作家 道尾秀介が読み解く『キャッスル』の魅力
更新日:2012/10/6
推理サスペンスの本道を行く『キャッスル』の魅力
「いやあ、本当におもしろかったですよ」 開口一番、ストレートな感想を述べた道尾さん。 「リラックスして楽しめるドラマだな、というのが第一印象でしたね。最近はストーリーに凝りまくるドラマも少なくありませんが、本作は登場人物たちの活躍を見ながら、気楽に謎解きやドラマ展開を楽しむタイプの作品でした」 物語の舞台はニューヨーク。世界一の大都市で起こる奇妙な事件を、セレブで軟派な推理小説家・キャッスルとクールビューティの敏腕女性刑事ベケットのコンビが解決していくのだが……。 「ベケット刑事、いいですよね。男なら誰でも彼女のような女性に憧れるんじゃないですか? 強くて、知的で、それでいて時々女性らしい顔を見せる。理想的ですよ」 だが、そんな人物造形には制作スタッフのきめ細やかな計算があると指摘する。 「これだけおもしろいドラマですから、おそらく米国のテレビドラマ界屈指のスタッフを揃えて作っているはずです。ということは、風変わりなことをやろうと思えばいくらでもできるはず。だけど、そこは敢えて抑制してキャラクター設定もストーリー展開も敢えて推理サスペンスの典型に仕上げているところにプロの仕事を感じました」 たとえば、殺人現場の死体。シーズン1の第1話では、全身を色鮮やかな花で覆われた美しくも猟奇的な死体が発見される。 「驚くような死体なんだけど、グロテスクさは極力抑えられていて、続くシーンはコミカルな展開だったので、安心して見ていられましたね」 |
みちお・しゅうすけ●1975年生まれ。作家。04年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞、11年『月と蟹』で第144回直木賞受賞。最新刊は『ノエル』。 |
現実に起こるかも?ミステリー小説を真似た事件
ところでこの死体、実はキャッスルが書いたベストセラー小説のシチュエーションそっくりに飾られていた。
道尾さんも、何冊ものベストセラー・ミステリーを世に送っている立場。ある日、いきなり自分の書いた小説を真似た殺人事件が起こったら、どう感じるものだろう?
「きっと嫌でしょうね…。キャッスルぐらい肝が据わっていないと、警察と一緒に捜査しようなんて思わないんじゃないかな。それどころか、もう二度と人が死ぬシーンなんて書けなくなりますよ。
そういう意味でも、このキャッスルという人物は、とてもうまい性格付けがなされていると思います。お金持ちで、頭がよく、胆力もある。とんでもないプレイボーイだけど、根は家族思いで優しい。そんな男、この世にいるはずないのですが(笑)。でも、彼の場合は、回を重ねるごとにリアリティが増して親近感が湧いてきました。いるはずもないのにいる気がしてくるというのは、じつはフィクションでは一番いいキャラづけなんです。それと、キャッスルの娘であるアレクシスも大好きです。だんだん自分も家族みたいな気になって、彼女がボーイフレンドとプロムに出かけるエピソードのある回などは、事件の進展そっちのけで『いったい何時に帰ってくるんだ』と気をもんでいました(笑)」
もう一つ気になるのはキャッスルとベケット刑事の恋の行方。最初はキャッスルの軽薄ぶりをよく思っていなかったベケット刑事も、徐々に彼の真摯な内面に気づき、心を開いていくが。
「この二人、そもそも恋路をたどっているのかな?心が近づいたかと思うと、必ずおふざけではぐらかすじゃないですか。お互い本当の気持ちは言い合わない。見ていてもどかしいけど、それがまたよかったりもするんです」
だが、本作最大の魅力は、別のところにあると道尾さんは言う。
「やりきれない事件が起こって、哀しみや怒りといった重苦しい感情がのしかかってきても、登場人物たちが強い力で持ち上げてくれる。見終わった時には、ポジティブな気持ちになっているんです。同時に、見ている者を飽きさせない力もある。ワインでも飲みながら、ゆったり見るにはぴったりなんじゃないかな」
かそけき光が映し出すのは誰もが心のなかに持つ子ども時代の残照──小学4年生の利一と友人たちが、都会から少し離れた山間の町で経験した楽しくて切なく、そして感動に彩られた一年の回想を描く珠玉の連作短編集
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