【創刊1周年 角川Epub選書】加速する変革の大波をつかむために〜大きく変わる世界を知る。気鋭のリーダーの発想を知る

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公開日:2014/10/6

 普段、当たり前に使っているインターネット。その背景にある技術は猛スピードで進化し、あらゆるものを激変させている。変革の時代こそチャンス。最新の情報を読みやすくわかりやすい知識へと変え、これからの時代の戦略と指針に触れる角川EPUB選書から7冊を紹介する。

 

新しい知識と戦略がビジネスと生活を変える

 クラウドサービスとソーシャルメディアが広がって、私たちの生活はより便利に面白くなっている。だが、その一方であまりに進化するスピードが速いために、インターネット世界で今、何が起こっているのかが見えにくくなっているのではなかろうか。今月1周年を迎えた角川EPUB選書は、そんな「今」を的確につかむことができるレーベルだ。最前線で活躍する国内外の気鋭のリーダーが主な執筆陣で、「今が旬!」のテーマと戦略を取り上げた新刊が続々刊行されている。

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「ITや新しいテクノロジーはどうも苦手」という人もぜひ手に取ってみてほしい。どの著作も私たちの普段の生活とクラウドやソーシャルメディア、あるいはテクノロジーとの関係をリアルなエピソードとからめつつ、わかりやすく書かれているからだ。それに、こうした「新しい知」をつかんでおかないと、近い将来に起こるだろうビジネスや文化、社会の大きな変革の波に飲み込まれ、翻弄される可能性が高い。

 現時点においても、ネット上にあるプログラムとデジタルツールが高速かつ正確に膨大な情報とタスクを処理している。つまり、ビジネスにおいても、個人においても、競争相手は「機械」なのだ。では、これからの時代、私たちは何をすべきなのか。どこにビジネスチャンスがあるのか。そうした望ましい未来への示唆にも富んでいるのが、角川EPUB選書なのだ。

 

“この国がソーシャルをつくり損ね、そしてソーシャルを欠いたままソーシャルな社会をつくろうとする、その倒錯の歴史を追い直すことで、これからいかに「ソーシャル」をつくるかを設計すべきだ、と申し上げているのです。”

『社会をつくれなかったこの国がそれでもソーシャルであるための柳田國男入門』書影

『社会をつくれなかったこの国がそれでもソーシャルであるための柳田國男入門』
大塚英志 1500円(税別)

おおつか・えいじ●批評家、小説家。1958年生まれ。国際日本文化研究センター研究部教授、東京大学大学院情報学環特任教授、東京藝術大学大学院映像研究科兼任講師。『多重人格探偵サイコ』など漫画原作を数多く手がける。

日本では本当の意味のソーシャルは育たない?

「なぜ、柳田國男?」と首をかしげる読者もいるだろうが、柳田は戦前・戦後、「ソーシャル」確立に力を注いだ民俗学者。しかし今、ソーシャルはネット上のもの、ソーシャルに対する日本語「社会的な」という意味を無意識に使い分けてはいないだろうか。著者は柳田の著作を引用しながら、閉ざされたネット上でのソーシャルの考え方の成立と矮小化する現状とそれによって引き起こされた様々な事件を紹介。なぜ日本ではウエブのソーシャルが不成立なのか、その根源を深く考察する。

 

“ルールとは「変えられるもの」です。それも、自分が有利なようにルールを変えることこそ、現実社会での競争の必勝法なのです。”

『ルールを変える思考法』書影

『ルールを変える思考法』
川上量生 1400円(税別)

かわかみ・のぶお●KADOKAWA・DWANGO代表取締役会長、角川アスキー総合研究所主席研究員、スタジオジブリプロデューサー見習い。1968年生まれ。97年ドワンゴを設立し独自の発想で携帯ゲームや着メロ、ニコニコ動画など次々にヒットさせる。

ゲーマーは経営者向き?

YouTubeの後発ながらニコニコ動画を大成功させた異色の経営者が語る思考法と経営・コンテンツ戦略だが、小難しさは一切なし。「ゲームを好きになるということは、ビジネスの素質もあるということ」とあるように、ルールを変える思考法は自身がどっぷりはまったボードゲームやオンラインゲームで養われたもの。注目はコンピュータが人間を置き換えていく流れの中でどうふるまうかが書かれていること。この視点が、これからは重要だ。

 

“ネットで資産運用をしているのなら、アルゴリズムはあなたの投資信託や株式や年金口座も管理していることになる。アルゴリズムはそのうちに、あなたが電話をかける相手を決め、ラジオに流れる音楽を決め、ついにはあなたが臓器移植を受ける確率まで算出するようになるだろう。”

『アルゴリズムが世界を支配する』書影

『アルゴリズムが世界を支配する』
クリストファー・スタイナー/著 永峯 涼/訳 1600円(税別)

Christopher Steiner●ジャーナリスト、元フォーブス技術ライター。ベンチャーキャピタル出資のオンラインスーパーマーケットAisle50の共同設立者、共同CEO。最初の著書『$20 Per Gallon』は全米ベストセラーになった。

アルゴリズムを書ける人がビジネスを制す

アルゴリズムとは問題を解決するための方式や手順。ネット上ではアルゴリズムによって自動化されたタスクを実行するボットが、いかに私たちの生活を動かしているかがわかる。SNSの「知り合いかも?」もそうだし、エンターテインメントのヒット作やスタープレイヤーも、人への影響力の序列もボットが見つけるというから驚き。一読に値する緻密な調査に基づくウォールストリートのエピソードを含めて、コンピューターが人間に取って変わる「今」を知ることができる。

 

“(アメリカ巨大IT企業)とのビジネスには、日本の著作物が世界市場に認知されるチャンスと、著作権者の意向を無視して勝手に売られるリスクが背中合わせにある。クラウド型コンテンツ流通を正しく理解することがその分かれ道となる。”

『グーグル、アップルに負けない著作権法』書影

『グーグル、アップルに負けない著作権法』
角川歴彦 1400円(税別)

かどかわ・つぐひこ●KADOKAWA・DWANGO取締役相談役、KADOKAWA取締役会長。1943年生まれ。メディアミックスにより日本のサブカルを牽引。日本メディア界で最もクラウドと著作権に詳しい経営者の一人。

米国IT企業と日本のサブカルとの攻防戦

非常に便利なクラウドサービス。だが、そのクラウドサービス事業はアマゾン、グーグル、アップル、フェイスブックの4社(ギャング4)がほぼ独占し、このままだと電子書籍、映像、音楽などデジタルコンテンツは彼らの好き勝手にされると著者は警鐘を鳴らす。アメリカの巨大IT企業が牛耳る中、日本のコンテンツ産業とクリエイターはどう勝ち抜いていくのか。アマゾン、グーグルとの著作権交渉を重ねてきた著者が、ギャング4の戦略を見据え、今の時代に必要な新しい著作権法について論考する。

 

“「この人は何屋さんなのか?」と一言では説明ができないようなユニークな人間こそ、目まぐるしい変化で先が見えない今の時代を生き抜く上では、必要なのかもしれません。”

『「ひらめき」を生む技術』書影

『「ひらめき」を生む技術』
伊藤穰一/著 狩野綾子/訳 1400円(税別)

いとう・じょういち●MITメディアラボ所長、角川アスキー総合研究所主席研究員。1966年生まれ。日本でのインターネットの普及に尽力。2011年米国フォーリンポリシー誌「世界の思想家100人」に選出。

MITメディアラボ所長が奇才4人との白熱対談

NHK『スーパープレゼンテーション』のナビゲーターである著者は有数のベンチャーキャピタリストで世界的にウエブ業界への影響力がある一人。『LOST』などのプロデューサーのJ・J・エイブラムス、世界的なデザインファームIDEOのCEOティム・ブラウンら奇才4人と対談し、彼らのひらめき=セレンディピティとユニークでクリエイティブな考え方を探る。発想法のみならず著者と4人の生き方や社会との関わり方には自らの手で社会や人を良い方向に変えていくヒントが溢れている。

 

“確度の高い予想をする鍵は、一つの方法の完成度を高めることではなく、集団が賢明な判断を下すのに必要な多様性、独立性、分散性という要件を満たすことにある。”

『群衆の智慧』書影

『群衆の智慧』
ジェームズ・スロウィッキー/著 小髙尚子/訳 1800円(税別)

James Surowiecki●「ニューヨーカー」金融ページの人気ビジネスコラムニスト。「ニューヨーク・タイムズ」「ウォールストリート・ジャーナル」など各紙誌で幅広く活躍中。

ソーシャルメディアが導く専門家より優れた結論

すべての集団が賢いわけではないが、かなりの確率で専門家であっても個人が考えるより、よい結論に至ることを、数多くの事例を示しながら紹介。グーグルで欲しい情報がすぐさまヒットするのも、選挙結果予測も、株式市場が機能するのも、すべて「群衆の智慧」が働いているからだと著者。そのためには多様な人間が独立して判断を下す必要があり、それにうってつけなのがユーザー一人ひとりの判断と知見が集積するネットなのだ。

 

“放射性廃棄物の無害化を、元素変換研究の最優先ターゲットに置いていることを知った。畢竟『日本企業はやはりこうでなくては」という、前向きで明るい気持ちになれる、なかなか知り難い事実ではないだろうか。”

『元素変換 現代版〈錬金術〉のフロンティア』書影

『元素変換 現代版〈錬金術〉のフロンティア』
吉田克己/著 岩村康弘/協力 1400円(税別)

よしだ・かつみ●5時から作家塾®代表。京都大学工学部卒。共・編著書に『三国志で学ぶランチェスターの法則』『シェールガス革命とは何か』ほか。
協力者 岩村康弘 いわむら・やすひろ●三菱重工業 横浜研究所 先進プロジェクトグループ長。一貫して常温核融合を研究してきた国内の「元素変換」の第一人者。

新技術で放射性廃棄物問題解決の可能性が

「元素変換」とは元素の原子核の構成を変え、別の元素に変化させること。たとえばセシウムをレアアースのプラセオジムに、タングステンをプラチナに、核融合によって変えられる。そして、実際に数種の元素変換を三菱重工業が成功させている。現代版〈錬金術〉ともいえるこの技術が確立されれば、放射性廃棄物問題などを解決する道が開ける。世界を変える可能性を秘めた、日本が牽引するサイエンスとテクノロジーの最前線を知る格好の書。

吉田克己さん

著者インタビュー 吉田克己さん

『元素変換』執筆は、三菱重工業のHPで実験レポートや岩村康弘さんの論文を見つけたのがきっかけです。普段から科学や新技術に関する記事やニュースに接していると、本物か似非(疑似)なのか、目利きできるようになります。
 ビジネスマンだけでなく、文系学生の皆さんにも、これからはこうした情報に触れる習慣をおすすめしたいですね。というのも、『元素変換』もそうですが、まだ実用化されていなくても、革新的な新技術は、産業化されたら大きなビジネストレンドになる可能性があるからです。デジカメの登場でフィルムメーカーが消えていったようなことは、さらに増えるでしょう。科学技術に限らず、できるだけ多くの「新しい知識」に触れておくと、人生の大きな選択を間違えずに済むことが多いんです。変革の波に乗るためには、ネットでの断片的な情報だけでなく、書籍などでまとまった論考を読んで深掘りしていったほうがいい。それが、未来トレンドを見極める目を養う秘訣です。(談)

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