中谷美紀「普段の私は、コートのボタンがとれても自分ではつけないタイプです(笑)」

あの人と本の話 and more

公開日:2015/1/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。映画『繕い裁つ人』で、頑固で真っ直ぐな洋裁店の二代目・市江を演じた中谷美紀さんが考える「洋服」の持つ意味とは……。

 主演映画『繕い裁つ人』について「自分が決めた限界を超えたい、自分を縛っている何かを壊したいと思っていらっしゃる方には、何かしら感じていただける作品ではないかなと思います」と語る中谷美紀さん。

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 洋裁店のお話だけあって、劇中では、ファッションクリエイター・伊藤佐智子さんの手による数々の美しい洋服が登場する。なかでも印象的なのは、市江のブルーの仕事服だ。

「実は、生地も結構硬くて、着て作業しやすいかというとそうでもないんです。彼女にとって、あの服は接客業としてお店に立ち、また職人としてミシンを踏む時の鎧だったのかもしれません。私たちは、どんな人間でも社会の中で与えられた役割を演じているものだと思います。洋服は、その与えられた役割を表現する手段の1つで。自分に欠けているものを補う鎧であったり、あるいは何かを隠すためのものでもあったり……。私自身も普段の自分と、主演として人前に立つ時と助演として人前に立つ時と、ある程度着るものは異なります。劇中にもなかなか外に出られなかった少女が、一枚の洋服によって気持ちが変わるというエピソードが出てきますが、人を動機づける大きな力を洋服は持っている。その代わり、自己顕示欲を表すような空虚なものにもなりがちだとも思うので、気をつけたいですね」

 洋裁店店主として、勢いよくミシンを踏んだり、鮮やかに裁ちばさみを使ったりする姿が美しかったが、やはり中谷さんは以前から裁縫が得意だったのだろうか。

「いいえ、まったく(笑)。テイラーにうかがってボタンつけをさせていただいたり、洋服を作っている友人のところに行って作業を一日眺めたりして、勉強しました。練習段階ではだいぶ布を無駄にしてしまいましたね。普段の私は、コートのボタンがとれても自分ではつけないタイプです(笑)」

(取材・文=門倉紫麻 写真=舞山秀一)

中谷美紀

なかたに・みき●1976年、東京都生まれ。93年女優デビュー。映画『嫌われ松子の一生』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、舞台『猟銃』では紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞歴多数。2014年の東京国際映画祭ではフェスティバル・ミューズを務めた。主演ドラマ『ゴーストライター』は1月スタート。
ヘアメイク=カワムラノゾミ スタイリング=岡部美穂 衣装協力=ブラウス2万2000円(エンフォルド/バロックジャパンリミテッド)TEL03-6730-9191

 

『陰翳礼讃』書影

紙『陰翳礼讃』

谷崎潤一郎 中公文庫 476円(税別)

厠については「昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた厠へ案内される毎に、つくづく日本建築の有難みを感じる」、羊羹については「あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ」……暗がりの中に美を見出す、日本独特の感覚について谷崎が語り尽くす。昭和8年初出。

※中谷美紀さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『繕い裁つ人』

原作/池辺 葵『繕い裁つ人』(講談社『ハツキス』連載中) 監督/三島有紀子 出演/中谷美紀、三浦貴大、片桐はいり、黒木 華、余 貴美子ほか 配給/ギャガ 1月31日(土)ロードショー
●町の洋裁店「南洋裁店」二代目店主・市江。祖母の遺した服を末永く着てもらえるようにとコツコツと直し、作り続ける。「現世利益を求めない、修道女のような人」(中谷さん)。そんな彼女の服にほれ込み、オリジナルを作るよう強く勧める百貨店勤務の藤井。この出会いをきっかけに、市江に変化が訪れる──。
(c)2015 池辺葵/講談社・「繕い裁つ人」製作委員会