映画『ふがいない僕は空を見た』にみる「コスプレ」の役割とは?

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更新日:2013/8/13

もはやヲタだけのものじゃない!
「コスプレ」は新しいコミュニケーション作法だ!

 近頃、某人気カラオケ店では“コスプレサービス”なる新サービスを展開中だ。ずばり希望者にコスプレ衣装を貸し出してくれるサービスで、アイドル系、メイド服、制服系、アニメのキャラクター系まで幅広く取り揃えているとか(※店舗によって異なる)。おそらく、少し前まではこんなサービスは考えられなかっただろう。なぜならナース服やセーラー服には少々風俗っぽいイメージもあって「一般的」とはいいがたいし、アニメやゲーム系のキャラのコスプレにいたっては、完全に「オタク文化」に属するカルチャーであり、極めて異質な存在だったからだ。

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 ちなみに「コスプレ」を厳密に捉えると、後者のアニメやゲームキャラに扮する行為を指すが、こうしたコスプレはすでに70年代にはコミケ会場などに出現し、愛好者によって脈々と受け継がれてきた。ここ最近のオタク文化への一般化にあわせコスプレ自体の知名度もあがってきており、たとえば現在は名古屋で開催されている「世界コスプレサミット」(2003年~)など大掛かりなイベントもあれば、56万人もの来場者を記録するコミケにも多数のコスプレイヤー(レイヤー)が集まり、もはや季節の風物詩と化している。世界各地にも愛好者は多く、各国のオタク系イベントでもコスプレ大会は定番だ。

 いまや誰でもコスプレをしようと思えば、メジャーなキャラの衣装はアマゾンでも簡単に購入できるし、レアなキャラでもネットを探せば多くの専門店がある。専門雑誌やムック、またレイヤー同士が情報交換するSNSサイトも複数存在しており、そこでは各自が自慢のコスプレ写真を見せ合うほか、仲間作りのためのさまざまなイベントも紹介されている。正確なレイヤー人口は不明だが、おそらく相当な数にのぼると思われ、その規模で考えるなら、すでにコスプレは「一般化」したといってもいいのかもしれない。

 ところで、人はなぜコスプレをするのだろう?
某大手レイヤー専門SNSの掲示板をのぞいてみると、もちろん圧倒的な理由は「そのキャラが好きだから」「キャラ愛が嵩じて」であり、オタク心理の結果というのが王道。と共に目立つのは「違う自分になれるから」「理想のキャラになりきれて楽しい」などのコメントだ。つまり一種の「変身願望」が、コスプレの動機の根底にあるということなのだろう。

 実際、経験者によれば、派手なカラーウィッグをかぶり濃い目メークをするうちに心理的に高揚し、非オタでも「ま、別キャラだし」と多少行動もアッパーになるそうな。気分の高揚が心理的な開放感をもたらし、たとえば初対面の相手とのコミュニケーションを円滑にすることもある。前述したカラオケ店でのコスプレもあくまでパーティをより盛り上げるための小道具ではあるが、利用者にとっては「いつもの自分とは違うと明らかに宣言し、恥ずかしさを捨ててハシャグための高揚スイッチ」の意味も持つ。もはやそのスイッチは、オタか非オタかは関係なく誰にでも有効なのだ。

 考えてみると、たとえば若い女性がギャルメイクでほとんど別人化したりする件も、どこかコスプレに近い感覚がみてとれそうだ。アイメイクを過剰に重ねていくうちに身も心も「ギャル」になっていくのは、コスプレで別キャラになるのと同様の心理作用がありそうだし、どちらも「素顔」はNGという点も大きな共通点だ。あるいはレイヤーがハンドルネームで名乗り合う点などは、ネットのオフ会などでもよくみかけるケース。いずれにしても「素の自分」は隠すのが常識で、「何者かになることで心理的に楽に他者とつきあう」のがいまどきのコミュニケーション作法として浸透しつつあるのかも。とにかくかつて流行した「本当の自分探し」とは、いまや真逆の状態であることだけは確かなようだ。

⇒映画『ふがいない僕は空を見た』にみる「コスプレ」の役割とは?