【ダ・ヴィンチ2015年4月号】今月のプラチナ本は『透明カメレオン』

今月のプラチナ本

更新日:2015/3/9

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『透明カメレオン』道尾秀介

●あらすじ●

ラジオパーソナリティとして密かな人気を誇る桐畑恭太郎は、美声の割に風貌が冴えないというコンプレックスの持ち主。今夜も、いきつけのバー「if」で仲間たちと仲良く過ごす平凡な毎日を、面白おかしい話につくり変えて、リスナーに届ける。ある雨の日、恭太郎は、店に迷い込んできたびしょ濡れの美女、三梶恵に一目惚れしてしまう。自分の気持ちを伝えられない恭太郎は、常連仲間たちに頼み込んで一芝居打つが……。ミステリーの俊英、道尾秀介が、作家生活10周年を記念し満を持して世に送り出す、渾身のエンターテインメント!

みちお・しゅうすけ●1975年生まれ。東京都出身。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。以降、『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、『カラスの親指』で第62回日本推理作家協会賞、『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞、『月と蟹』で第144回直木賞と受賞多数。近作に『貘の檻』。

KADOKAWA 角川書店 1700円(税別)
写真=首藤幹夫
撮影協力=CHEROKEE
advertisement

編集部寸評

 

本とラジオ、それぞれの「語り」の魅力が満載

本とラジオは似ているな、と思う。文章とトークという違いはあれど、どちらも言葉で人を楽しませる。楽しませるためなら、嘘もつく。そんな嘘=物語によって、人は活力をもらうことができる。ラジオのパーソナリティ恭太郎を主人公に据えた本書には、まさに「語り」の魅力がたっぷり。恭太郎行きつけのバーに集まる人々の「語り」、そこで恭太郎が出会った恵という女性が、常連客たちを巻き込む「語り」、そして恭太郎がバーでの見聞をもとにふくらませたラジオでの「語り」─コミカルなやりとりとメロウなムードが自在に折り重ねられ、さらにアクションまで盛り込まれるさまは、さすが道尾作品! 笑顔の人は、単なる能天気ではなく、それぞれの痛みや孤独感を抱えたうえで、だからこそ笑いたい/人を笑わせたいと思っている。読後、そんな確信が胸をあたためてくれる一冊だ。

関口靖彦 本誌編集長。私もラジオ番組で本をおすすめする機会が時折ありますが、「聴いたよ」「読んでみたよ」という熱い反応が多い気がします。本好きとラジオ好きが重なっていることを実感

 

まさにエンターテインメントなミステリー

作家10周年記念作、「初めて読者のために書きました」という著者コメントにワクワクしながら読んだ。主人公・桐畑恭太郎の人柄を彷彿とさせるような優しい語り口。ラジオのパーソナリティという彼の職業を活かした構成と挿入されるエピソードの数々もユニークで、恭太郎を取り巻く、バー「if」の面々とのフランクなやりとりも楽しい。コメディのようなシーンもあって軽快なテンポで読み進めると、終盤、不意をつかれる。そこで気づく伏線。ミステリーとして考えぬかれた秀作であるだけでなく、さまざまな優しさに裏打ちされた感動作に仕上げた手腕に改めて脱帽した。タイトル、キャラクター設定、文体、構成など、10周年という節目にむけて練り上げられた大盤振る舞いのエンターテインメント、恭太郎という人物に込められた道尾さんからのメッセージとともに、多くの人に堪能してほしい。

稲子美砂 MF文庫ダ・ヴィンチの新シリーズとしてMEWがスタート。『忍者だけど、OLやってます』『東京暗闇いらっしゃいませ』を担当。編集しながら、読者としても楽しんだラブコメ2作です

 

トリック=嘘の力を借りることの真意とは

昔から声の素敵な男性に弱い私は、声から入って男の人を好きになることが多い。だから、主人公の恭太郎がその美声に反して冴えない外見を持つ自分にコンプレックスを抱いているのが実は不思議だった。ちょっと冴えないぐらいどうということはない。加えてトークも面白いなら何もマイナス要素なんてないのに。だって美声なんだから! だから冒頭、恵に一目惚れした恭太郎が必死に彼女を騙そうとしている様子がどうにもじれったく、ほらだから変な殺害計画に巻き込まれる……下手な嘘なんてつかなきゃいいのに……と終始恭太郎に突っ込みまくり。なんだか目が離せない主人公にはらはらしているうちに、すっかり物語に没入してしまった。終盤、彼のそのじれったさが優しさゆえであることを知ったときはやられたと思った。惚れました。やっぱり声が素敵な男性にはいい男が多いのね。

服部美穂 本誌巻頭連載「アラーキーの裸ノ顔」をまとめた写真集『男』が3/25に発売! 役者、作家、スポーツ選手など200人以上の男の裸ノ顔、ご堪能ください!! GWには展覧会も開催。詳細は次号!

 

言葉が伝えるもの

見えるものしか見えなくなってしまったのは、いつの頃からだろう」。主人公の恭太郎が子どもの頃に見た透明なカメレオンの記憶ととともにこぼれ落ちた言葉だが、この物語には見えない優しい噓も随所にちりばめられている。恭太郎が自分のラジオ番組で話す、行きつけのバーの仲間や自身のエピソードなどの愉快な噓もそのひとつ。作中の言葉遊びも楽しめた。後半からうねりを見せる事件の謎、そしてまさかの結末。ジャンルを越えて「言葉の力」を描いた著者の渾身の一冊。胸に響きます。

重信裕加 気がつくとあっという間に3月。6年ぶりに自宅の引っ越しを考えているこの頃。いろいろとデトックスします!

 

ミステリーだけど泣ける!

傷つきやすく、やさしい人たちの物語だった。ミステリー作品なんだけど、読後はなんだか泣ける家族小説を読んだような、胸がいっぱいになる感じ。そして主人公・恭太郎の設定がいい。冴えない容姿と“特殊な”声の持ち主。物語のなかで、彼はそのギャップによって人々から傷つけられているけれど、やさしい大人たちの中で傷を癒し、そして今度は自ら知り合った女性の傷を察知し癒そうと試みる。そんな恭太郎の心の再生が、ミステリーとともに描かれていて、読み応えは抜群だった。

鎌野静華 3月6日発売、ほしのゆみさんのコミックエッセイ『やせたいっ!』はダイエット女子あるあるが満載です。ぜひ!

 

かたること、そして願うこと

自分や周りの出来事を、脚色を加え番組で話す恭太郎。彼にとっては語ることが騙ること。コンプレックスをもつ彼は、「かたる」ことが恢復の手段だった。読み進めるにつれ、そのかたることの力が、登場人物みなに関わっていることが明かされる。願うことで、世界の見え方が変わる。登場人物も、読者も。本書はやがて、文体など物語のありかたそのものが、主人公・恭太郎の想いと共鳴する。最後まで目を離さずこの一冊に伴走してみてほしい。ラストシーンはほんとうに、とてつもなく美しい。

岩橋真実 「あした笑顔になれるお仕事エンタメ」MF文庫ダ・ヴィンチMEW発売! 『むすめと!ソラリーマン』は3月13日発売です

 

世界を救うのは嘘かもしれない

小学生の頃、車中で福山雅治さんのラジオを聞いた。「これほど巧みに下ネタを操るのは、サングラスをかけたスケベなオヤジに違いない」と確信し、後日テレビを見て愕然とした記憶がある。容姿こそかけ離れているが、桐畑もラジオパーソナリティとしてリスナーの聴覚を刺激し、世界観を作り上げるプロだ。彼がリズミカルに紡ぐ言葉はリスナーを楽しませるために洗練され、“優しい嘘”が満ち足りた一時を演出する。やがてそれは世界にこぼれ落ち、新たな嘘を生む。痛快かつ能弁な傑作!

川戸崇央 乃木坂46のバラエティ担当・高山一実さんの新連載がスタート。若年層に人気の乃木坂が出版業界のあれこれを体験します

 

本好きな読者へのプレゼント

登場人物がそろって、皆とても魅力的。主人公と彼を取り巻く人、彼を巻き込む人との会話に思わずクスリと笑ってしまうこと多数、コミカルさも満載。それでいてスリリングな展開に、終盤はページをめくる手がとまらなくなり。何より私はラスト数ページに、胸がぎゅっと締め付けられて……いやもう、すっかりヤラれてしまいました。今作では著者はエンターテインメントに徹されたとのこと。それがぎゅっと詰め込まれている、小説が好きな読者への、プレゼントのような一冊だと思います。

村井有紀子 温泉旅館へ。美味しいごはんって素敵〜と、特集担当しつつ文庫も作りつつ、編集者も休んでますのでご安心を(P. 46参照)

 

騙される快楽に浸れる小説

著者が初めて読者のために書いた作品と聞いて、少し背筋を正して読み始める。果たしてミステリーの皿の上に、恋も友情も家族の絆も、美しく盛られた極上のエンタメ小説に仕上がっていた。気負いを感じさせない洒脱な文章は読みやすく、簡単にミチオワールドへと引き込まれてしまうのだが、抜け出ることは容易ではない。なぜなら裏をかかれて悔しくて読み返しているうちに、はまってしまうからだ。著者の思う壺だと思うが騙される快感がくせになる。次はもっともっと巧妙に騙されたい。

佐藤正海 来月、というか今月、新社屋へお引越し。10ヶ月しかお世話にならなかったけど、このオフィスが好き過ぎて辛い

 

こんなにもやさしい嘘がこの世にはある

前半、主人公・恭太郎の煮え切らなさにやきもきさせられるのだが、終盤の伏線回収とともに、物語が一気に収束していく様は、まさにミステリーの王道。しかし何より、そこで明かされるトリックに込められた「人間の優しさ」に、言葉が出なかった。人を惑わせ、驚かせる。そんな自分の中のミステリー観を覆されたと言ってもいい。エピソードが暗いものだとしても、読み終えたとき胸に残るのは、静かな感動。そんな不思議な道尾秀介作品の魅力が、かつてない密度で詰め込まれている一冊。

鈴木塁斗 今月のコミックDVは『楽園』特集。超豪華作家陣の描き下ろしイラストは必見です。夜中の編集部で一人叫びました

 

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif