電子書籍アワード2013:電子書籍大賞『宇宙兄弟』 小山宙哉インタビュー

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更新日:2013/3/26

 2012年は、怒涛のように本の電子化が進んだ年だった。数千にも及ぶ作品のリリースラッシュの中、ナンバーワンの座を射止めたのは宇宙飛行士への夢を描いた人気マンガ『宇宙兄弟』。TVアニメ化や劇場版の公開などクロスメディア化も大成功を収めた本作の著者・小山宙哉さんに、電子書籍についてや、アニメ、映画についてなど、いろいろとお話をうかがった。

 

折り畳めて、一面だけでも見開きでも読める電子書籍がほしい

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小山宙哉

こやま・ちゅうや●1978年京都府生まれ。初めて描きあげた『ジジジイ』を『モーニング』に持ち込み第14回マンガオープン審査委員賞(わたせせいぞう賞)受賞。続いて第15回マンガオープンに投稿した『劇団JET’S』が大賞を受賞。初連載『ハルジャン』で注目される。『宇宙兄弟』は2007年12月より連載スタート。2012年にはTVアニメ化に続き、劇場版も公開された。

――電子書籍アワード2013大賞受賞おめでとうございます。2012年で最も売れた電子書籍になったということについて、感想をお聞かせください。

嬉しいですね。ありがとうございます!

ただ、僕はまだ電子書籍になじみが薄いので、「そうかぁ、みんな電子書籍で読むのか!」とちょっと驚きました。

――小山先生は電子書籍を利用した経験はありますか?

電子書籍で本を読んだことはまだないです。紙の書籍に慣れているので、ちゃんとストレスなく読めるのか疑問で……。でも、電子書籍なら持ち運びできるし、便利ですよね。常に傍らに『宇宙兄弟』があるってことになりますね。それは嬉しいです!

今回受賞させていただいて、僕も電子書籍を試してみたいと思いました。便利だし、ハマるかもしれないです。ポテトチップスを食べながら読んでも、ページに油のしみも付かないですしね(笑)

――採算度外視で「夢の電子書籍」を作れるとしたら、どんなものを作ってみたいですか?

今の電子書籍は、目がちらつかないとか、紙で読んでいる感じで読めるとか、ページをめくる時に「ペラッ」って音が鳴るとか……すでにかなりの夢を実現しているみたいですね。それ以外だと、紙の本のように折り畳めるものがあればいいと思います。状況に応じて、見開きでも、折って一面にしても読めたらいいですね。

 

『宇宙兄弟』のアニメでは、オーケストラの音楽を使うことにこだわりました

――昨年の4月から『宇宙兄弟』のTVアニメが始まりましたよね。制作には何らかの形でかかわられたのですか?

脚本は毎回目を通しています。アニメの脚本家の方に書いてきていただいたものを読んで、より『宇宙兄弟』らしくなるように様々な提案をさせてもらっています。また、キャラクターの絵に関しても原作に近い絵になるように、作画監督とやりとりをさせてもらっています。

僕の中ではマンガとアニメが「別もの」だとはあまり考えていません。できるだけ、両者を近づけていけたらいいと思っています。

――続いて5月には小栗旬&岡田将生さんのW主演で実写映画にもなりました。完成した作品を見てどうでしたか?

豪華なキャストに素晴らしい音楽。そして、ロケットの打ち上げや月面のシーンは実写映画ならではの迫力もあり想像以上の出来映えでした。“兄弟の関係”というテーマがしっかりと伝わるストーリーにしていただけたと思っています。

――アニメとマンガという表現手法において、最も異なる点はどこだと思いますか?

ストーリーを追っていくペース配分に大きな違いがあると思います。マンガは読者が自分のペースで読むことができますが、アニメはそのペース配分をアニメ側が決めることになります。漫画では、気に入ったセリフなどがあれば、そこでジッと止まったり、何度も読み返したりできますが、アニメではそれがむずかしい。

ただ、マンガにはマンガの、アニメにはアニメの楽しみ方があると思っています。たとえば、音楽があって、キャラクターがしゃべって動くところや、ダイナミックにシーンを見せることができるのは、アニメの醍醐味だと思います。

――小山先生の好きなアニメがあれば教えて下さい

最近のアニメはあまり詳しくありませんが、以前よく見ていたのは『ドラゴンボール』と『北斗の拳』ですね。音楽にオーケストラを使っていて、すごく良かったと思います。だから『宇宙兄弟』では、オーケストラの音楽を使ってほしい、とアニメの制作チームにリクエストを出しました。

 

ロマンスパートは、お楽しみに!ということにしておきます(笑)

――作品の時代設定は近未来ですが、これには何か理由があったのでしょうか?

人類が月や火星を目指していると思われる頃ということで、まず大枠の時代設定をしました。そのあと、六太の誕生日を「ドーハの悲劇」の日にしようということを思いついて、そこから逆算して細かい年代を決めました。

――六太と日々人はお互いを信頼する仲の良い兄弟として描かれていますが、小山先生も兄弟はいらっしゃるのでしょうか?

僕はひとりっ子です。だから『宇宙兄弟』で描いている六太と日々人の関係は、近すぎず、離れすぎず……でもいつも頭の片隅でお互いのことを考えているという、昔から憧れている兄弟関係です。

――『宇宙兄弟』は登場人物のセリフに名言が非常に多いと思います。これらの着想はどうやって得ているのでしょうか?

人から言われた言葉をベースにして考えることもあれば、キャラクターがその場面で「何を言ったら一番グッとくるか」ということを考えることもあります。そして、そのセリフをそのキャラクターだったらどういうふうに言うか、ということを考えてセリフを作っていきます。

――作品中、進展がありそうでないロマンスパートですが、今後、描写は増えそうですか?

うーん……どうでしょう? どうなるかはお楽しみに! ということにしておきます(笑)。

――今までたくさんの取材をされてきた中で、何か印象深いエピソードはありますか?

ヒューストンでのスペースシャトル打ち上げの時の取材が一番印象的でした。この取材があったので、日々人打ち上げシーンの際も、臨場感のある場面を描くことができました。

その時に印象的だったのは、「ほわぁ~!」と感動しながら見上げていた僕を、横からずっと連写で撮影しているアメリカ人のカメラマンがいたこと。そのカメラマンが、ずっと目の端の視界に入ってくるんです。打ち上げをしっかり見つつ、「撮られているから、良い表情しないとな」って思っていました(笑)。日本人が打ち上げを見ているところを、記事で取り上げるつもりだったみたいです。

――想ハガキなど読者からのリアクションの中で、面白かったものはありますか?

感想ハガキは、時間が許す限りできるだけ読んでいます。面白かったものでいえば、ハガキではないですが、テーマソングやフィギュアを作ってくれた人もいますし、「子どもに六太/日々人と名付けました」って手紙もありました。それは嬉しかったですね。

驚かされることもあって、突然会ったことのない人に、「お久しぶりです」とハガキがくることもあります(笑)。どのハガキも読んでいて楽しいし、嬉しいです。

――最後に今後作品で注目してほしい点と『ダ・ヴィンチ』読者に向けてメッセージを!

注目してほしい“点”がたくさんあるので、”全部”注目してもらえたら嬉しいです!(笑)。

『宇宙兄弟』(1~20巻)

講談社モーニングKC

幼いときに「宇宙飛行士になる」と約束を交わした兄・六太(ムッタ)と弟・日々人(ヒビト)。2025年、弟は宇宙飛行士になり第1次月面長期滞在クルーに選ばれたが、兄は会社をクビに。弟からのメールで、兄は再び宇宙飛行士への夢にチャレンジする決心をする。『モーニング』(講談社)にて好評連載中。