末次由紀 Interview long Version 2011年2月号

インタビューロングバージョン

更新日:2013/8/19

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ちはやふる書影B

『ちはやふる』末次由紀
インタビューロングバージョン

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ダ・ヴィンチ2011年2月号特集「きみに恋する百人一首」に掲載の、『ちはやふる』末次由紀さんのインタビューのロングバージョンをお届けします。本誌とあわせてぜひお楽しみください。

構成・文=阿部花恵

インタビューロングバージョン
読まれた瞬間に千年前とつながる
歌から読み解く『ちはやふる』の世界

一般の人には馴染みが薄かった競技かるたの世界を真正面から描き、少女マンガの枠を越えて大ヒット連載中の『ちはやふる』。作中では“畳の上の格闘技”としての競技かるたが描かれる一方で、和歌の持つ魅力についても随所で語られている。かるたとして、和歌として、百人一首がこんなにも長い間親しまれてきた理由を、作者の末次由紀さんはどう考えているのだろう。

「歌の良さはもちろん、やはり遊技としてのオリジナリティがあったからではないでしょうか。勉強として歌の意味を学ぶ前に、なぜか暗記させられている、という順序での浸透は、日本語の感性の基本にもなっている気がします

作中では登場人物たちの心情・状況に重ねて、恋愛含め、さまざまな思いの歌にもスポットが当てられる。ちなみに、末次さんが百人一首の中で一番お好きな歌は?

「意味が好きなのは『逢ひみての 後の心にくらぶれば 昔はものを 思はざりけり』。知ってしまった前と後では、細胞が全部入れ替わるような思いがする—生きていれば何度か経験することですが、その瞬間を文字で表現してくれている歌は稀だと思います」

最新11巻に登場する「男女、体格、年齢、知性、体力の別なく、読まれた瞬間に千年まえとつながる」という内容は、まさに歌そのものの魅力の核を捉えた表現に思える。

「これは、競技かるたの試合を沢山取材させていただく中で、いろんな選手の皆さんに話を聞かせていただいて、だんだんとたどり着いた思いです。こんなにも広がりのある競技があるんだ!という私が感じた不思議さを、競技かるたを知らない人にも伝えていきたくて」

不思議さを、驚きを、喜怒哀楽を。自分の胸に渦巻くものを伝えたいという表現衝動は、あらゆる創作物に共通する思いだろう。けれど、衝動だけでは感動は伝わらない。9巻で語られる「『伝える』『伝わる』はルールの向こう」というセリフは、やはり末次さんがマンガを描く上でも日々実感していることなのだろうか。

「とても強く実感します。伝わるように伝えないと、いくら思いがあっても仕方がなく、空回りするだけなので……。誰かの胸にちゃんと降りていくように『表現する』にはどうしたら?というのは、ずっと取っ組み合っていく命題だと思っています。かるたの試合シーンを描くときも、何をしているかわかりやすく、という点はいつも心がけています。ですが、微妙なプレーも沢山あるので、表現するのはいつもとても難しいですね。まだまだ研究中です

最新11巻ではタイトルである「ちはやふる」の奥深い意味も初めて明らかに。百首もある歌の中から、「千早振る 神代もきかず龍田川 から紅に 水くくるとは」の歌にちなんだタイトルをつけた理由とは?

「意味のわかりづらい枕詞の“ちはやふる(ちはやぶる)”ですが、だからこそ印象深い言葉として、私の脳みその“不思議な響きの棚”に入っていました。百人一首のマンガを描くことなったとき、迷わずこの歌をタイトルに選びましたが、間違っていなかったと思います。“勢いの強いさま”という“ちはやふる”の本当の意味を、千早が知り表現していく物語なのだと思います」

『BE・LOVE』(講談社)での本誌連載では千早たちにとって2度目の全国大会が開幕。今後の展開にもますます期待が高まる。

「2度目の全国大会は描きたいことがあんまり沢山あって、どうやったら読む人に負担にならない冊数で終われるんだろう、と長さの心配ばかりしてしまいます。それでもぜひ描いてみたいのは、団体戦の苛烈な勝負と、個人戦の珍しくも熱い対戦です。いろんな“強さ”を描いていきたいと思っています」


プロフィール

すえつぐ・ゆき●福岡県生まれ。1992年、「なかよし」にて『太陽ロマンス』でデビュー。2007年から『BE・LOVE』で競技かるたを題材にした『ちはやふる』の連載をスタート。同作で09年に第2回マンガ大賞、宝島社「このマンガがすごい!2010」オンナ編第1位を獲得。

著者紹介
ちはやふる書影A

『ちはやふる』(1〜11巻)
末次由紀 講談社BE・LOVE KC 各429円(1・2巻)、各440円(3〜11巻)