ジリジリと崖っぷちに追いやる“本当に怖い女の復讐”。残虐で冷酷な復讐を遂げる「新・ダークヒロイン」誕生──
更新日:2014/9/29
今年のテレビ各局の春ドラマの中でも、異色作として話題となった『アリスの棘』(TBS系列)のDVD&Blu-rayボックスが発売される。上野樹里演じる主人公の女医・水野明日美が、父を死に追いやった医師・関係者たちを相手に繰り広げる復讐譚。さて、残虐で冷酷な復讐を次々に遂げていく“新・ダークヒロイン 明日美”が見せるその恐怖とは……!?
一気にとどめは刺さず、ジワジワと追い詰める恐怖
ママ友いじめ、マウンティング女子など、女のダークな心がフューチャーされる昨今。“女医”という学歴・地位ともに社会的ステータスの高い人間がしかける復讐劇が怖い、と話題になったテレビドラマ、それが『アリスの棘』だ。
その主役、女医・水野明日美を演じたのは上野樹里。これまで天然系キャラで個性を発揮してきた上野が一転、本作ではまさに“復讐の鬼”と化した、冷酷無比な新・ダークヒロインを演じている。
「復讐劇というと、オラーッと衝動に駆られて勢いで相手をどうにかしてしまうイメージがありました。でも、『アリスの棘』には相手に気づかれずに追い詰め、崖っぷちに立たせる、見えない怖さがあるんです」(上野樹里:記者会見でのコメント)
その役どころをこう語ったように、復讐に燃える女医・明日美は、一撃必殺のハードパンチを繰り出したりはしない。その代り、用意周到なボディブローを、コツコツとヒットさせる。それは一見か弱そうだが、着実にダメージを与え続け、相手を追い詰める。そして最後の最後に、とどめを刺して相手を立ち上がれなくしていくのだ。
医師になった理由は復讐。そしてそれが今を生きる目的
そんな明日美が新人の女医として着任するのが、聖林大学附属病院の消化器外科である。この大学病院はかつて、明日美の実父、小山内(おさない)孝夫が医師として勤務していた場所だ。
父として、そして医師としても誠実だった小山内だが、15年前、明日美が14歳の時に急死する。死因は当時、持病の悪化による急変と聞かされた明日美だが、その後、謎の告発者から送られた報告書により、手術を担当した聖林大学病院の消化器外科医たちの医療ミスであると知る。
小山内の死に関わった医師や顧問弁護士たちは、医療ミスを隠ぺいしただけでなく、小山内を薬の横領犯にまで仕立て上げることで、理不尽にもこの世から小山内を葬ったのだ。
この病院に医師として潜入し、“父の復讐”を果たす──。
それだけが医師になった理由であり、今を生きる唯一の目的。そんな明日美には将来への希望も、復讐相手への少しの情けも、持ち合わす余裕などはなかった。
復讐の戦略を練る部屋だけが、明日美唯一の居場所
こうしてごく普通の優しい少女だった明日美は、女医となるまでの15年間をかけ、“復讐の鬼”へと変貌する。その鬼気迫る執念を最も強く感じさせるのは、たびたび画面にも登場する、明日美が暮らす家でのシーンだ。
古ぼけたビルの二階の一室。玄関を開けると大きなベッドだけが中央に置かれた居間兼寝室。冷蔵庫にはペットボトルの水しかなく、錆びかかった台所に使われた形跡はない。そして室内に無造作に干された下着を含む洗濯物──。
20代女性が主役のドラマなら、オシャレな部屋や色とりどりのファッションも見所のひとつとなるもの。しかし本作においては、そうした演出は一切期待しない方がいいだろう。明日美はすでに、普通の20代女子を捨てた身なのだから……。
室内ロフトへ上がると、そこには狂気さえ感じさせる空間が広がる。壁には無数の写真が貼り付けられ、棚には数えきれないほどのファイルが整理されている。その背表紙にあるのは、父・孝夫の死に関わったと思われる人物たちの名前。
そう、ここが15年かけて築き上げた、復讐戦略を練る部屋であり、明日美の唯一の居場所なのだ。
“復讐の戦友” 毎朝新聞医療部記者、西門優介
本作では、この15年間、この部屋に誰も入れたことのない明日美が、唯一、部屋に招く人物(いわば心を少し開く相手)が登場する。それが毎朝新聞医療部記者、西門優介(オダギリジョー)だ。
西門は明日美と同じく、心に闇を抱えていた。妹の命を聖林大学附属病院の医師によって奪われた過去があったのだ。
そして、明日美の父・孝夫の不名誉となる記事をだまされて書かされた張本人でもあった。
そんな二人は紆余曲折の末、聖林大学附属病院にはびこる、人の命を何とも思わない悪質な医師の仮面をかぶる“我欲に取りつかれた亡者たち”を、復讐の名のもとに一掃するパートナーとなっていく。
しかし明日美が西門を部屋に招いたのは、間違っても女子力で魅せよう、などと思ったからではない。その証拠に、吊るされた下着の洗濯物さえ明日美は隠そうとはしない。唯一の理由、それは西門を、ロフトを見せるに値する、“復讐の戦友”として認めたからだった。
復讐劇の開始を知らせるアリスのメッセージカード
西門の助けを借りながら行う明日美の復讐劇。その開始を知らせるのは、復讐相手に送られる封筒である。中には、不思議の国のアリス、鏡の国のアリスに登場するキャラクターになぞらえたメッセージカードと、医療ミスの証拠となる当時の報告書が同封されている。
幼少の頃に母を亡くしてしまったものの、父・孝夫は、「明日はいいことがあると信じて、強く生きよう」と明日美を励まし続け育てた。そしてこの本の主人公のように、たくましく生きて欲しいと『不思議の国のアリス』を明日美に渡す。
そのアリスに登場するキャラクターを、明日美は復讐の先鋒役として活用する。最初に封筒を受け取るのは、父・孝夫の手術を執刀した医師たちや立ち会った看護師、さらには汚名を着せる陰謀を操った顧問弁護士である。これらの人物を、父・孝夫が受けた苦痛を代弁するがごとくジワジワと崖っぷちに追いやる。
そして、その復讐の矛先は次に、医師や弁護士の背後で暗躍する、次期大学病院長の座を競う双頭の鷲とも言うべき二人の教授へと向かっていくのだが……。
緻密な人物構成と最後まで気の抜けないストーリー展開
『アリスの棘(トゲ)』は3年間かけて作り上げたオリジナル脚本だけあって、とても緻密な登場人物構成と、最後まで気の抜けないストーリー展開が用意されている。
明日美に「友だちになろう」と近づく看護師・星野美羽(栗山千明)は、仕事にも恋にも真剣なサバサバ系女子のお手本のような存在だ。この二人の揺れ動く関係は、本作に少しの和みそして緊張を、共に効果的に与えていく。
そして、明日美の復讐に対して、さらなる復讐を目論む女医、伊達 理沙(藤原紀香)も、最後まで目が離せない存在である。
明日美の「父の弔い」と、伊達の「華やかなる自分」という二つの執念の対決の火花は、おそらくだれもが想定外の結果を生む。
「病院のだれも信じてはいけない」と、明日美にくぎを刺す西門優介(オダギリジョー)。そのセリフは決して嘘ではなく、さらに言うなら、「このドラマのだれも信じてはいけない」が正解なのだろう。果たして、明日美に再び、笑顔が戻る日が来るのだろうか……?
『アリスの棘』
9月24日 ブルーレイ&DVD 発売
価格:ブルーレイ 24,000円+税/DVD 19,000円+税
発売元:TBS
販売元:アミューズソフト
©TBS
(主な出演者)
●水野(小山内)明日美/上野樹里
●新聞記者・西門 優介(オダギリジョー)
●看護師・星野美羽(栗山千明)
●養父・水野和史(中村梅雀)
●消化器外科教授・磐台修一(岩城滉一)
●小児科研修医・磐台悠真(中村蒼)
●移植外科教授・有馬毅(國村隼)
●その他の復讐ターゲットとなる人物
看護師長・蛭子雅人(六平直政)、医師・千原淳一(田中直樹)、医師・伊達理沙(藤原紀香)、顧問弁護士・日向誠(尾美としのり)
(ストーリー)
父であり医師だった小山内孝夫を不審死で失った明日美は、その復讐に命を賭ける。そして素性を隠すため養女となり、水野姓を名乗り聖林大学附属病院の女医として着任。15年かけたリサーチを基に、次々とその牙をターゲットに向けていくのだが……。