自分はこんなに変われるんだって自分でもびっくりだったんです 「NEWS」加藤シゲアキインタビュー

新刊著者インタビュー

公開日:2015/6/5

 アイドルグループ「NEWS」のメンバーで、小説家としても活躍する加藤シゲアキ。渋谷を舞台にしたデビュー作『ピンクとグレー』から始まる“渋谷サーガ三部作”を昨春、見事完結させた。次の一歩はどの方向に、どんなふうに踏み出すべきか? 第3作『Burn.−バーン−』刊行直後にインタビューした際、彼は本誌でこう激白していた。

「自分を壊したいんです。中途半端に小器用なところがよくない(笑)。もっといびつなものを書いてみたいという気持ちが今は強いですね。次は短編でチャレンジしてみるのも面白いかも。自分はこういう作家なんだというカラーは決めたくないんです」(2014年5月号)

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 実はこのときのインタビューが、初の短編集となった第4作 『傘をもたない蟻たちは』誕生のきっかけとなった。

「本の打ち上げと次回作の打ち合わせがなぜか抱き合わせになっているんです。前の本を出してほっとしていたところに、編集者から“短編を書くって取材で言ってましたよね?”って(笑)。その場で締切を設定されて、文芸誌で書くことになりました」

 それが冒頭に収録された「染色」だ。美大に通って3年目、優等生の市村が、橋脚にスプレーでグラフィティアートを描く美優と出会う。二人はお互いの才能を認め合い、共作と半同棲生活を始めるが……。

「スプレーを手に吹き付けて塗りたくっている女性を昔、バーで見たんです。ヤバイ匂いがしたし、誰なのか分からないし、そのとき話しかけたりもしてないんですが、編集者に“何を書きたいですか?”と訊かれた瞬間、その情景をふっと思い出して。ラストシーンを最初に決めました。今までの小説は起承転結がはっきりした、人が面白がりやすい書き方をしていた。『染色』ではもっと純文学的というか、自分の中のイメージを大事にする書き方を心がけてみたんです」

 この短編で初めて、長編三部作では必須条件だった「渋谷と芸能界」という縛りを解いてみた。そうして「物語」の自由度を一気に高めた。その感想は?

「すごく楽しかった。反響も結構あったし、こういう書き方もありなんだと味をしめました(笑)」

 そんな初挑戦が形になりつつある頃、意外な話が舞い込んだ。20~30代の男性に支持される『週刊SPA!』から、小説連載の依頼があったのだ。お題は“サラリーマン小説”。受けて立つ、と決めた。

「Undress」というタイトルの本作は、エリートサラリーマンの主人公が会社を辞めるところから物語が始まる。将来に夢を抱き、晴れ晴れした気分になっていた彼の周囲にはさまざまな悪意がうごめいていた──。

 これまで書いてきたものと物語のムードがまるっきり違う。

「読者層を意識して書くということを初めてやってみたんです。『SPA!』のいろんな記事を読んでみた感想としては、これは褒め言葉なんですけど、すごく“ゲスい”なって(笑)。読者はこういう内容を求めてるんだって考えていくうちに、『アウトレイジ』風にいうと“全員クズ”みたいな話になりました。『SPA!』を読んでる人からすれば、“ジャニーズがなぜここで小説を書いてるんだ? サラリーマンのことなんてわかりゃしないだろ?”と。でも、そんな人たちにこそ“面白い”って言わせたい。読者に挑むような強い気持ちで取り組めたのも、ここまで色の違うものを書けた理由なのかなと思います」

 

自分の中のピュアな部分をお話に織り込んで提示する

 お題をもらい、掲載誌のカラーも意識ながら短編を書き上げる。外部からの刺激を積極的に取り込むことで、新たな可能性を切り開く──。

 偶然か必然か、「Undress」を皮切りにその試みが連鎖していった。本誌編集者から届いた依頼は、“「男の恋愛」特集に掲載する恋愛小説”。なんとその依頼状そのものを作中に盛り込む、実験的な短編を書き上げた。タイトルは、「恋愛小説(仮)」。文体もがらっと変えている。

「ダ・ヴィンチさんの依頼が一番悩んだんですよ。そもそも“恋愛小説ってなんだろう?”と。“恋愛って何?”とか考えていくうちにわからなくなってしまって。主人公は小説家に設定しているんですが、ここに書いた主人公の悩みは全部ノンフィクションです(笑)。そこから一気にファンタジックな方向に話を持っていって、現実と夢の境界線が曖昧になっていくさまを描いてみました」

 女性カルチャー誌『シュシュアリス』からは“食”というお題をもらい、短編「イガヌの雨」を書き上げた。舞台は毎年12月に、超絶美味の宇宙生物“イガヌ”が降ってくるようになった近未来日本。女子高生の美鈴は、祖父に禁じられていたイガヌをついに口にするが……。

「僕はよく料理をするし、食べるのも好きなので、食についてはいろいろ思うことがあって。例えば、“食べていいものと食べちゃいけないものとの境ってなんだろう?”とか。あと、僕は魚をさばくんですが、そういうグロテスクなところは見たくないっていう人がいる。“さばくところは見られないのに、食べることはするの?”という素朴な疑問を持っていたりして……。そういった自分のひねくれた思考回路を織り込みながら、お話としても面白いものを書きたかったんです」

 自分が抱えているピュアな部分、他人には見せられない凶暴な部分を、物語のオブラートに包んで飲み込ませる。そのとき、読者は己の価値観を揺さぶられることになる。小説家・加藤シゲアキが常に試みようとしているのは、その反応を引き起こすことなのだ。

「読むとほっこり、みたいな感触は最初から目指してないですね。読んでいる人の気持ちをえぐりたいし、ざくっと爪痕が残るようなものを書きたい。僕の根幹にある衝動は、それです」

加藤シゲアキ
かとう・しげあき●1987年7月11日生まれ、大阪府出身。2012年『ピンクとグレー』で作家デビュー。13年に第2作『閃光スクランブル』、14年に第3作『Burn.−バーン−』を発表。これら渋谷サーガ3部作は、いずれもベストセラーに。アイドルグループ、NEWSのメンバーとしても活躍の幅を広げている。