斎藤工「一冊の本は、一本の映画より内面に養分を蓄えてくれる」

あの人と本の話 and more

更新日:2013/12/19

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、連続ドラマ『カラマーゾフの兄弟』で、原作の“ミーチャ”を映した、無頼でロマンチストな長男・黒澤満を演じる斎藤工さん。本誌で紹介してくれた『メメント・モリ』とは別に、携えてきてくれたお薦め本とは――?

 『メメント・モリ』との出会いが、幼い日の家の本棚だったように、斎藤さんの趣味嗜好は両親のそれから深い影響を受けている。

「母がつげ義春フリークで、
うちの本棚には半端ない著作があるんです。
僕は1970年代に憧れがあって、
この時代を中心に非商業的な芸術作品を生み出した
日本アート・シアター・ギルド(ATG)
の映画が大好きなんです」

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 この日、斎藤さんが携えてきてくれたのは『メメント・モリ』のほかに2冊。1冊目は、宗教学者でもある島田裕巳の『映画は父を殺すためにある 通過儀礼という見方』(ちくま文庫)。

「映画は同時代性が一番大事だと思っているんです。
70年代に青春を過ごした著者が
リアルタイムで観た映画論はすごく興味深かった。
『スター・ウォーズ』や宮崎駿作品など、
取りあげられている映画はスタンダードなものばかり。
シネマ通ではない島田さんが書いているからこそ、
映画に対する視野も広がりました」

 もう1冊は、スピード感溢れる展開の中に、様々な映画や小説、音楽へのオマージュを斬新な切り口で盛り込んだ樋口毅宏の『さらば雑司ヶ谷』(新潮文庫)。

「雑司ヶ谷まで行って読むほどハマりました(笑)。
すごいテンポだし、構築したものを一行で更地にする
みたいな手法に最後まで連れていかれた。
受け取ったものは、震災以降、
みんなが感じている皮膚に届く痛み。
そういう現代に適した書物のような気がします」

 映画も大好きだけれど、一本の映画を観るより一冊の本を読んだほうが内面に養分を蓄えられる気がすると語る斎藤さん。

「俳優は二次元を三次元にする仕事。
自分の内側をさらすために、
内面を構築する本を読むことは、
職業上でも意義あることだと思っています」

(取材・文=河村道子、本誌編集部)
 

斎藤 工

さいとう・たくみ●1981年、東京都生まれ。2001年、映画『時の香り~リメンバー・ミー』で俳優デビュー。ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。映画通としての知識を活かし、雑誌『映画秘宝』でエッセイの連載、WOWOW『映画工房』ではナビゲート役も。大河ドラマ『八重の桜』、ドラマ『いつか陽のあたる場所で』に出演中。
(c) フジテレビ

 

紙『メメント・モリ』

藤原新也 情報センター出版局 1275円 ※品切れ

“ちょっとそこのあんた、顔がないですよ”というショッキングなひと言から始まる本作は1983年の刊行以来、読む人を圧倒し続け、20万部を突破するロングセラーに。生と死が地続きにある様相を極彩色で切り取った写真とそこに添えられた奥深い言葉の数々は、時代や見る人によって変化しながら突き刺さる。
※2008年に21世紀エディション版が三五館から発売された。

※斎藤 工さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ3月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

ドラマ『カラマーゾフの兄弟』

原作/『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー 出演/市原隼人、斎藤 工、林遣都ほか 全国フジテレビ系で毎週土曜23:10~23:55
●ある海沿いの町で一人の資産家が殺された。強欲で人望のかけらもない男だったが、容疑をかけられたのは被害者の3人の息子たち――彼らの葛藤、愛憎、背景にある過酷な家族問題を描きながら、原作が照射するものを現代日本に映しだした重厚な心理劇。
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