電子書籍アワード2013:特別賞紹介

2013/3/24

 

 特別賞・優秀アプリ賞、読者賞は、売上ランキングだけでは見えてこない電子書籍業界の様々なサービスや取り組み、意欲的な作品に贈られる賞です。特別賞は、電子書籍業界に詳しいまつもとあつし氏に、優秀アプリ賞はiOSアプリのレビューサイトAppBank編集長の高橋亮氏に候補作をチョイスしていただきました。読者賞はダ・ヴィンチ電子ナビの読者投票によって決定したものです。

特別賞

kindle

『Kindle』

電子書籍端末

特別賞 選評(ジャーナリスト まつもとあつし氏)

あまりにも知られた存在なので「特別賞」には相応しくないのでは?という意見もありましたが、今年度の電子書籍の世界を語る時にやはり欠かせない存在です。業界では「Kindle以前・以後」という具合に歴史の転換点として捉えられています。日本上陸はこのタイミングになったものの、2011年のいわゆる電子書籍元年から関係者・読者双方の頭には常にその存在が意識されていました。サービスという観点では決して十分とは言えなかった日本の電子書籍の世界を、短期間の間に急速に充実させた陰の功労者という側面もあります。セルフパブリッシングKDPをはじめ、出版を巡るバリューチェーンの在り方に今後も一石を投じ続けることになるでしょう。今後も注目していきたいと思います。

編集部コメント

「黒船」などと形容され、いつ本格上陸するのか予測記事が何度も報道されるなど、業界内外における注目度は群を抜く高さ。Kindleではじめて電子書籍を体験したという人も多かったのではないでしょうか。

特別賞

コルク

『コルク』

出版エージェント会社

特別賞 選評(ジャーナリスト まつもとあつし氏)

作家と出版社を仲介するエージェント(代理人)は、米国では一般的ですが、出版事情が異なる日本ではこれまでほとんど存在していませんでした。昨年末スタートした、講談社を飛び出した二人の若き編集者によるエージェント会社「コルク」には、安野モヨコ氏はじめ、名だたる作家が賛同を表明しています。出版社の枠を超え、作品のプロモーション効果を高めることで、書籍や関連商品の売上げの最大化を目指すこの会社。ネット上のバズ(口コミ)の盛り上がりや、関連作品のリコメンド(推奨)と相性が良い電子書籍の利点を捉えようとしています。利益は作家からの成功報酬で上げるという意欲的なビジネスモデルの成否が注目されます。

編集部コメント

今回の電子書籍大賞『宇宙兄弟』の作者・小山宙哉さんも契約作家の一人。いかに著者や作品の知名度を高めるかが電子書籍時代の大きな課題であり、今後ますます存在価値が高まりそうです。

優秀アプリ賞

『火山人間』

iPhone/iPad用アプリ

優秀アプリ賞 選評(AppBank編集長 高橋亮氏)

「火山人間」は、文章に音楽と映像が組み合わされた「いかにも電子書籍」といった作品です。しかし、これほどまで見事に音楽と映像が物語にマッチしているものはそう多くはないでしょう。音楽はイヤフォンかヘッドフォン推奨であることにもうなずけるクオリティで、場面に合わせて物語をグッと盛り上げてくれます。映像は分量としては多くないのですが、要所要所で的確に挿入されており、文章からはイメージしづらい情景を的確に読者に伝えてくれます。「なんとなく音楽や映像を組み合わせてみた」電子書籍も多い中、「音楽と映像をどう組み合わせたらより良いものになるのか」ということをしっかりと考えてつくられています。これからの電子書籍のお手本になるのではないでしょうか?

編集部コメント

フランス発の電子絵本。油断して読むと大火傷します(笑)。ギミックだけ見ればもっと優れたアプリもありますが、物語性をとことん追求した作りは群を抜いていました。

読者賞

『ブラックジャックによろしく』

著者:佐藤秀峰

読者賞 選評(読者コメント)

「原作も好きでしたが、無料ということで一気に読み返してしまいました」(東京都/43歳/女性)、「医療業界のことが詳しく書かれていて読み応えがあった」(北海道/28歳/男性)、「フリービジネスを漫画に取り込んだ先駆者。思い切った決断を評価したい」(神奈川県/38歳/男性)、「はじめて読みましたが痛く感動。息子にも読ませました」(大阪府/54歳/女性)、「医療マンガが好きで、この作品は“治療”とは何かを考えさせられた」(石川県/45歳/男性)

編集部コメント

業界に大きな波紋を起こしたものの、全話無料公開によって、はじめて作品を知ったという読者から多くの感想が寄せられました。作者の取り組み自体を評価するコメントもあり、後に続く作家がいるのか気になるところです。

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