山下敦弘「大阪なんばと北区赤羽には、共通点がありました」

あの人と本の話 and more

公開日:2015/2/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、関ジャニ∞の渋谷すばる単独初主演作『味園ユニバース』を監督した、山下敦弘さん。記憶喪失になった男が、歌の力で自分の新しい居場所を見つける……。フィクションの中に、個人的な思いをめいっぱい盛り込んでいるという。

 映画の舞台は、大阪。なんば千日前に実在する元グランドキャバレー「味園ユニバース」周辺で巻き起こる物語だ。山下さんは愛知県出身だが、かつて大阪で暮らしていた経験がある。自主映画製作に夢中だった、大阪芸術大学時代だ。

「悪名高い“新世界”に住んでいました(笑)。2004年に東京に出るんですけど、二度と帰ってくるかと思ったんですよ。六畳の部屋に男二人で住んでて、片付けしないからゴミだらけで。シャワーも出が悪いし、水も臭くて飲めないし、自分の人生において最底辺の時代だと思っていたんですよ。でも、この映画を撮るために大阪の街をロケハンしてみたら……面白かったですねー。あの頃は余裕がなかったから見えていなかったものが、どんどん目に飛び込んできて。例えば、“カラオケ”って描いた看板がぽつんと住宅街に立っているから入ってみたら、昼間からおっちゃん達がせっせと懐メロを歌っていた。ここは何かというと、“カラオケ道場”だったんです。あまりにも異空間すぎて、映画の重要なシーンの舞台にしちゃいました(笑)」

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 山下さんは現在、テレビ東京で放送中のドキュメンタリードラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(毎週金曜深夜0時52分〜)の監督も務めている。なんば(大阪)と赤羽、2つの街には共通点があると教えてくれた。

「建物の中に引きこもっていないで、路上にちゃんと人がいて、そこで生活してる感じがするんですよ。というのは大阪も赤羽も、街の中にちゃんと灰皿があるんです。煙草を吸う人間を排除しないというか、“吸っちゃいけません”と言ったら“オレの自由だ!”と言いそうな人が多いというか(笑)。普段自分が東京で暮らしている街とは違う、人間の占める匂いが濃い街だから、どっちにも惹かれるのかもしれないですね」

(取材・文=吉田大助 写真=川口宗道)

山下敦弘

やました・のぶひろ●1976年生まれ、愛知県出身。大阪芸術大学在学中に先輩バンド“赤犬”、『味園ユニバース』の音楽担当・池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)と出会う。卒業制作『どんてん生活』(99年)で注目を集め、青春音楽映画『リンダ リンダ リンダ』(2005年)でブレイク。最新作は、ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』。

 

『ECDIARY』書影

紙『ECDIARY』

ECD レディメイド・インターナショナル 1200円(税別)

1960年生まれのラッパーのECDが綴る、2004年2月から5月まで101日間の記録。
レコード会社からの契約を自らの意思で打ち切り、自由に表現できるインディーズへ。劇場の裏方として働きながらライブをし、本を読みサウンドデモに参加して、恋もする。「生活」の中から湧き出てくる言葉の数々はとことんリアル。

※山下敦弘さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ2月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『味園ユニバース』

監督/山下敦弘 出演/渋谷すばる 二階堂ふみ 鈴木紗理奈 赤犬 配給/ギャガ 2月14日(土)より、TOHOシネマズ、六本木ヒルズほか全国ロードショー
●ビッグバンド・赤犬のライブが行われていた公園に傷だらけの男(渋谷すばる)が乱入し、和田アキ子の「古い日記」を熱唱する。男は記憶喪失だった。赤犬のマネージャーでスタジオ経営もしているカスミ(二階堂ふみ)に拾われ、「ポチ男」と命名。奇妙な共同生活が始まる。渋谷すばるのハードな歌声と、赤犬の包容力のあるサウンドが見事にコラボレーションしている。
©2015「味園ユニバース」製作委員会