読売新聞×ダ・ヴィンチ ミステリーブックフェア2014 スペシャル記事 今野 敏編

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公開日:2014/3/23

今回のフィーチャーは…… 今野 敏

今回は、今野さんをフィーチャーしたスペシャル記事をお送りします! 作家生活35年の礎にあるものについて、語っていただきました。

主催=ミステリーブックフェア実行委員会 後援=社団法人日本推理作家協会、日本出版販売株式会社、読売新聞社

取材・文=門賀美央子 写真=川口宗道

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小説を書き続けるということ

今野 敏
こんの・びん●1955年北海道生まれ。78年、「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞し、デビュー。2006年に『隠蔽捜査』で第 27回吉川英治文学新人賞、2008年に『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。著作多数。

――デビューされてからずっと、第一線で活躍していらっしゃいますね。

 小説家になってから35年が経ちました。

 今は月6本の連載を抱えていますが、特に忙しいと思うことはありません。最近は「もう暇で暇で」が口癖になっているほどです。もちろん、わざと言っているのですが(笑)。

 大学在学中に問題小説新人賞を受賞してデビュー以来、小説家として行き詰まったことはなかったですね。あるとしたら経済的な行き詰まりぐらいかな。これしかないと心に決めて、淡々とやってきたらいつの間にか年月が流れていた、という感じです。

――デビューのきっかけについてお聞かせください。

 子供の頃の夢はというと、実は小説家ではなく漫画家でした。だが、残念なことに漫画家になるだけの画力がなかった。しかも、漫画を描いているのを親に見つかると叱られる。それで諦めてしまったのですが、「物語を作る」ということの魅力は忘れられませんでした。むしろ、漫画家を目指したのも創作をやりたかったからだと気づいたのです。

 ならば絵がなくてもいいじゃないか、というので小説の方に転向しました。だからといって、まさか自分が本当に小説家になれるとは思っていませんでしたよ。習作を書きつつも、漠然と「なれたらいいなあ」と考える程度でした。

 その頃のことです。僕はジャズ・ピアニストの山下洋輔さんが率いていた「山下洋輔トリオ」のファンで、よくレコードを聴いていたのですが、ある日、ドラマーの森山威男さんが脱退するという話を耳に挟みました。僕は彼のドラムが大好きだったから、脱退がとても悔しくてね。なんとかして経緯を世に広く伝えたいと思った。じゃあそれを小説に書こうと思いつき、彼らをモデルにしたドタバタ小説を書き上げたのです。

 問題小説新人賞を応募先に選んだのは、筒井康隆さんが選考委員をやっていたからでした。筒井さんはジャズが好きだから、目に留まらないかなと思ってね。そうしたら、新人賞を獲れた。この受賞によって、小説家という夢にリアリティが生まれました。これで作家になれるんだ、よし、なろう、と。

――他の作家さんを意識することはありますか?

 今は推理作家協会の理事長を務めていますから、業界全体を盛り上げるためにも後進にはどんどん頑張って欲しいと思っています。ですが、一作家としては、いつ追いつき追い越されるかひやひやしているし、他の作家が突然人気者になるとコノヤローとも思う(笑)。

 人気というのは実に不可解なもので、実力以外にも運や世相など様々な要素が影響します。同時に、麻薬的な魅力がある。おそらく、自分が人気者であるという自覚は、権力を持っているというのと同じぐらいの魅力を持っています。だけど、それはあくまで余禄というか、ある種のご褒美のようなものです。創作を志すものにとって、小説を書き続けられるということ以上に魅力的なことはありません。


ミステリーブックフェア2014 開催中!
全国の参加書店で、今注目のミステリー小説を集めたブックフェアを開催! 人気作家のサイン、総額10万円分の図書カードが当たるプレゼントキャンペーンも実施中。今年のフェアラインナップは全29冊。具体的なタイトルやフェアについて、詳しくは、「ミステリーブックフェア2014」フェイスブックや、ウェブサイト「ダ・ヴィンチニュース」、フェア参加店店頭ポスターをご覧ください。

*雑誌『ダ・ヴィンチ』4月号(3月6日発売)には、4人の作家の座談記事のアナザーバージョンが掲載中です。
「Honya Club」のウェブサイトにも本フェア特集が掲載! ぜひご覧ください。



ミステリーブックフェア後援の日本推理作家協会とは?
2013年より今野敏さんが14代目理事長を務めている日本推理作家協会とは、ミステリーと関わりのある作家、評論家、翻訳家、漫画家など、さまざまなエンターテインメントの担い手が結集した文芸団体。その歴史は終戦後の1946年から月に一度開かれていた「土曜会」から始まる。47年6月21日、江戸川乱歩を初代会長として「日本探偵作家クラブ」が発足した。会報の発行や探偵作家クラブ賞(現在の日本推理作家協会賞)の授賞、探偵小説年鑑の編纂、55年にスタートした江戸川乱歩賞の授賞などで推理小説の普及・発展に努めている。