今月のプラチナ本 2012年2月号『シティライツ』(1巻) 大橋裕之

今月のプラチナ本

更新日:2012/1/6

シティライツ(1) (モーニング KC)

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:大橋裕之 価格:596円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『シティライツ』(1巻)

●あらすじ●

得意なものが何ひとつない、さえない会社員の岡田くん。超能力を使えない、超能力研究部員の女子高生3人組。真面目で優しいのにクラスに全く馴染めない、顔が怖い小山内くん。友達のいない、小学2年生のハジメくん。秘密の趣味しか楽しみがない、フリーターの谷崎ゆう子……。平凡で、滑稽で、どこか哀しい人間たちのささやかな日々。注目の“ネオ哀愁型漫画家”大橋裕之が贈る、哀しいけど笑えて、心に染みるショートストーリー集。巻末には、大橋裕之と坂本慎太郎(ゆらゆら帝国)の対談記事も収録。

おおはし・ひろゆき●1980年生まれ。愛知県出身。2005年、自費出版活動開始。2007年、『QuickJapan』にて商業誌デビュー。10年に『モーニング・ツー』で『シティライツ』の連載をスタート。著書に『音楽と漫画』『シティライツ』(1巻)がある。

講談社モーニングKC 570円
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

哀しくて心地いい抒情性マンガ

音楽のようなマンガだと思う。淡々とした歌詞はスタイリッシュでユーモラスで、でもメロディラインは切なくて、やさしい。音楽的だから、面白いと思うかどうかは、読む人の肌に合うかどうかで分かれるだろう。僕の肌にはぴたりと合った。一方で、文学作品のようなマンガだとも思う。宮沢賢治+伊坂幸太郎+中崎タツヤ÷3、といったところか。詩のように抒情的で、かつ、小説のような物語性も併せ持つ。文学的だから、世界の理不尽さと、同時に美しさをじんわり感じさせてくれる。最後に、どこにもないマンガだと思う。大橋裕之のオリジナルな世界観。キャラの眼のカタチも見たことない(笑)。いろいろ書いたけど、本書の魅力を言葉で説明するのは難しい。ただ「好きです」と言えばいいのかもしれない。好きです。大好きです。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。山岸凉子『日出処の天子』〈完全版〉2巻&3巻が12月22日に発売になりました。世紀の傑作をぜひ!

余韻が、いつまでも消えない

本を読むと、感情が揺さぶられる。その揺れ幅が大きいほど「泣ける!」「笑える!」「感動!」となるわけだが、この本の揺れ幅は決して大きくない。しかし余韻が長いのだ。じぃぃぃぃんと、揺れ幅は小さいが確かに揺れていて、その響きにこちらの心は共鳴しっぱなしである。それは大橋さんが、「泣ける!」とも「笑える!」ともつかない微細な心の揺れを、異様なまでに鋭い観察眼でとらえているからだと思う。思わぬ場面で、焼きたてパンのにおいを嗅いだときの気持ち。当ての外れた外出先で、ファミレスに寄るときの気持ち。まったくドラマチックじゃないかたちで、恋が破れたときの気持ち。そんな明文化できない心の揺れを、これ以上ない精度で描き出してしまう手腕に驚かされる。一読したら、二度と忘れられないマンガ。

関口靖彦 本誌編集長。先日、人生初のぎっくり腰に。これまで知らなかった腰痛の苦しみに触れ、世界の見え方が変わりました

日本人の縮図

些末なことに振り回されて、その日のことを考えるだけで精一杯な毎日を送っているので、『シティライツ』のエピソードは私にとってリアルすぎる。みんな地味で物静かで「気にしい」でささやか。でもちょっとしたあったかい言葉やラッキーな出来事や間抜けな勘違いで幸せになれて、1週間くらいは細々と生きていける。「なんで私たちって暗いのかな?」「みんなが明るすぎるのよ」って、北石器山高校の超能力研究部の村田育子はいうけれど、日本人の9割はそう感じているのでは?と思った。個人的に好きなキャラは、顔は怖いけれど親切な転校生の小山内くん。「決闘場所を神社じゃなくてパン工場横の空き地に変更して下さい」って絶妙!と、パン屋で3年間バイトしていた私は思いました。2巻でも彼の登場を期待しています。

稲子美砂 とても贅沢な悩みがあるのですが贅沢すぎて人に言えません。でもそれが本当に贅沢な悩みなのかも最近はわかりません

ダサいふりしてるけど実はポップ

超能力研究部の3人がいい。超能力を使えない暗いブサイクな女子たちは、超能力を使える美人をよく分からないまま勧誘したところ、「確かに私は超能力を使えるけど なんで超能力者の私が研究しなきゃいけないのよ?」と言い放たれ、唖然として我に帰るシーンとか、好きな男子から借りたCDと自分のCDがごちゃまぜになって焦る、とか。言葉にしたら、ただそれだけなんだけれど、若気の至り的な自分を思い出して、ちょっと心にしみつつ爆笑。この作品の良さは、このバランスにつきると思う。ちょっと懐かしく、恥ずかしく、バカっぽく、でも自尊心バリバリで。正直で格好つけで、ダサくてオタク。いろんな鎧をまとってみたけど、つまりはポップでおしゃれなんだよね。だって、ゆら帝の坂本氏が巻末の対談相手だもの。

岸本亜紀 一年の育児休暇から戻りました。『視えるんです。』がばななさんの新作小説の主人公の愛読書になっていて嬉しい!

読み手の心の深奥を写すマンガ

まず、この絵にやられた。登場人物たちのこの目。こちらを見透かしているようで、実は何も映っていないような。ときに哀しく、ときにおかしく、そしてこのゆるさに油断したところに、ついうっかり感動してうるっときてしまったり。もしかしてここにはすごいことが、何か答えのようなものが描かれているのではないかと、姿勢を正して読んでみたら、神様にあの目で「知らねえよ」と言われてしまった。大橋裕之、要注目。

服部美穂弊誌連載をまとめた『原発と祈り』絶賛発売中! 同時期刊行の橋口いくよさん『猛烈に!アロハ萌え』も面白いですよ!

優しくお洒落なオオハシの罠

シンプルな線で描かれる突発的な展開、シニカルで切ない物語と人々―どうにも掴みどころのないオオハシ作品だが、著者は読者の心の隙を的確に射撃する凄腕スナイパーだ。不条理な世界に油断していると、唐突にリアルを叩きつけられる。超能力を夢見る少女はUFOに石が当たった音に、スパイ学校の先生は友人の冷たい対応と生徒の優しさに、奇妙な痣を持つ少年は勇者の笑顔によって、そっとリアルに引き戻される。

似田貝大介 作家の黒史郎さんに薦められた『週刊オオハシ』という自主制作本が私のオオハシ初体験でした。こちらもオススメ

じわじわ〜と効いてくる

なんだろう、このじわじわくる感じ。くすっと笑えてちょっぴり切ない。そして登場人物たちが、みんなやさしいのだ。何も言わず何も求めず、小さなしあわせを望む。普通からは少しずれているけれど、彼らの生活はなんだか楽しそうだ。「俺 ミュージシャン志望なのに人前で歌うの苦手なんですよ」と恥ずかしそうに言う原くん。「オレたち まだまだだぜ」と笑う50も年上のしげるさん。じわじわ〜と効いてくる言葉もいい。

重信裕加 今月は5年ぶりのTEAM NACS総力特集です! 鈴井貴之『ダメ人間』も文庫化決定! 2月24日刊行予定です

暗くても女の子パワーは絶大!

北石器山高校超能力研究部の女の子3人組がおもしろい。へんてこなのにちゃんと女の子だから。好きな男の子に借りたCDを、自分の持っていたまったく同じCDとシャッフルして「もうどっちがどっちか分からない」って。そんな恋の楽しみ方する友達いなかった(笑)。似たもの同士で仲良くなって、好きな超能力の話で盛り上がって、恋愛に興味のないふりしながら好きな男の子にドキドキして。なんて楽しそうなの!

鎌野静華 自身の不摂生を棚にあげ、話題の酵素ジュースに手を出す。そして毎日の目覚めがよくなりますように、という無茶ぶり

可笑しくて、どこかさみしい

不思議なマンガだ。ものすごく含蓄があるような、そんなこと全くないような。よくわからない感情を刺激されまくる。笑えるのにさみしいでもそれが心地よい、そこにまた自分への嫌悪感がちょっと……とループ。凝ったボールの感じはしない。光の軌道のように、まっすぐだ。灯り自体に意識は無くても、見た人が和んだり、照らされた世界を羨んだり恨んだりすることもある。無意識のうち、誰かが誰かを照らしてることも。

岩橋真実 『幽』16号が12月16日に発売になりました。表紙の人形造形、怖いという声もありますが見慣れると超可愛いですよ!

愛すべきトホホな人たち

トホホでしみじみ悲しい笑いが間断なくこぼれた。メインストリームに乗らない人たちの物語は数あるが、こんなにハズレた人たちの物語はそうはあるまい。♯10の主人公の奇妙なアザが「プ」なんて、悲しすぎて笑うしかない。表紙に書かれた著者のポジティブなんだかネガティブなんだかわからない文章もまたいい。そして、Uの字を重ねたような目も読めば読むほど癖になって不思議に登場人物たちの人間味も増してくる。

千葉美如 峰なゆか『アラサーちゃん』3刷出来。快進撃がとまりません! 私もあやかって今年1年はがんばりたい。いろいろと

次世代の“職人系マンガ”

この作品、というより大橋裕之の世界観を表現するなら「哀愁漂うお洒落ギャグ」。下手に酒を呑みながら読むと切なさがこみあげ、心に余裕があるときに読むとフフリと笑える。読者の心のバロメーターを推し量る本作は「読者は選ぶが、人に薦めやすい」一冊。キャラの目が特徴的な絵柄も、語り過ぎずに読ませるネームも、読者の姿を想像して作りこまれているから、作品を通して大橋とつながっている感じがするのだ。

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ひとりでクスクス浸りたい

ジワジワ笑えて病みつきに。何度も読み返したくなる、不思議な力を持つギャグマンガ。終始低~いテンションの中、登場人物たちは、微かな希望を見つけていきますが、これがまたぼんやりしていて「笑えるか笑えないか」どっちに転ぶかは読み手次第。私は“良い心地”にさせてもらいました。なぜか「しばらくひとりでいたい」(シャムキャッツ)が頭をぐるぐる。あのゆるいノリで、しばらくひとりでクスクス浸りたいです。

村井有紀子 12月は趣味に走り、気づけば7回もライブに。京都にまで行ってた自分にドン引き……嫁にいけない理由てこれか

突如じわっと沁みるイイ話

登場人物に基本的には共感できない。だって設定がぶっとんでいるから。だけど読み進めると急に親近感がわく不思議なギャグ(?)マンガ。峠を運転できない男や超能力研究部の女子高生が誘う笑いのなかに共感できる要素をみつけると、なんでこんなに嬉しかったりほっこりしたりするんだろう。うまく言葉にできなくて悔しい。でも、言葉にできないからこそマンガなのかも。読後にタイトルを読み返すと、また沁みます。

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