山内圭哉「中島らもさんからは“これを読めばやる気がおきなくなる”って言われて手渡されたんですよ(笑)」

あの人と本の話 and more

更新日:2014/5/2

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、2月に始まる舞台『Paco~パコと魔法の絵本~ from「ガマ王子 vs ザリガニ魔人」』に出演する山内圭哉さん。彼には、かつて、師である中島らもの薦めで読み始め、どっぷりハマったというある作家がいるという。はたしてその人物とは……?

 普段は小説に限らず、紀行文やルポルタージュなど、ジャンルを問わず本を読むという山内さん。なかでも好きな作家を教えてもらったところ、町田康の名前が挙がった。山内さんと町田作品の出会いは、劇団「リリパット・アーミー」に所属していた時代に遡る。ある舞台の本番中、劇団主宰の中島らもから渡された一冊がきっかけだったそうだ。

『へらへらぼっちゃん』っていう、町田さんが書かれたエッセイなんですけど。らもさんにいきなり『これを読め!』って言われたんですよ。“なんでですのん?”って聞いたら、“読んだら、何にもやる気が起きなくなるから”って(笑)。当時僕はいろんなことに頑張ってたんですけど、らもさんが“お前のそのやる気を吸い取りたい!”って言うんですよね(笑)」

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 以来、町田作品にはまった山内さんは、あらゆる作品を読みあさった。

「一時期は町田さんの本しか読んでなかったですね。あの方が書く小説って、絶対に行ったらアカン方向にばっかり進むでしょ(笑)? こうなってほしくないなぁっていう方に展開したり。そういう楽しみがあって、ずーっといろんな本を読んでました」

 やがて、そうした楽しみは山内さんのホームグラウンドである舞台へと結実していく。2006年に大阪、そして09年には東京・大阪・福岡で『パンク侍、斬られて候』を自らの作・演出で上演したのだ。

「普段、小説を“舞台化したいな”って意識して読むことはないんですけど、『パンク侍、斬られて候』だけは特別でした。昔のアングラ芝居を感じさせる内容で、“これを舞台でやったらおもろいやろな”と思ったんです。当時は周りから、映画ならまだしも、演劇じゃ絶対にムリやって言われましたよ。でもね、僕は逆やと思った。映画なら確かに人が斬られるシーンもCGとかで上手にできるやろうけど、それだと普通すぎるんちゃうかなって。それより、舞台上で血が飛ぶところを生々しく見せたほうが絶対におもろいやろなって。舞台ってすごくアナログな世界ですけど、そのアナログさと町田さんの作品ってすごく合うんですよね。後にも先にも、あそこまで舞台化したいと思わせてくれた小説は、あの作品だけでしたね」

(取材・文=倉田モトキ 写真=山口宏之)
 

山内圭哉

やまうち・たかや●1971年大阪府生まれ。俳優。13歳の時に映画『瀬戸内少年野球団』で主演デビュー。中島らもが主宰する劇団「リリパット・アーミー」を経て、2001年より「Piper」に参加。「劇団☆新感線」や「阿佐ヶ谷スパイダース」などの出演も多く、最近の舞台に『鉈切り丸』『こどもの一生』など。

 

『観光』書影

紙『観光』

ラッタウット・ラープチャルーンサップ/著 古屋美登里/訳 ハヤカワepi文庫 840円

デビュー作にして、世界を騒がせたタイ人作家による短編集。失明間近の母親と遠方への大学の進学を控えた息子が、さまざまな思いを胸に抱えながらリゾート地を旅する表題作「観光」や、海外旅行者を忌み嫌いながらも、彼らなしでは生活できない現地人たちの鬱屈した思いを描いた「ガイジン」など、全7編を収録。

※山内圭哉さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

『Paco~パコと魔法の絵本~ from「ガマ王子vsザリガニ魔人」』

作/後藤ひろひと 演出/G2 出演/谷花音・キッド咲麗花(Wキャスト)、西岡德馬、松下優也、 安倍なつみ、吉田栄作ほか 2月7日(金)より東京・シアタークリエほかにて上演
●舞台は都内の大病院。偏屈で頑固で病院中の嫌われ者の大貫は、ある日、不思議なたたずまいの少女・パコと出会う。彼女が枕元に置くお気に入りの絵本「ガマ王子vsザリガニ魔人」。童話の世界をモチーフに、医者や患者達、大貫とパコを取り巻く人々が繰り広げる、心の奥底に響く、爆笑と感涙の大人のヒューマン・ファンタジー。