【ダ・ヴィンチ2015年3月号】今月のプラチナ本は『聲の形』(全7巻)

今月のプラチナ本

更新日:2015/2/9

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『聲の形』(全7巻)大今良時

●あらすじ●

耳の聞こえる少年・石田将也と、耳の聞こえない少女・西宮硝子。二人は運命的に出会い、将也は硝子をいじめた。やがて自分へとターゲットを変えたいじめに、身も心もボロボロになった将也は、高校生になり、もう一度硝子に会いに行こうと決意する。謝罪をし、罰を受けた後に、死を選ぼうと心に決めていた将也の口から飛び出したのは、「俺とお前 友達に…なれるか?」という言葉だった─。思春期の中で、それぞれに罪の意識を抱えてもがく少年少女たちを、瑞々しい筆致と途轍もない迫力で描きだす、贖罪と、愛と、青春の物語。

おおいま・よしとき●1989年3月15日生まれ。第80回週刊少年マガジン新人漫画賞入選。2009年『マルドゥック・スクランブル』(原作冲方丁、全7巻)で連載デビュー。13年より「週刊少年マガジン」にて『聲の形』を連載開始。14年に連載終了と同時にアニメ化が発表された。

講談社少年マガジンKC 各429円(税別)
写真=首藤幹夫 
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編集部寸評

 

とりかえしのつかないことを、とりかえす

読んでいる間、ずっと胸が痛い。それでも読むのを止められない。そんなマンガだった。いじめている側がいじめられる側になり、さっきまで笑い合っていたのに泣きながら別れていく。10代のころは“自分の居場所”が本当に不安定で、本作を読んでいるとあのヒリヒリした感覚がよみがえってつらくなる。それでも読み進めてしまうのは、不安定だからこそ、やり直せるからなのだと思った。もちろん、そのためにはものすごく勇気が要るし、悩みに悩み抜いて、言葉を尽くして、ここぞという時には全力で走って、何かを突破しなくてはならない。でも、やり直せる。とりかえしのつかないことをしてしまった、と絶望する夜があっても、まだとりかえせるのだ。まざまざとそう感じさせてくれる本作は、失敗と後悔と、その果ての成長を繰り返すすべての人にとって、一生大切な作品になるはずだ。

関口靖彦 本誌編集長。この作品を“きれいごと”にせず、まっすぐに読者の胸を刺すように仕上げるには、著者と編集者の大変な苦労と工夫があったことと思います。ぜひ読んでみてください

 

取り戻したい気持ちに胸が熱くなる

誰しも時間を巻き戻せたらと、自分の犯した過ちを悔いることがある。しかし、どうやっても時間は戻せない。そんなとき人はどうするのだろう。石田将也は自分のいじめのせいで失われた、西宮硝子の幸せな小学校時代をなんとか取り戻せないかと必死に奔走する。人生に絶望し、死ぬことも覚悟した将也だからこその決意。胸が熱くなるシーンがたくさんあった。小学校時代、硝子は将也の負の衝動を全身で受け止めながら、どんどん孤独に陥っていく将也の苦しみを理解していた。彼女から指し出された手は言葉の代わりだったのだ。だからこそ、高校生になった将也が彼女を探し、再会が叶ったときに彼の手をしっかりと握り返してくれたのだと思う。耳が聞こえても言葉が話せても、人間関係はままならない。そんな世界の中で、強く思い続けることの尊さを信じられる、著者渾身のコミック。

稲子美砂 辻村深月さんが『ハケンアニメ!』の番外編としてブルトの企画部長・逢里哲哉の物語を本誌「ちょっと一服ひろば」に寄稿。仕事してる人なら絶対に勇気づけられるお話。WEBで続きもぜひ!

 

学校は社会の縮図。人間の業を感じる渾身の作品

聴覚障害者の少女・西宮硝子と、健常者の少年・石田将也。彼らを軸に、小学生時代、いじめられっ子といじめっ子だった二人が成人するまでを描いた本作。最初は、将也の視点からだけ描かれているので、いじめる側からいじめられる側になった将也の贖罪の道のりを辿っていくのだが、6巻以降、二人の周囲のキャラクターそれぞれの視点でも描かれていくことで、物語が一気に加速する。本作は少年マンガだが、大人が読んだとき、少年時代、青春時代を振り返り、郷愁を感じるだけの物語でも、「障害」「いじめ」というテーマをあらためて考える話でもない。ここには、そういった問題によって揺さぶり起こされてしまう我々人間の本性が丹念に描かれている。他人の気持ちをわかることは難しい。それでも、時に傷つけ合っても関わり生きようとすることの尊さをひりひりと感じる作品だ。

服部美穂 特集「柳広司の世界」の柳広司さんと結城役の伊勢谷友介さんの対談がものすごく面白かったです! 映画『ジョーカー・ゲーム』は、原作ファン、結城ファンにとっても納得のキャスティング!!

 

壊してしまったものを取り戻す力

声を聞き、耳を傾けても、心を交わすことは案外難しい。主人公の将也は、小学生の頃に耳の聞こえない転校生の硝子をいじめたことがきっかけで、友達を失い、自ら孤立を選ぶようになる。5年後、将也が、人生の最後に硝子に会う決意をするところから物語は始まるのだが、思春期特有の痛みや辛さ、はがゆさに、胸が苦しくなった。気持ちを上手く伝えられずに悩むのは、大人だって同じだ。だからこそ、今と向き合い、悩み、熱くぶつかりあう彼らの姿が眩しいのだ。

重信裕加 ガンガーラ田津美さんとライターIさんの誕生会へ。餃子バースデーケーキに感激、食わず嫌いだった餃子にハマってます

 

辛いけど読んでほしい

聴覚に障害がある硝子、小学生のときに硝子をいじめていた将也。この物語は、将也の贖罪の物語だと思っていた。でも読み進めていくうちに、物語は2人を中心に、どんどん関係者が増えていく。関係者が増えていくたびに、“過去のいじめ”の意味が何重にもなって、別の問題提起がされていく。完全に被害者であろう硝子にさえ、加害者の側面を与える物語の構図に驚いた。ひとつの事柄に対して、人の数だけ見方がある。そんな当たり前だけど忘れがちなことを思い出させてくれた。

鎌野静華 2月13日発売、土屋礼央さんの新刊はFC東京サポーター必読! 本屋さんで武藤選手のオビを探してください!

 

誠実な作品

過去を償おうとする将也。その想いは不思議なほどまっすぐだ。でもけして綺麗事にまとまっているのではなく、いろんな葛藤が等身大で迫ってくる。深く悩み、でも逃げずに思いを巡らせ、惑いながらもちゃんと向き合おうとする。過去と向き合うことで、未来を作ろうとしていく。器用に「正解」を掴めたりはしないけれど、それはとても尊い姿に思えた。密度も凄い作品なので、全7巻、じっくりと読むことをオススメします。個人的には6巻の硝子視点の描写がとてつもない凄みと思いました。

岩橋真実 「あした笑顔になれるお仕事エンタメ」MF文庫ダ・ヴィンチMEW2月25日4冊発売。書き下ろし文庫新シリーズです

 

食わず嫌いにつけるクスリ

伝えたい! 強い動機を感じるマンガだ。読み切りの掲載から連載開始まで紆余曲折があったそうだが、そこから週刊連載での完結を成し遂げた作者と関係者の熱意が、ここまで作品を押し上げたのだろう。2013年の連載開始時に雑誌で第一話を読んだときは、自分はマンガを読んで大人になったんだなぁ、としみじみ思ったのに、完結した作品をいま改めて読み通すと、自分の中に子供時代と変わらぬ青くさい塊を発見した。マンガという枠を超えて多くの人に読んでほしい、生きた作品だ。

川戸崇央 江夏豊氏の単行本『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』が2月6日発売。今年阪神のコーチに就任した同氏の激白です

 

青春期のあの「感じ」再び

葛藤、ざらつきなど、青春期特有のあの「感じ」を、見事に表現しているのが一巻。割り切れなくて、あがいていて、「しんどかった」当時の気持ちを、読み手に真っ向から回顧させる。しかし紆余曲折を経ながらも、硝子と心通わせていく主人公の成長過程と共に、読む側も心が解き放たれていくようでもあり。大人になるにつれ、悩んでいた人との付き合い方も変わるもんだと思った経験があるが、大人になるまでそれは分からない。だから本書は主人公と同世代の誰かの救いにもなると思った。

村井有紀子 車で横浜へ。地元・神戸の街にどこか似ていて、とてもテンションが上がりました。ああ癒された〜ので仕事します

 

衝撃の問題作の結び方

初回の雑誌掲載時、もの凄いニュースになったことをよく覚えている。扱う題材と多くの人の目に触れることを考えたら当然だろう。かつてマンガ雑誌の編集者だった時、上司にタイトルが「まずい」と言われ、たいした覚悟も思い入れも無かった私はあっさりと受け入れてしまった。小さな抗議が炎上し会社を飲み込むこの時代に、リスクを考えるのは当然だ。しかしあらゆる事態を想定し、全て引き受ける覚悟と思いを作家と編集者に呼び起こした、素晴らしい作品の力に心から賞賛を贈りたい。

佐藤正海 あれだけあった仕事のアイデアも年とともに枯渇していく。いや、そもそも自分にアイデアなど無かったのかも知れない

 

つらい過去を直視し、可能性をひらく

こんなにも心が痛み、かつ救われるマンガがかつてあっただろうか。いじめ、子育て、恋愛、そして障害。大人も子供も、全てのキャラクターがやりきれない思いを抱え、ひたすらにもがく。過去を見つめ、それを涙ながらに飲み下して前に進んでゆく、美しい人間の姿。それが、ただただ克明に描かれている。「失敗しても、やり直せる。」現代社会の中で、ここまで真っ直ぐなメッセージを伝えてくれた、この作品に感謝したい。台詞のないラスト4ページだけをずっと眺めてしまいました。必読。

鈴木塁斗 次マン特集担当。絵日記サイトを続けていた友人の某誌での連載デビューを知り、尚更WEBマンガの新たな可能性を痛感

 

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