「声優を目指すならばぜひ大学に行ってほしい」声優プロダクションの中の人に「声優になるためには?」を聞いてみた!

アニメ

公開日:2015/12/14

 将来は声優になりたい!という夢をもつ若者が増えているそうだ。最近では声優業界の人々をコメディタッチで描いた職業モノ漫画『それが声優!』が2015年7~9月にかけてアニメ化されている。

 アニメ好きならば一度は憧れる声優……。その一方、インターネット上では声優系専門学校の卒業後の就職先が厳しいと話題になり、さらには国内で声優を目指しているのは30万人、実際に声の仕事で食べていけるのは300人程度といった非常にシビアな情報ばかりが溢れている。

 どうすれば「声優」になれるのか、今回は声優プロダクションの中の人に匿名を条件に突っ込んだ話を聞いてきたので、ぜひ参考にしてほしい。

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──現状、声優プロダクションや声優系の専門学校の数は増えていますよね。これって声優になれる可能性が高くなっていると思ってしまうのですが……いかがですか?

 確かにアニメやゲームなど声優の活躍の場は広がっていますが、受け皿がわずかに増えたところで、決してなりやすい状態とは言えないですね。所属だけのお飾り声優がムダに増えているので、むしろ芳しくない状況と言えます。

──そもそもの話で恐縮なのですが、「声優プロダクション」の仕事内容と所属するための条件を教えてください。

 業務としては、所属声優のマネージメント、すなわちスケジュール管理や収録等のサポート業務を行っています。所属する方法ですが……基本はオーディションになります。

──「声優養成所」というのを聞きますが、その辺りと関係あるのでしょうか。

 はい。まず、声優プロダクションのオーディションにいきなり合格できる人は少数です。才能に溢れる方か、そもそも子役だったり有名人だったりするパターンですね。後者でいうならばアイドルや俳優、モデルが芸能界のつながりや関係者にヘッドハンティングされて所属することもあります。たとえるならば、大学の「飛び級」ですね。

 才能型か転身型以外の方が声優プロダクションの所属を目指して通うのが、養成所です。養成所はプロダクション自ら運営している直営型が多く、卒業後はそのまま所属になる、もしくは他のプロダクションに所属する場合が多いです。いずれにしても養成所に入る段階で厳しい審査があるため、一回の募集で数百~1000人が応募し、実際に入所できる方は数十人程度と非常に狭き門です。

──厳しい世界ですね……その数十人程度の養成所枠に入れたら声優!ではないですか?

 まずは第一関門を突破した程度ですね。養成所はだいたい2年制が多いのですが、1年ごとに昇格試験があります。たとえば生徒が20人いたとして、2年次に上がるのは半分の10名、最終的に声優プロダクションに所属できるのは1~2人などザラです。

 養成所に応募する段階から考えると、所属まで進めるのはざっと1万人に1人くらいの確率ですかね。

──養成所に入所するためのスキルアップや対策として、声優系の専門学校がある感じですか?

 確かにいきなり声優プロダクションに所属するのが難しいこともありますので、いまは養成所に入所するための学校に近いかもしれませんね。飛び級で所属する方でも、最低1年以上の演技経験は求められることがありますので、その理由で通う方もいますし、専門学校はマイク前の立ち居振る舞いなど、声優になるため、さらにその前の知識を教えてくれる場所だと考えてもいいかもしれません。

──声優コースのある専門学校が増えていますが、学校選びのポイントは?

 正直な意見を言うと、通ってもあまり意味のない学校もあります。選び方のポイントとしてはとにかく卒業後の実績です。その専門学校からどんな声優が輩出されているのか、まずはOBをチェックしてください。最近では在学中にデビューしたり、活躍したりしている生徒や学校もありますので、実績が乏しい学校や新設の学校はとりあえず避けた方が無難です。

 特に有名講師陣や有名声優があなたをサポート!といった触れこみに注意したいですね。実績が皆無の学校は単発の講習で人気声優に会える!などととにかく声優に会いたいという学生の心理を利用して生徒集めに躍起になっていますが、やはり教えている内容がいかに実践的で有意義で現場に即しているかが重要だと思います。実績があれば、東京以外の専門学校でも問題ありません。

 ただ、個人的な意見になりますが……声優を目指すならばぜひ大学に行ってほしいです。

──大学ですか?

 はい。まず、大学受験ってとっても苦しくて大変ですよね。その辛くて困難な試験を乗り越えた経験は、養成所やプロダクションの所属になってからも必ず役に立つと思っています。

 そして、人にもよると思いますが、大学生活は人生の中でもっとも「自らの意志で自由に選択できる期間」。いろんな人、世代、社会と関わり、様々な人生経験を積むことは役者として本当にかけがえのないものです。視野も広がりますし、人間としての魅力も増すのではないでしょうか。

 若い頃って「夢に直結していること以外は全部ムダ」と考えてしまいがち。たとえば、アニメの仕事で「日曜日の昼下がりに異性と公園デートをする」といったシチュエーションの収録があるとします。そのとき、異性や友達と公園で遊んだり、デートをしたりしたことがないと、想像はできても、凡庸でつまらない、薄っぺらくて、説得力のない演技になってしまうんです。似たような経験があれば自分の経験を引き出して演じることができますからね。もしくは自分に直接的な経験がなくても、友だちや身近な人からの体験談を聞くことで、「経験の代替」になります。つまり実際に体験していなくても、多くの人との関わることで声優や役者に必要な人生経験を「自分のもの」にしていけます。

 あと、つぶしが利きやすくなるのもメリット。声優は本当に狭き門ですから、決して逃げではなく、将来の可能性や保険という意味でも大学を卒業しておく価値はあると思います。大学に通いながらも土日や夜間に声優の基礎を学ぶこともできる学校があるので、ぜひ大学を進路の選択肢に加えていただきたいです。

──大学を出ると22~23歳。専門ならば20歳くらいですよね。養成所を目指すにしては遅いということはないのでしょうか。

 その程度の差ならば全く問題ないです。特に男性の場合は30歳からブレイクする人も珍しくないので、気にする必要はありません。最近は社会人を経験してから声優になる方も多く、その方が社会人としてのマナーを身に付けていますのでスタッフ受けも良く、集団の中での振る舞い方も知っているので、重宝される傾向があります。

 しかし、仮に「アイドル声優」を目標としているのならば、やはり若い方が有利なので、少しでも早くから行動した方がいいです。養成所や声優プロダクションよりも、いっそ芸能事務所を目指した方がいいかもしれません。アイドルやモデル、タレントとして知名度を上げて、そこから声優の仕事を増やしていくパターンですね。ただし、アイドル声優から一生食べていける実力派の声優に転身するのは、保守的と言われるこの声優業界では非常に難しいと思いますので、あまりお勧めしませんが…。

──少し話は変わりまして、第一線で活躍されている方々をたくさん見ていると思うのですが、人気声優になるために必要な条件とは?

 あくまでも自分の主観ですが、大きく分けると5つあると思います。

1.声質
 こればかりは生まれもったものになりますが、唯一無二の声をもっている方はやはり強く、ぜひあの方に!と指名でオファーがくることも珍しくありません。もし普通の声質の方でも、幼い子から年配の役まで幅広く対応できると声優としての需要は高くなります。あとは聞き心地のいい声。仮に高音でも低音でも長時間聞いていて耳なじみのいい声が重宝されます。

2.演技力・表現力・想像力
 才能もありますが、この辺りは努力で培うこともできます。声優としての技術はもちろん、人生経験を豊かにするためにアニメや漫画、ゲームだけでなく、演劇、小説、映画、音楽、舞台、美術と様々な芸術を見て、聞いて、触れて、感性を養っていただきたいですね。

3.コミュニケーション能力
 声優の中には「ぼっちです」や「人見知りです」と自己紹介をされる方もいますが、実際にコミュ力不足では成功できない世界です。周りの声優はもちろん、スタッフとうまく関係を築けない人は一度呼ばれたとしても次回の仕事につながりません。中には本当に人付き合いが苦手な方もいますが、人前ではきちんとコミュニケーションを取ろうと努力しています。また、ライブや公開録音、ニコ生などファンと触れ合う機会が増えたこともあり、ファンサービスといった観点でも重要です。

4.トーク力
 トーク力とは決して口が達者で笑いが取れるという「話術」のことだけではありません。しっかりした受け答えと人の目を見て話し、人の話に耳を傾けて聞くことができるかが重要です。あとは幅広い知識と雑談力。色々なことに興味をもち、万遍なく話を振ったり、受けたりできるとさらにいいですね。

5.ビジュアル
 ビジュアルは言い換えると身だしなみと見た目に対する美意識です。よく声優は外見ではなく実力で勝負!といったことを言う人もいますが、中身を見てほしいのであれば、なおさら外見には気を使ってほしいです。声優業界は人と人のつながりで成り立っています。出会った人に少しでも良い印象を与えられるように、身だしなみに気を使うことで必然的に仕事に繋がっていきます。

 以上、5つほど挙げさせていただきましたが、声優志望者の方はどうしても「1の声質」や「2の演技力」ばかり伸ばそうと考えがちですが、実は3が一番重要だと思っています。多少演技が下手でも人間的に魅力があり、一緒に仕事をしていて楽しい方は、必ず次も呼ばれます。声優はあくまでフリーランスの個人事業主であり、プロダクションはあくまで仕事を斡旋する紹介業ですから、最後に問われるのは個人の魅力です。なので、友達がいない人や友達作りが苦手な人は、まずそこから意識を改善し、友達を増やす努力をすることをお勧めします。もし、それが「意味がない」とか、「難しい」と感じる方は、いますぐ声優の道を諦めるべきです。

──大変ためになる話をありがとうございます。とても良いお話の最後にゲスな質問で恐縮なのですが、いわゆる枕営業はあるのでしょうか……。

 知っている限りでは「ない」と思いたいですね。声優業界において、枕営業はデメリットの方が大きいからです。とても狭い業界なので噂はすぐに回りますし、仮に一時的に仕事が取れても、次の仕事でも求められ、ダラダラした関係になりがちです。さらにその人ともつれたり、喧嘩別れしたりすると、その人が関連する仕事が一切受けられなくなります。せっかく狭き門を通過して声優になれたのに、そんなことで業界を去るのはもったいないです。
 ただ、制作スタッフと皆さんで食事をする程度の接待ならばあります。結束を高めるためであったり、プロジェクト終了を労ったり。一般企業でいうところの、取引先企業との顔合わせや、忘年会・新年会みたいなノリですね。もちろんマネージャーも同席しますし、一次会のみで帰るように指導しています。

──ありがとうございます!

 声優になるためのスキルや気になる話題まで至ったインタビューとなったが、声優志望者の方は参考になっただろうか?

構成・文=shioko