【ダ・ヴィンチ2015年1月号】今月のプラチナ本は『サラバ!』(上・下)

今月のプラチナ本

更新日:2014/12/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『サラバ!』(上・下)西 加奈子

●あらすじ●

1977年5月、圷歩(あくつあゆむ)はイランで生まれた─彼をこの世界で待っていたのは、父、母、そして相当におかしな4歳上の姉だった。彼女が起こしていく衝撃的な行動に、息を潜めるように生きていく歩。イラン革命の後しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、エジプトへ向かう。そこで起きた、後の人生に大きな影響を与える、ある出来事。そしてそこから姉は……。中庸であることに徹してきた歩は、黄金期から真っ逆さまに突き落とされた途端、30歳を過ぎて何ひとつ手にしていないことに気づく──。

にし・かなこ●1977年5月テヘラン生まれ、カイロ・大阪育ち。関西大学法学部卒業。東京在住。『ぴあ』のライターを経て、2004年に『あおい』でデビュー。05年、『さくら』がベストセラーに。『通天閣』で織田作之助賞受賞。『ふくわらい』で河合隼雄物語賞受賞。ほかに『きいろいゾウ』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』など著書多数。。

小学館 1600円(税別)
写真=首藤幹夫 
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編集部寸評

 

物語というものの力を思い知る、稀有な経験

西加奈子はすごい作家だったが、本作でもう一段階すごくなった。ものすごい。子どものような表現で恐縮だが、素直にそう思った。破壊的な言動とルックスの姉を前に、何事もうまくやれる男として生きてきた“僕”は、30歳を過ぎて初めて“転落”することになる。そしてそこからどうやって生きていくのか。エジプトで触れた“神”や“信仰”というものを、感じながら、呑みこみながら、自分が信じるものを探していくことになる。本書が素晴らしいのは、そうした思索を深いところにはらみながらも、圧倒的な勢いで物語が進んでいくから。姉を筆頭に、それぞれに濃密な物語を抱えた人物たちが次々に現れては読者を惹きつけ、“僕”と読者の前に大切な言葉をこぼしていく。人は物語を通して、世界を知り、生きる術を知ることができる。そんな稀有な体験が、あなたを待っている。

関口靖彦 本誌編集長。ぶ厚い上下巻ですが、勢いと密度がすごいので、まったく長く感じませんでした。「EDIT LIFE TOKYO」での西加奈子絵画展「サラバ!」も観てきました。絵も本当に素晴らしいです!

 

西加奈子の10年分が詰まった人生小説

上下巻計700超ページの大ボリューム。にもかかわらず、本当に一気読みだった。これまで西さんの小説を読んできた者として、それらのエッセンスが絶妙に盛り込まれた本作は、ある意味懐かしくもあり、また新たな発見を数多くもたらしてくれた。歩、貴子、おかあさん、おとうさん、親戚のおばさんたち、圷一家やその親戚の人たちがみんな身近で愛おしくて、ときに笑いときに涙しながら、彼らの行く末を見守った。生きていくということは本当に何があるかわかない、でもだからこそ、一歩一歩自分の足で踏みしめながら、自分で選びとりながら、前に進まなくてはいけないのだ。そんな覚悟を促す小説でもあった。執筆中、西さんに訪れたという不思議な瞬間は、読み手であるあなたにもきっと訪れる。今まで体験したことのない読書をしてみたいと思ったら、迷わず手に取るべき本である。

稲子美砂 阿部和重さんと伊坂幸太郎さんの合作小説『キャプテンサンダーボルト』がおもしろいです。凝縮の極上エンタテイメント! お二人の強気なインタビューも爆笑必至。ぜひお読みください

 

これからも西加奈子を信じてついて行こう

9年前に『さくら』を読んだとき、自分の内の深いところから涙があふれだして絞りだすように泣いたのを覚えている。彼らと一緒に濃密な体験を共有し、ぐったりと心地よく疲れた。物語ってすごい。西加奈子はすごい。心から感動した。本書を読んで、あのときの衝撃をまた思い出した。今の自分が、またこんな感覚を味わえるなんて。こんなに揺さぶられるなんて。すごい。やっぱり西加奈子はすごい。西さんはプロットを書かずに小説を書くそうだ。これほどの長編を、登場人物たちと、物語と寄り添い、一歩一歩進むことは、とてもしんどいだろう。それでもきっとできると信じてくらいついて、一文字一文字書き綴る行為は、西加奈子の祈りなのだと思う。そして、本作では西加奈子の覚悟も感じた。迷っても、躓いても、それでもどんなときも、左足を踏み出して、私も歩いていかねば。

服部美穂ほしよりこさんのマンガ『逢沢りく』も傑作。ほしさんも西さんもずっと変わらず「物語」を通して感動を与えてくれる。それを届けるお手伝いをする我々もがんばらねば。喝を入れて頂きました

 

信じて、生きる!

上下巻700ページ超えの長編だが、時間を忘れて一気に読んだ。終盤に近づき、物語はさらに加速し、本書のメッセージが色濃く浮き出てくる。そのパワーに圧倒された。家族に翻弄されてきた歩の半生は一見不幸に見えるが、実はたくさんの愛に包まれている。ヤコブとの友情、矢田のおばちゃんの優しさ、須玖と過ごした大切な時間。それらの出会いこそが奇跡なのだ。もがきながら自分の答えにたどり着いた歩に、しみじみと胸が熱くなった。この小説に出会えて、本当によかった。

重信裕加 先日『夜会』を観劇しました。壮大なストーリーと演出は今回も圧巻。中島みゆきさんの歌に、また力をいただきました

 

「強い人」たちの物語

下巻の帯文にある「お前は、いったい、誰なんだ」という一文。自分と向き合うことを厭わない、もしくはせざるを得ない人は、繊細で誠実で、そしてきっと強い人だろう。圷家の人々はそろいもそろってそんな人たちで、物語を読み進めるのがつらかったし、歩が、進むべき道の入口に立とうとしているところを見て、心から安堵した。個人的には上巻のイラン、そしてエジプトでの描写が、匂いさえ感じられそうにリアルで、わくわくしながら読んだ。心の、ではなくて現実の旅がしたくなった。

鎌野静華 Jリーガーにお話を伺う。10歳以上も若い選手だったけど、信念と覚悟、第一線で活躍することの特別さに震えが!

 

信じること、うごめくパワー

下巻、東京でライターとして成功していく歩。だが、彼はやがて「変わって」しまう。そこからの状況は、物理的な困窮ではないが精神的にはかなりしんどい。主人公で語り手の彼の、自意識と自己愛の側面が暴かれていく。怒涛の最終章で「恐ろしいほどかき乱」される歩。読者の私も同じだった。信じるとはどういうことか──それも盲目的にではなく──、一度解体されてまた積み上げられる。大変恐ろしい、パワーを感じる圧倒的な物語だった。読み終えて、凄い、凄い、と思わずつぶやいた。

岩橋真実 『プラトニック・プラネッツ』の雪舟えまさんに新聞の取材を受けていただきました。メルマガではBL小説などを連載中

 

人生の順番待ち

ルックスも頭もいい主人公の歩は、とにかくモテる。たいした努力もなしに腹立たしいくらいモテるから、年をとってからの躓き方も半端でない。反対に姉の貴子は若くして負の感情をフルコースで味わうも、徐々に世界を手繰り寄せていく。リアルでもフィクションでも、短い時間を切り取るとそこには優劣みたいなものがどうしても見え隠れするが、本作は歩と周辺の再生と崩壊をありのまま見せてくれる。歩の俗っぽさには多くの人が共感するはずで、若い人はぐらぐらと考えてしまうだろう。

川戸崇央 ウンウンうなりながら夜中に一人でウイスキーを飲んでいると、産地の景色が脳裏に広がる。嘘じゃないんだよ

 

まさに「圧巻」の上下巻!

圧倒的。上巻から「これから何がおこるの?」というザワついた高揚感たっぷりで、下巻ではページをめくるスピードがさらに増す。自己愛にガチガチに囚われていた主人公の「信じるものを自分で見つける」もがきっぷりに、その難しさが胸を刺し、さらに生きることへの情熱、痛みを感じさせられながらも、最後には爽快。西加奈子さんの作品は、なんてパワーがあって輝いているのか。本を読むことで、心が思いっきり引っ張られて、興奮して。「ああ、面白かったなあ」って、こういうことだ。

村井有紀子 今号特集担当し、もう年末か〜などと思いながら……チャンピオンズリーグを観にドイツへ行ってまいります……!

 

こんな凄い小説が読める幸福

この本について書こうと思うとどうしても自分について書くことになる。歩の人生は、途中までは気恥ずかしさを覚えるほど順風満帆だ。器用に要領良く生きているつもりの歩の心情が数年前の自分とぴったりと重なり苦しいほど恥ずかしい。そして人生を見失い転落の一途を辿る姿もまた自分と重なる。もしかしたら読んだ人の多くが同じように感じるのかもしれない。優れた小説とは否が応にも人物とシンクロさせてしまう力強さがあるのだろう。西加奈子の最高傑作をぜひ手にしてほしい。

佐藤正海 編集部に入れていただきそろそろ半年。今一番の願いは来年もクビにならずこちらの編集部で働くことです。マジです

 

圧倒的というほかない

派手な装丁と分厚い上下巻で重厚な印象を与える本作だが、ページを繰っていれば、読み終えるまでは正に一瞬。主人公・歩の人生における要領の良さと、壮絶な凋落。程度の差はあれど、ここに自分を重ねてしまうのは私だけではないだろう。人生というものの深淵を凝視させられる感覚に陥った。端的に言えば「自分探し」の物語だが、それをこうも圧倒的な、言葉の羅列であることを疑いたくなるほどの迫力で、書けるものだろうか。まさに一年を締めくくるに相応しい本。感服です。

鈴木塁斗 特集担当。頑張って作りましたので、年の瀬にゆったり読んでいただけると嬉しいです。年末が楽しみ。良いお年を!

 

過去のプラチナ本が収録された本棚はコチラ

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