土村 芳「大好きな西加奈子さん作品との出会いは、中学生の時のすてきな偶然でした」

あの人と本の話 and more

公開日:2014/7/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台『母に欲(ほっ)す』に出演する土村芳(つちむらかほ)さん。彼女流の読書のこだわりとは?

 亡くなった母、新しく来た母をめぐり、男だけの一家に静かなさざ波が立ち始める――劇作家・三浦大輔が長年温めてきた“息子にとっての母親”というテーマに迫る舞台『母に欲す』。ベテラン俳優たちのなかで、土村さんは今「吸収の毎日」だという。

「三浦さんが“集大成”とおっしゃる作品に出演させていただくのは、本当に光栄なこと。この舞台から日々吸収していることは、必ず次のステップにもつながっていくと思っています」

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 今回選んでくれた『ふくわらい』からも、たくさんのことを受け取ったという。実は、候補に挙げてくれた3冊すべてが西加奈子作品だった。

「西さん、大好きなんです。出会いは中学生のとき。テスト勉強の最中に現実逃避をしたくなって(笑)、本屋さんへ出かけたんですね。それまで本はあんまり好きではなくて、いつも最後まで読むことができなかったんです。作家の方の名前もわからなかったから、店に入って、まっすぐに行った先にある本を手に取って……」

 それが、西加奈子の『さくら』だったという。

「なんとなく開いて読み見始めた途端、“この人の本なら最後まで読める”って直感して。それからずっと西さんの作品を読み続けています」

 けれど新刊情報を調べることはあえてしないのだという。

「本屋さんで見たことのない西さんの本の表紙を見つけたときの“あ、ある”という、感じを自分のなかですごく楽しみにしているので。“いい本と出会えた!”という、初めて西さんの本を手にした時の、あのうれしさを何度も感じてみたいんです」

(取材・文=河村道子 写真=冨永智子)

土村 芳

つちむら・かほ●1990年、岩手県生まれ。京都造形芸術大在学中に、教授であった林海象監督に注目され、劇団姫オペラ公演『花ちりぬ』の主役に抜擢。2013年より全国順次公開の映画『弥勒–MIROKU–』で再び主演。14年、主演舞台『銀河鉄道の夜』がシアターグリーンフェスタ2014で賞を受賞した。出演作に映画『カミハテ商店』『QULOCO』など。
スタイリング=有本祐輔 衣装協力=ロングスカート1万3800円(税別)(a+koloni/ファラオ)

 

『ふくわらい』書影

紙『ふくわらい』

西 加奈子 朝日新聞出版 1500円(税別)

“福笑いがこの世で一番面白い遊びだと思っていた”鳴木戸定は人肉を食べたことでも有名な編集者。猪木に憧れるロートルレスラー、言いよってくる盲目の男……人々のすべてを受け入れ、その本質をまっすぐに見つめようとする定が行き着いた境地とは? 言葉の力が溢れ出る、幸福で美しい物語。第1回河合隼雄物語賞受賞作。

土村芳さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ8月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

舞台『母に欲す』

作・演出/三浦大輔 音楽/大友良英 出演/峯田和伸(銀杏BOYZ)、池松壮亮、土村 芳、片岡礼子、田口トモロヲほか 7月10日(木)~29日(火)PARCO劇場、8月2日(土)・3日(日)森ノ宮ピロティホール
●東京で怠惰な日々を送る裕一が母の死を知ったのが通夜の後。実家に帰った裕一をなじる弟・隆司。葬儀の2カ月後、男だけの家に、父が二人の“母親”になる女性を連れてきて─“男子にとっての母親”に迫る意欲作。