中村文則、西加奈子が語る、ピース又吉のイイ話

ピックアップ

更新日:2015/8/26

 

等間隔な視点の“謙虚な〟頑固さを持つ人

中村 『サラバ!』に出てくる芸人さんいるじゃない?

西 あ、主人公の友人の須玖? あの人、すごく又吉さんが入ってるの。

advertisement

中村 やっぱりそうか。

西 これあんまり言うと、「又吉さん乗っかり」って言われるから、言わなかったんやけど(笑)。

中村 いやいや、乗っかろうよ。『サラバ!』は売れて、結果も出ているわけだから、もう乗っかったっていい(笑)。

西 又吉さんの高校時代の話をうかがって、すべてのことに等間隔で接する人だなぁと思って。こういう目で世界を見られたらいいなと。尺度が自分にしかないからすごく強い。又吉さんってそういうとこ、あるやん?

中村 うん。

西 又吉さんが連れていらっしゃる芸人さんも、私たちから見たら意外な人が多くない?

中村 たしかにそうだね。

西 又吉さん的な静かな方を連れてくるかと思うと、一見器用に見える方を連れてきたりもする。でも、そういう人たちの苦しみもきちんとわかって接してるんやろな。須玖をちょっと神様みたいに書いたのはそういうイメージ。人物造形の時に、少し入ってきたのかな。

中村 何かしら入っているのかなと思ったんだよね。

西 好きなものも等間隔。本に関しても。太宰や武者小路が好きなのはわかるやん。でも、たとえばミステリーのようなものも好きやし、ほんとに分け隔てないよね。自分の尺度でしか見てないから、これほど信じられることはないなって。人の選び方もそう。私と文則くんも偶然仲良かったけど、知らん人からしたら、うちら仲いいって思われないでしょう?

中村 思われないね(笑)。

西 作風も全然違うし。でも又吉さんは私たちの小説、両方とも好きでいてくれたわけで。選び方として信頼できるというか。

中村 頑固だよ。

西 頑固だね。もちろん意見はめちゃくちゃ聞いてくださるけど、自分の信念は一切揺るがない。それは閉ざしているわけじゃなく、たとえば流行っているから好きとかはないし、だからって流行りものが嫌いというわけでもない。自分が好きやったら好きだし、人の意見に左右されないもんね。

中村 そうだね。謙虚な頑固だ。

西 似てるよね?

中村 え? 俺と?

西 うちからしたら、すっごく似てる。謙虚やし、やわらかいし、他人のこと、絶対傷つけへんけど、持ってるもんエグすぎで(笑)。しっかりしすぎて揺るがない。又吉さんも言ってたけど、文則くんもあの若さでデビューして、あの小説を書き続けるってどんなに困難なことやったかと思う。ボロクソ言われてたやん。

中村 ハハハ(笑)。

西 それでも書くもん、変わらへん。「好きなんはこれ!」というのをお持ちな二人。だから合うんやろなって。楽なんじゃない? 気ぃ遣い同士やけど、究極のところは絶対譲らないことをお互いにわかっているから。たとえば、又吉さんが文則くんの影響を100%受ける人やったら気を遣うと思う。でもお互い芯があるから。

中村 そうね。

西 だから二人を見てると面白い。『火花』の花火のことを圧倒的なものへの憧れって、文則くん、さっき言ってたじゃない? それ文則くんに見てる気がする。

中村 いや、それはない! 俺の話はいいよ(笑)。

西 文則くんに認められることで又吉さんは救われると思う。

中村 そんなこと、ないって。断言するけど絶対違うよ。

西 そうやと思う。

飲んでる時はこんなことを話してます

西 加奈子×中村文則

中村 西さんは又吉くんと会ってる時、何話してるの?

西 「実は怖かった」って言われるくらい、私がいろいろ訊きまくってる。

中村 ハハハ(笑)。

西 又吉さんが何を考えてるのかを知りたくて。「それ、どれぐらい前から考えてたん?」とか、「いつくらいから結論に達してたん?」とか、全部訊いてる(笑)。全部答えてくださる。

中村 目に浮かぶわ(笑)。

西 『炎上する君』を書き始めた時にちょうど又吉さんに初めてお会いして一気に書けたの。それまでにない速さで。又吉さんにいただいた言葉とか、「今なんで、それ言ったん?」に対する答えみたいなことから広がっていって。『炎上する君』の文庫版には解説も書いてくださったんだけど、それにまたインスパイアされて『舞台』を書いて。うち、又吉さんからめちゃくちゃ影響を受けてるよね(笑)。

中村 『炎上する君』は、たしか又吉くんが帯を書いた初めての本だよね。

西 絶対に最初の言葉がほしかったの。あの短編集は又吉さんにインスパイアされたから。今後、又吉さんに帯の依頼がめちゃめちゃくるって思ってたし。

中村 言ってたよね。

西 すっごく影響されてる。でも作品ってそうやん。最初のものからどんどん変わっていくけど、核みたいなものがあって、そういうものを又吉さんにいただいた。だから『サラバ!』を読んで、『火花』を書いたと言ってくださったというけど、もっと遡ったところではどっちが先かわからないよね。

中村 相乗効果だね。それはすごいことだよ。でも基本的には又吉くんが西さんからの影響を受けてると思うよ。

西 文則くんは、又吉さんとどんな話をしてるの?

中村 俺、250個くらい悩みがあるから。それを聞いてもらっている。いつも「大丈夫ですよ」って言われるけど(笑)。

西 悩みを聞くことは?

中村 芸人さんだから相方さんとの関係っていう悩みもあると思ったんだけど、又吉くんから綾部さんの悪口を聞いたことは一回もない。褒めてばかり。

西 そうそう! あと他の芸人さんを褒めると、超喜ばへん? こちらとしては気を遣うでしょ。芸人さんの前で他の芸人さんが面白いっていう話をするのって。でも喜ぶんだよ。嫉妬とかしない。たまにアホなんかなと思う時ある。私利私欲がなさすぎて。

中村 あ、それから、お笑いについての質問もしてる。

西 ネタを見てもらっているんだよね(笑)?

中村 そう。こういうネタどう?って。あの人優しいから、「いや、面白いです」って、いつも言うけど。

西 おもろいって言ってたけど「ただ独特すぎて誰にもあげられへん」って(笑)。

中村 俺の目標は、又吉くんを爆笑させることなのよ。又吉くんがお腹を抱えて涙を流すようなことを一回してみたい。まだ“ハハハ”みたいな、片っぽの唇を上げるくらいだから。それ、今後10年の俺の目標だね。

これだけは伝えたい「めちゃくちゃ愛してる!」

中村 西さん、酔っぱらってたから覚えてないかな。『火花』が出る時、「又吉くんの本、売れんとな、文藝春秋の人がご飯食べられなくなるんやで」って、そう言ってたよね?

西 そういう言い方をしないと、又吉さんって喜べないんだよ(笑)。人のためじゃないと。自分のことじゃ喜べへんから。

中村 でもほんとによかった。こんなに大ヒットして。

西 ちょうど文則くんも『教団X』を出して、本屋さんに行くと、うちら三人の本が並んでて。それ見ると泣きそうになる。

中村 いや、俺からすると、並ばせてもらってる感が……。

西 そんなことないよ! でもたしかに並びとして、『火花』ダーン!の後に『教団X』『サラバ!』みたいな(笑)。

中村 いやいや、俺のが一番隅だよ。でも、今まで三人だけで飲んだことはないよね。又吉くん、食べ物は何が好きなんだろう?

西 筍よく食べてはったなぁ。

中村 え!? 筍が好きなんだ。遠慮して好きなものを言わないからいつも勝手に注文しちゃうんだ。気が付いたら減っているから、まぁ食べてるのかなと安心はしてたけど(笑)。

西 それ、動物みたいやん(笑)。

中村 筍、置いておいたらテンションあがるかな。今度、山盛りの筍、置いておこう。って、それ、妖怪みたいじゃん(笑)。又吉くんが江戸時代にいたら、武士とかに見つけられて斬られるよね。

西 ハハハ(笑)。めっちゃ男前やねんけど、たしかに武士に見つかったら斬られるで。物怪かって。

中村 「やめてください、怒りますよ」って言うだろうな(笑)。

西 「殺したら怒りますよ」って優しく(笑)。ところで、この対談、大丈夫? 愛は伝わるだろうけど、悪口になってない(笑)?

中村 武士に斬られるとかね。

西 でも、私も文則くんも又吉さんのこと、ほんまにほんまに愛してる!

中村 そうそう。愛してるよってことは伝えたいね。

西 今度、絶対、三人で飲もう。

 

又吉直樹に贈る言葉

すべてにおいて、又吉さんにはセルフイメージの大体10倍くらいを想像しておいてほしいです。もしかして、俺、才能あるんかなと思ったら、その10倍はきっとある。とんでもない人だという自覚を持ってください。あと印税で不動産を買ってほしい。おごりまくって、お金がなくなる前に。不動産は自分のためじゃなくて、売れない芸人さんを住まわせるとか、いろんな人を助けるために。国内と海外に不動産を一刻も早く買ってください。
西 加奈子

そのままでいいと思いますよ。ほんとに。やりたいことをやるのがいい。小説とか書くと、いろいろ言われることもあると思うんだけど、又吉くんはやっぱり100%芸人で。小説を書くことも巡り巡って芸のこやしになる。だから、好きなことを好きなようにやるのがいいと思います。常に向上心を持って。
中村文則