明るい未来と世界が広がる! 笑いと発見がいっぱいのオモシロ絵本

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公開日:2013/9/6

“人にやさしい果物バナナ。だってあんなに食べやすい”──
 次にバナナを手にしたときには、思わず口をついて出るに違いない。『ことば絵本 明日のカルタ』は、すぐに仲良くなれる、こんなオモシロ言葉でいっぱいだ。“ん!?”から始まって、“なるほどー!”“そうだよね”と、笑顔にしてくれるような。

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倉本美津留
くらもと・みつる●1959年生まれ。放送作家。『ダウンタウンDX』『爆笑 大日本アカン警察』など数々のヒット番組を担当。手がけた番組に『M−1グランプリ』『伊東家の食卓』『たけしの万物創世紀』など多数。「美津留」の名前でミュージシャンとしても活動中。著書に『どらごん─道楽言』『日本語ポ辞典』など。

「バナナって、手にぴったりくる形といい、剥きやすい皮といい、おいしさといい、人に対してすごくイイ感じでしょう。紐を結んで肩に担いでください、中には水を入れてください、みたいな形にはなからなっている瓢箪もそうだけど、自然はめちゃくちゃ人にやさしい。でも人間はあんまりそれに気付いてないんですよね。この言葉に込めたのは“自然とやさしい間柄になろうよ”ってことですね」

『ダウンタウンDX』、NHK Eテレのこども番組『シャキーン!』などを手がける放送作家の倉本さんが、この言葉たちを生み出したのは、昨秋、開催されたアートイベント「二子玉川ビエンナーレ」の「巨大カルタ大会」を企画した時。子どもたちが走り、身体ごとぶつかって、大きな絵札をとりにいく大会は、大盛り上がりを見せたそう。

「僕が札を読みあげるたびに、“えーっ?”って言ったり、笑ったり、“何、言ってんの?この人”って顔で見たり(笑)。その一方で、必死に絵札をとりにいくという二重構造が面白かったですね。とった子にはそのまま絵札をプレゼントして、“君がこの言葉をとったということは、君にとって必要な言葉だからだよ。がんばって生きていってくれ!”って、ほめたたえて」

 けれど、中にはなかなかとれなくて泣きだす子も……。

「その子がね、やっとのことで札をとれてすっごく喜んで、そしたらまた泣いているんですよ。うれし涙なんですね。このちょっとの時間の中で、悔し涙から喜び、うれし涙っていう感情を経験できている。それを目の当たりにした時、“もしかしたら自分は今、ものすごく大切なことをしているんじゃないか”って気がしたんです。それで、もっと多くの人に伝えたくて、本の形にしてもらって」

 読み札と絵札を見開きに、そこに「説明しすぎない程度のヒントみたいな。ヒントの本だと思っているので、ヒントのヒントみたいな」メッセージを添えた一冊は、子どもたちはもちろん、大人の心のツボも押しまくっている。

「“ぱーっと読んで、置いて、また読みたくなる”って、言ってくれる方が多いんです。で、好きな言葉がそれぞれ違っているのがまた面白い」

“あ”から“わ”までの44の言葉は、画用紙を前に、たった3時間で出てきたものだという。

「カルタの基本というと、百人一首や犬棒カルタですけど、メッセージ性のあるものというところで、コピーライトに近いものがありますよね。僕、わりと短い言葉の中に面白味を入れるのが好きで。テレビ番組もそういう角度でつくるのを得意としているというか。カルタは子どもの頃から好きでした。するのも好きなんですけど、勝手につくって遊ぶのも。クラス全員のエピソードをうまく織り交ぜて、みんなにつっこみを入れるっていうカルタをつくり、“放課後やるぞー!”とか(笑)」

 言葉をつくっていった3時間は、まさにそんな楽しい時間だったという。どんどんテンションも上がり、画用紙に並べて書いた接頭語・50音の下には次々と言葉が埋まっていったという。

「“あ”の“明日は明るい日。明日の明日はもっと明るい日。だから未来はすごく明るい”というのはすぐに出てきた。“い”の“犬と自由に生きよう”は、人と犬には上下関係ないなってことを言いたくて、“うーん、お互い自由にいた方がええんちゃうかな”みたいな(笑)、そんなペースで。自分の中にたまっていた言葉が蓋を開けたら、ぽろぽろ出てきたという感じでした」

後になってわかった
大切なことは少しだけ

「僕は先生とか親の“こうじゃなければならない”という理想を叶えられる子どもじゃなかったんです」と倉本さんは言う。それは反抗からということではなく、上から押しつけられる既成概念の中に感じとった抵抗感からきていたものだという。

「大人の言うことに合わせられない不器用な子どもだったんです。なので“面白いやつだ”と思われることで、その事態を回避しようと、人生、歩んできたところがあるんですけど、同い年くらいの仲間には認められても、大人からは“おまえはおかしい、普通じゃない”って言われ続けて。だから自分を肯定していくことで、自分自身を勇気づけるしかなかったんです」

 そのなかで気付いたのが、“あれはいい”“これはダメ”という既成概念を、“ほんとにいいの?”“ほんとにダメなの?”と、たとえ傷つきながらでも自分の中で感じた方がいいんじゃないかということ。

「そこで身をもって体験したこと、自分なりに考えたことが、言葉のひとつひとつに投影されていった感じがします」

 表現は、わかりやすく、面白く、けれど子どもの側にはあえて近づかない。たとえ今わからなくても、心に引っ掛かり、刺激になって、後で動き出してくれるものになってくれれば、それでいいと。

「その引っ掛かりをいっぱいつくるために、言葉の長短や方向を揃えず、ゴツゴツさせたいなって。きれいに整頓されているものって、入ってきやすいけど、抜けるのも早い気がするから」

“キリンの特徴を首が長い以外で答えるカッコよさ”と“歯をみがこう”と“総理大臣はエラい人。国民の次にエラい人”─たった3つの言葉をとっても、こんなに違うカタチ、そして方向。そこには「44の言葉を出すなら、44のベクトルを。それがクリエイティブの美しさ」という倉本さんの信念がある。

「でもね、いろんな方向性で出したけど、後になってわかったんです。ほんとに大事なことって5つくらいなんだって。やっぱりそうだったんだって」

 読んでいるうちに感じていく。違う顔を見せる言葉たちが、5つくらいの“ほんとに大事なこと”を納める心のポケットに、それぞれ入っていくのを。たとえば、個性を大切にする、夢をあきらめるな、常識を疑え……そのポケットを自分なりに探したり、つくったりすることができるのも、この本の面白さであり、懐の広いやさしさである。