福田麻由子「好きすぎて、何度も読み返しています」

あの人と本の話 and more

更新日:2017/2/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、2月4日に公開された映画『恋愛奇譚集』で主人公と心を通わす謎の美少女・ユリ役を演じ福田麻由子さん。鋭い感性を持つ読書家の福田さんが、何度も読み返し、映画化して出演することまで夢見る異色の青春小説とは。

「私は人の感情に興味があって、だからこそ本谷有希子さんの諸作品のようにあらゆる感情をしっかり描いた小説は読んでいて気持ちがよくなるんです」

 一番のお気に入りは芥川賞候補になった『あの子の考えることは変』。

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「好きすぎて、もう何度も読み返しています。二人の登場人物、日田(にった)も巡谷(めぐりや)もすごくぶっ飛んでいるけれど、根本を突き詰めていくと、私の中には巡谷的なところも、日田的なところもある。たとえば、この人と一緒にいると巡谷目線で相手を見るけれど、あの人が相手だと日田目線になる、というように、二人の間をあっちに行ったりこっちに行ったりしている。そんな感じです」

 怪しげな情報源から得たダイオキシンの与太話を信じ込み、独自の世界に生きている日田。そんな日田を冷ややかに観察しながらも、なぜか心の安らぎを感じる巡谷。変な二人の変な日常は、時に感情がオーバーフローを起こして爆発する。

「でも、『変』って、実は普遍的なものなのではないでしょうか。確かにこの人たちは変だとは思うけれど、じゃあ何と比べて変なのかと考えると、正直よくわからなくなります。一般的には、世の中で何となく常識とされているところから外れたら、それが『変』なのかもしれません。でも、それは単に数の問題、似たような考えの人が少ないという意味でしかないようにも思うのです」

 生きづらい女たちを描くことで、誰もが等しく抱える『変』をあぶり出す、そのおもしろさ。

「女として生まれて、そこは変えることができなくて、そのまま人と関わるから生まれてくるウジャウジャ感は、女だからこそわかるというところもあると思うんです。本当の意味での『女』を描いているのがすごく素敵です」

(取材・文=門賀美央子 写真=冨永智子)

福田麻由子

ふくだ・まゆこ●1994年、東京都生まれ。子役としてデビュー後、数多くのテレビドラマや映画に出演。出演映画に『ヘブンズ・ドア』『FLARE フレア』『桜、ふたたびの加奈子』、出演ドラマにNHK BS『最後のレストラン』、連続ドラマW『コールドケース~真実の扉~』など多数。
ヘアメイク=尾曲いずみ

 

『あの子の考えることは変』書影

紙『あの子の考えることは変』

本谷有希子 講談社文庫 429円(税別)

ダイオキシンと自分の体臭を異様に気にする自称“手記家”の日田とGカップのバストに自己の存在意義を見出す巡谷は都内のアパートで二人暮らし。巡谷はバイトすら勤まらない日田を冷ややかに観察し、小馬鹿にしているが、巡谷自身も奇妙な行動が目立つ。二人の女の、過剰で孤独な日々をポップに描く青春小説。

※福田麻由子さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ3月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『恋愛奇譚集』

監督/倉本雷大 脚本/狗飼恭子 出演/ヤオ・アイニン、和田聰宏、内田 慈、福田麻由子、栁 俊太郎 配給/プロジェクト ドーン 新宿シネマカリテにて公開中。ほか全国順次公開 
●台湾から福島県天栄村にやってきた留学生ユーウェンは言葉の壁のために友達もできず、寂しい日々を過ごしていた。そんなある日、赤いコートを着たユリと名乗る女性と出会い、心を通わせていく。ユーウェンは次第にユリの秘密に気づき始め……。豊かな自然を背景に描かれる人間ドラマ。
(c)2017「恋愛奇譚集」製作委員会