「ジョブズのボーダーレスな視点は、古代ローマ人っぽいんです」 ヤマザキマリが世界を変えた男を描く! 「Kiss」新連載スタート直前&直撃インタビュー

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更新日:2013/8/13

 漫画家・ヤマザキマリの大ヒット作『テルマエ・ロマエ』が、ついに最終回を迎えた(「コミックビーム」2013年4月号)。バトンタッチするかのようなタイミングで、女性向けマンガ雑誌の「Kiss」3月25日発売号より新連載がスタートする。
 原作は、今世紀最大のベストセラー・ノンフィクション『スティーブ・ジョブズ』(ウォルター・アイザックソン/講談社)。誰もが知るAppleの創業者にしてヴィジョナリー、2011年10月に夭逝したジョブズの、唯一の公認自伝だ。古代ローマ人ルシウスから、現代のスティーブ・ジョブズへ。
 時代も文化も大きく異なれど、ヤマザキマリが新連載で描きたいと願うテーマには、前作、いやデビュー作から繋がる一貫性があった。大注目の第1話執筆直前&直撃インタビュー!

ルシウスとジョブズは、同じ人種です

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ヤマザキマリ
やまざき・まり●1967年東京都出身。幼少期は札幌のオーケストラに勤務していた母親と共に北海道で過ごす。1981年に単独でヨーロッパを一人旅、その時に知り合ったイタリア人の陶芸家に招聘され、1984年に単身でイタリアへ渡り、フィレンツェの美術学校で油絵の勉強を始める。1997年、初めて描いた漫画で講談社の新人オーディションに受かり、以後漫画家としての活動を始める。比較文学を研究するイタリア人(上記の陶芸家の孫)との結婚を機に、エジプト、シリア、ポルトガルを経て現在シカゴに在住。2010年、古代ローマ人浴場技術者がお湯でタイムスリップをするコメディ漫画「テルマエ・ロマエ」で2010年度漫画大賞、手塚治虫文化賞短編賞を受賞。その後アニメ化・映画化され、映画は2012年上半期興行収入トップとなり、世界各国でも公開が決定している。

――2011年10月、ジョブズ死去の直後に世界同時発売された、唯一の本人公認の伝記『スティーブ・ジョブズ』は、日本でも発売10日で上下巻100万部を越える大ベストセラーとなりました。本書を「原作」に、漫画を描く。このプロジェクトは、どのようにスタートしたんでしょうか?

ヤマザキ 『ジョブズ』を出している講談社の、「Kiss」という雑誌の編集さんに声をかけていただいたんです。ただ、私はずっとMacユーザーではあったんですけれど、ジョブズ自身を支持していたわけではなくて。当時『テルマエ・ロマエ』の連載も超絶佳境だったので、「うーーん」とうなっていたら、うちの息子が「やってよ! すごいことだよ!」と。息子は理系なので、昔からMacもジョブズも強く支持してて…。で、義理の父もエンジニアですから(笑)。旦那まで加わって、一家総出で「なんでその仕事を受けないんだ!」と言うから、「もう、分かったよ!」と(笑)。

――原作を読まれた感想は?

ヤマザキ 息子と一緒に、しょっちゅうジョブズのドキュメンタリーを観ていたので、何をした人なのかはだいたい頭に入っていたんですよね。でも、ここまで変人だとは知らなかった(笑)。親しみを感じたんですよね。私にとっては、ごくイメージしやすいタイプの人物なんですよ。ジョブズ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、『テルマエ・ロマエ』のルシウスとハドリアヌス皇帝は、私の中では同じカテゴリーなんです。「絶対夫にしたくはないが、傍観者として見ていたい」。独特の主観でしか動いていかないので、実際に関わるとなると大変だと思うんだけれども、そういう人達じゃなきゃできないことってあるんですね。そんな彼らのことを誰かが必ず、サポートしなきゃいけない。フォローしなきゃいけない。ジョブズの場合はまず、Appleを一緒に創業するウォズニアックという相棒がいた。その後も人生のところどころで、彼の持っている美徳を見出せる人間がいた。そういうふうにできてる人生だったんだな、と。

――確かに、原作はジョブズの「功績」を綴る本でもありますが、彼の「人間性」と、彼が取り結ぶ「関係性」のストーリーとして抜群に魅力的ですよね。

ヤマザキ 相対的に理系男子はどこかで成長が止まってるような気がするので、少年のまんまな人が多い。むりやり社会性をもたせようとしたらダメ。諦めて、こっちが腹をくくって、ひとつの珍しい生命体として付き合っていくしかない。「好きなもの作りなさいよ!」とならないと、この人達はかわいそうです。という、母性をくすぐられる(笑)。その人となりを、どれだけうまく描けるか。世界中で支持される製品を生み出した、この人はどんな人なのか。原作を読んではっきりと、描きたい、と思いましたね。

孤独を抱えて生きるこの人は荒唐無稽でボーダーレス

――本日は記念すべき第1話執筆直前インタビューですが、第1話はどんなふうに始まる予定ですか?

ヤマザキ 原作通りに進めていきますから、「はじめに 本書が生まれた経緯」のエピソードを描くことになりますよね。ジョブズがこの本の著者アイザックソンさんに、「僕の伝記を書かないか?」と持ちかけてくるところから始まる予定です。彼もまたジョブズのパートナーの一人、大事な登場人物の一人ですから。コミカライズするにあたり、原作者サイドに主要キャラの似顔絵を提出したんですが、著者近影を見ながら結構かっこよく描きましたよ(笑)。

――描きたいキャラクターは?

ヤマザキ たくさんいますよ。まずはやっぱり、一番最初にジョブズの右腕となったウォズニアック。あの人のキャラは、イイですよね。もっそりしてて、めちゃくちゃ頭がよくて。ああいう人じゃなければ若い頃のジョブズと一緒にいられなかったと思うから、描き応えありそう。ジョブズがわーっと動いてわーっと喋っているところを、ウォズがぼそっと一言でまとめる、とか(笑)。弥次喜多的な、名コンビを描けるんじゃないですかね。

――ジョブズは、描きやすいですか?

ヤマザキ 「眉間にシワ寄り系」の外国人は自分の周りにも多いので得意なんです(笑)。原作に載っている写真を見ると、ものすごく人間性が出てますもんね、若い時から。「俺は他と違うぞ!」って。ガンになってからは、少し柔らかい表情になるのかなあと思っているんですけれども。でもね、手術の時、酸素マスクのデザインが気に入らないから医者に突き返すっていうエピソード。最高ですよね(笑)。若い頃にインドを放浪して、LSDをキメて。「風呂に入らなくていい! なぜなら俺は野菜しか食べないから臭くない!」とか、ああいう変態エピソードはめちゃくちゃ描きたいですよ。