があった…。
■分かりやすい呼び名が欲しい……
泥犬と2白犬、2匹の野犬でなりたつユニット・劇団イヌカレー。引き続き、自称オス犬こと、泥犬氏に話しを聞いた。
「引き続き、制作秘話を本邦初公開だワン!」
▲このキャワワなキャラは、かつてあったブログサービス用に描いた
――色とりどり、かわいいものから、怖いものまで登場する魔女の異空間。いったいどのように、作っているのですか?
「手法は、コラージュであったり、手描き、切り絵と、アナログから始まることが多いです。それをスキャンして、デジタル加工します。
僕ら犬たちの仕事は、今のアニメ制作上での呼び名がよく分からないんです。背景も動画も効果も撮影も、かなりの範囲を自分たちで担当するので、作業面での一番近い呼称は『全面3D処理』とかでしょうか。でも、見てのとおり全然3Dじゃないけど」
▲二次元のようで三次元。アナログなようでデジタル。独自の作品スタイルが特徴
――テレビシリーズも含めて画面に関わる多くの部分を、ふたりだけで担当するなんて、大変そうですね。
「時間とは常に戦いです。でも、新劇場版『まどマギ』のときは、犬たちが用意できる切り絵など素材を用意して、配置するなどの作業は他のスタッフにお願いしたりもしていました。
しかし、特殊効果との関係や形が変形したりするモーションが絡むと、打ち合わせするよりも自分たちでやった方が早い場合んです。ふたりの間では“だいたいこんな感じで”で通じていたのですが、それがなかなか伝わらずスタッフに多大な迷惑をかけてしまうことも多いです。
ひとつの動きや効果でも、人によって程度が違うので」
――失敗も経験しましたか?
「そうですね、『まどマギ』第2話で、巴マミから魔女がティロられる一連のシーンがよく分からないから、もうすこし過程が分かるようにならないかと総監督から要望がありました。ですので、テレビの放映時からDVDに収録される際、また劇場版の公開の際と、折を見て、手直しをしています」
(「ティロられる」とは、マミさんの得意技「ティロフィナーレで葬られる」の略)
▲手直しを命ぜられたとき、こんな顔をしていたかどうかは、わからない…。
■好きな作品は市原悦子の…
――劇団イヌカレーの手がける作品は、連載マンガ『ポメロメコ』は、カエル工場で働く姉妹の話しです。やはりかわいいのに恐ろしい世界観ですね。いつからそのような作風だったのでしょうか。
「犬がアニメの専門学校に入ったのは、実は『まんが日本昔ばなし』のような作品を、作りたかったからです」
――『まんが日本昔ばなし』といえば、市原悦子さんの語りでおなじみの、あの作品ですか?
「そうなんです。あのシリーズの後半は、ほとんどセル画ですが、前半は、切り絵や手描きなど、ひとりの作家が担当することが多かったのです。
そして、たまに入ってくるホラーなお話しで、作者がノリノリで作っているのが伝わってくるんですよ!
こうゆう作品が作りたいなと思ったのですが、学校にはいっても同級生と目的が微妙にズレてはいました。
もちろん人並みに『少女革命ウテナ』や『ポポロクロイス』などの人気作品も見てましたが、人に自慢出来るほどはアニメを見ておらず…。
実は、今でもあまりアニメは見ていないのですが……」
▲『まりあ†ほりっく』のエンディングイメージスケッチ
■10人中3〜4人がツボ
――劇団イヌカレーとして、目指すところがあって、活動を始めたのでしょうか?
「正直な話、ありません。頼まれるものがあるかぎり、応えていくだけです。
というのも、僕ら犬の作品は、万人受けするものではないからです。10人中、3〜4人にしか理解してもらえないようなものですが、それでも自分らしい作品を作れたらいいなと思っています。
ディズニーもピクサーもジブリも好きですが、特に目指してはいません」
――劇団イヌカレーで長編映画など、単独の作品を作る予定はもうないのでしょうか?
「採算が取れるのであれば映画にも挑戦してみたいです。でも、そんな大冒険をしてくれるスポンサーなんているのでしょうか?
あと映画に関わらず、長編よりも短編をいくつか作りたいです。
短編作品なら、描きたいテーマに焦点を絞ることができるからです。これが2時間観客の興味を惹きつけるには、大きな起承転結が必要になってくるのかと。
それよりは、短編ですね」
▲劇団イヌカレーオリジナルアニメ『音速ファミずきんちゃん』
■「まどマギ」の続きは?
――オリジナリティある作品は、どこからインスピレーションを得るのでしょうか。
「マンガや小説、休日の雑貨屋めぐりでしょうか。マンガは、楳図かずおさんや、和田ラヂオさんが好きです。
楳図さんの作品は、前半は論理的に進むのに、後半の『なにそれ?』的な着眼点に驚かされます。
和田さんは、ほのぼのとしたスラップスティック的ですよね。どこがボケかわからないような。でも、存在自体が実験的で新しい価値感に挑戦している感じが憧れます。
泥犬も、アナログで描く際は、切り絵やコラージュ、水彩など、なるだけいろいろ使い分けています。それは、手段が目的化しないようにです。和田さんの『FAX漫画イズム』へのリスペクトでもあります」
(和田ラヂオ氏は、担当編集者に「生原稿をわざわざ郵送しなくとも、FAXで送っても同じ」と言われた。それ以来、すべての原稿をFAXにて入稿しているという)
▲泥犬氏愛用の手帳。持ち物にはこだわる方らしい
――最後に、みなさんが気になるのは、『まどマギ』の続編についてですが……。
「どうなのでしょう? 僕ら犬のところには、今のところまったくそんな話しは来ていないですね。
でも、制作する側は、毎回“これで終わり”と思って、作っています。これで完結しても悔いはありません。
ただ、6月には、『まどマギ』劇場版のプロダクションノートや、魔女の抱き枕やぬいぐるみ等が発売になるので、それはよろしくだワン!」
▲手帳のなかみ。スケッチも作品同様にカオス!
劇団イヌカレーは現在の日本アニメ界の時流には反する、いわば一匹狼的存在(2匹だが)。そのため多くのプロダクトは作れない。けれども自分たちらしさを大切にする。その姿勢はまさにクリエーターだ。
日本を代表する大人気作品であり、多くのファンを虜にした『魔法少女まどか☆マギカ』。その成功を分析することは、ひと言では言い表せない。しかし彼らに話を聞くことで、その成功の一端は彼らの作り出す独特の「イヌカレー空間」にあることは間違いないだろう。
と、ここで泥犬氏から訂正が入った。
「食えなくなったら、どんな作風にも尻尾を振りますワン。だって、僕ら犬だからハフハフ!」
インディペンデントでも、食いっぱぐれしないアニメーターとして、今後の活躍を期待しよう!
<完>
(取材・文=武藤徉子)
■劇団イヌカレー
「犬宇宙結社」http://uchu-kibo.chu.jp
■『魔法少女まどか☆マギカ』最新情報
<6月発売予定>
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』 PRODUCTION NOTE(5,600円・予価)
「お菓子の魔女 逃走中抱きまくら」(2,500円)
<詳しくは公式HPにて>
http://www.madoka-magica.com/
(C)劇団イヌカレー / 2白犬