第32回横溝正史ミステリ大賞『さあ、地獄へ堕ちよう』菅原和也インタビュー

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更新日:2012/10/12

 『さあ、地獄へ堕ちよう』で横溝正史ミステリ大賞を受賞した菅原和也さんは、24歳。高校を中退した後、和食料理店、ピアノバーのバーテンダー、キャバクラのボーイと職業を変えながら、小説を執筆してきたという異色の経歴をもつ。

「学校にはほとんど行かず、部屋で本を読むか、音楽を聴いているかの10代でしたね。ミステリーが好きで、小説もちょこちょこ書いていました。今回、横溝賞に応募したのは馳星周さんが選考委員をしていたから。馳さんは『漂流街』を読んで以来の大ファン。ああいう救いのないノワールの世界に憧れます」
 

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すがはら・かずや●1988年茨城県生まれ。高校を中退後、料理人、バーテンダー、キャバクラのボーイなどの職業を経験。2012年、SM、身体改造などを扱ったノワール『さあ、地獄へ堕ちよう』で第32回横溝正史ミステリ大賞を受賞。

 経歴も異色なら、作品もまた異色だ。
 主人公のミチはSMバー《ロマンチック・アゴニー》でM嬢として働きながら、薬とアルコールに溺れる日々を送っていた。ある夜、客とトラブルを起こしたミチは、同僚・リストの部屋に泊まることに。そこで目にしたのは、徹底的に改造が施されたリストの裸身だった。

 肌を覆うタトゥー、鎖骨や胸、頭蓋骨に付けられた無数のピアス、皮膚の下に埋めこまれた金属片――。リストは自らの身体を傷つけ、装飾することに奇妙な情熱を傾けているのだ。やがてミチは、身体改造者たちのコミュニティに否応なく関わることになる。
「もともとピアスや身体改造には興味があったんです。わざわざ取材しなくても書ける世界。どうせなら思いっきり好きなものを詰めこんでやろう、と思って書きました。といっても、その世界にどっぷりというわけでもないですよ。身体改造の人たちのパーティを覗いたことがあるけど、『何なんだ、この人たちは!』という感じでびびりました(笑)。立ち位置としては主人公のミチに近いかもしれませんね」

 ミチは偶然再会した幼なじみから、《地獄へ堕ちよう》という裏サイトの存在を知らされる。そこは残酷な死体写真が多数アップされた、アンダーグラウンドな違法サイトだった。身体改造と残酷サイト。ふたつの世界が重なり合うとき、サスペンスフルでバイオレントな物語が猛スピードで転がり始める。
「《地獄へ堕ちよう》にモデルはないですが、こういうサイトがあってもいいんじゃないかな、とは思っていました。人間関係には色んな形があっていい。人づきあいがあまり得意じゃないせいか、こういう歪んだコミュニケーションのあり方に惹かれるんですよ」

《地獄へ堕ちよう》に深く関わったために、異端者たちの残酷なゲームに巻きこまれることになったミチ。サイト運営者の真の目的とは? 社会に居場所を見つけられない者たちが織りなすドラマは、青春小説として読者の胸に突きささってくる。
「作品のテーマは《生まれ変わり》。古い自分を捨てて、新しい自分になる物語です。主人公が殺されて終わり、という絶望的なエンディングにはしたくなかった。賛否両論あるだろうな、と思いつつハッピーエンドにしたのはそのせいです」

 特異な世界を舞台に、力強い物語を紡ぎあげた驚異の24歳。今後はどんな作家を目指すのだろうか。
「ノワールを書いてゆくつもりです。SMや身体改造の世界を一旦離れて、自分が一番イライラしていた10代を舞台に、シリアスなノワールを書いてみたいと思っています」

(取材・文=朝宮運河 写真=川口宗道)
 

菅原さんからビデオメッセージも!

 

紙『さあ、地獄へ堕ちよう』

菅原和也 角川書店 1575円

SMバーで働くミチは、アルコールと精神安定剤漬けの毎日を送っていた。ある日、幼なじみのタミーから《地獄へ堕ちよう》という闇サイトの存在を知らされる。そこには無数の他殺死体の写真がアップされていた――。暗黒の青春ノワール。