吉村卓也「今、“自分らしさ”のある文章を見つけようともがいてます」

あの人と本の話 and more

更新日:2014/5/2

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、10月から舞台『私のホストちゃん』に出演する吉村卓也さん。村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』の初版ハードカバーを持参して行われたインタビューでは、その魅力を語りつつ、現在執筆に挑戦しているという舞台脚本についても話してくれました。

「僕の中で、すごい! と思わせてくれる小説家はたくさんいますが、鬼才という言葉が何度も頭に浮かんだのは村上龍さんだけなんです。読みながら、何度も“どれだけすごいんだ!?”と恐ろしくなりましたね」

 初めて『コインロッカー・ベイビーズ』を読んだ時の衝撃を、吉村さんはそう語る。子供の頃から本を読むのも、文章を書くのも大好きだったという。その彼が、人生を変える一冊に出会い、その後、芝居を始めるようになってから、「自分も舞台の台本を書いてみたい」という衝動に駆られたのは、ある意味、必然だったのかもしれない。

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「物語のアイデアはどんどん出てくるので、なんとなく安易に“書けるかも!?”と思って始めたんです。でも、いざ書いてみたら全然面白くなくって……(苦笑)。比喩表現が大好きなので、そこを凝り過ぎるあまり、逆に何にも伝わらない内容になってしまうんですよね。もちろん、龍さんのような文章表現はできないし、ましてや、あれだけメッセージ性のあるものは書けません。ただ逆に言えば、自分には到底作り出せない世界観があることが分かった。それだけでも大きな進歩だと感じています。今は、自分らしさとは何か、自分の中から何を生み出せるのかを、必死にもがきながら探しているところです」

 “できない”ということに、悔しさや焦りはない。むしろ、その状況を楽しんでいるようでもある。気持ちは常にポジティブだ。

「下手だからこそ、ステップアップできると思うんです。書く度に悩んで、考えて、その度に書き方や表現方法が変わっていく。そうやって少しずつ自分のカラーを見つけていく作業ってすごく素敵だし、楽しいですね。目標としては、なんとか来年に自分の舞台を作りたいと思っているので、それまでには僕にしか生み出せないものを見つけていきたいですね」

(取材・文=倉田モトキ 写真=引地信彦)
 

吉村卓也

よしむら・たくや●1990年広島県生まれ。俳優。2007年「アミューズ30周年記念オーディション」で審査員特別賞を受賞。09年には美輪明宏主演の『毛皮のマリー』で美少年・欣也役を演じ、高評価を得る。主な近作に舞台『結晶物語』、ドラマ『美咲ナンバーワン!!』『悪女について』、映画『婚前特急』など。

 

紙『新装版 コインロッカー・ベイビーズ』

村上 龍 講談社文庫 920円

コインロッカーに捨てられていたキクとハシ。九州の孤島で育った後、ハシは母親を探し求めて姿を消し、それを追うようにキクも東京へとやってきた。やがて、キクは深海に眠るダチュラの力で街を破壊しようとし、一方ハシは自己を見つめ自滅の道へと進んでいく……。すべての時代の若者に贈る、青春小説の金字塔。

※吉村卓也さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ9月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

舞台『私のホストちゃん』

総合プロデュース/鈴木おさむ 脚本・演出/村上大樹 出演/山本裕典、松下優也、吉村卓也、貴水博之ほか 10月25日(金)〜11月4日(月・祝) 青山劇場
●同タイトルの人気ドラマが待望の舞台化。新人ホストの霧都(山本裕典)が働く「クラブバニラ」の近くに大阪のクラブ「ビビッド」が移転してきたことで、東京vs大阪のホストバトルが勃発する。出演ホストの人気投票などによって物語が変わるなど観客参加型の構成も話題に。