ネコをもっと好きになる電子写真集『ちょっとネコぼけ』

新刊著者インタビュー

更新日:2014/4/17

ネコ好きだけでなく、世界中の人を魅了する岩合光昭さんの写真。
『ちょっとネコぼけ』では半数の写真に岩合さんが自らが音声で解説。
印刷版写真集ではわからなかった撮影時のエピソードや
世界的動物写真家ならではのネコの生態や鋭い観察を聴くことができて
印刷版の写真集の半額という超お買い得作品です。
前編ではなぜこういう形態でリリースしたのか、その背景をうかがいました。

高精細なiPadでの画像と音声解説で
写真集の楽しみ方がより広がる、深まる

岩合光昭

いわごう・みつあき●1950年東京都生まれ。動物写真家。『ナショナルジオグラフィック』の表紙を飾るなど、全世界で高い評価を得ている。アフリカの野生動物を撮影した写真集『おきて』は全世界で20万部のベストセラーに。また、ライフワークとしてネコの写真を40年近く撮り続けており、妻・日出子氏との共著『海ちゃん‐ある猫の物語』ほか、『ニッポンの猫』、『そっとネコぼけ』などネコ写真集も多数出版。3月10日写真集『ぱんだ』(クレヴィス)が刊行され、3月20日まで上野松坂屋で写真展「ぱんだ」が開催中。

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――岩合さんの写真ファンやネコ好きにとって、『ちょっとネコぼけ』は待ちに待っていた電子書籍です。写真の高い再現性、精細さでは紙の写真集はiPadアプリにはかなわないと実感しました。

【岩合】そう感じていただけているのならうれしいですね。僕自身、テスト画面を見たとき、「オフセット印刷よりきれいだな」と思ったくらいですから。もっとデータを重くしてもいいのだけれど、あっという間にネットに流れてコピーライト(著作権)がなくなってしまう。写真家としては悩ましいですね。

――『ちょっとネコぼけ』はネコ好きから長く愛されている写真集であり、ネコ写真ブームの火付け役です。なぜ、印刷版の刊行から7年目にして、電子書籍化したのでしょうか?

【岩合】ソフトの機能が充実してきたからです。読者からすると、ちょっと前まで「電子書籍はこんなこともできないの?」という印象だったのではないでしょうか。僕自身、写真集を単に電子書籍に置き換えたような本は出したくなかったので、たびたびお話はいただいていても、お断りしていたのです。『ちょっとネコぼけ』では担当者から、実際にどんなことができるのかを見せてもらってリリースを決めました。

――半数以上の写真に、岩合さん自身の音声での写真解説がつけられています。印刷版をすでに拝見していましたが、解説によって「そうだったのか!」と新たに知ることが多く、写真をより深く理解できる。だから、登場するネコたちがより愛おしくなりました。

【岩合】音声を入れられることも、リリースの大きな理由です。電子書籍はより読者の立場にたってつくらなければならないと僕は考えています。電子書籍になると、より読者とのつながりややりとりが多くなる。紙の写真集では短いキャプションと文章をつけていましたが、もっとそれぞれの写真について話したいと以前から思っていました。それが電子書籍ではできます。今後は動画も所収していきたいのですが、これが難しい。一瞬をとらえる写真のマジックが使えませんから。読者に納得していただけるものが、なかなか撮れなかったりするんです。

――このiPadアプリ版は本当にお買い得です。印刷版の半額で岩合さんの美声で撮影時の裏話を聴けて情報が多く、印刷版より写真もきれい。なぜこの価格にしたのですか?

【岩合】半額にしたいと僕から提案しました。「いっそ500円にしよう」とも言ったら、「さすがにそれでは赤字です」と担当者に断られました(笑)。電子書籍の写真集がなかなか注目されないのは、売れていないという実状があるからです。しかし、時代がまだ訪れていないというのは違うと僕は思っています。多くの読者に満足してもらうだけの本をつくっていないからと考えるべき。それだけつくり手が試される媒体です。

――私を含めて、岩合さんの写真のファンはたくさんいます。なぜ、iPhone版を同時リリースしなかったのでしょうか。お気に入りのネコ写真を携帯して、通勤や通学中にスマホでちょくちょく眺めたい読者は多いと思うのですが。

【岩合】同じことをずいぶん言われました。しかしソフトの関係でiPad版のみとなりました。電子書籍は発展途上。端末の制約もそうだし、操作性においてもまだ完全に柔らかく、意のままというところまではいっていません。機能は日進月歩。「こんなこともできるのか!」という技術が増えれば、写真家もアイディアが浮かびます。もっと読者に喜んでもらえる、かわいがってもらえるコンテンツがつくれます。可能性はまだまだあると思っています。

 

ぷぅっと膨らんだ鼻ちょうちんの瞬間をとらえた一枚。印刷版と比べると細めた眼の様子、一本一本の毛、その下にある体温まで伝わってくる

 

電子『ちょっとネコぼけ』

岩合光昭/小学館/App Store/iPad/800円

ネコを撮影したら世界一!」とレビュアーが心底思っている岩合光昭さんのiPadアプリ版ネコ写真集。30 年以上かけて撮影した膨大な写真から88点を厳選し、半数以上に岩合さん自身による音声解説を収録。世界的動物写真家の卓越した観察眼ともに、ネコに向けられるやさしいまなざしを体感できる写真集。本書の魅力はiPadの高精細なディスプレイでの再現される写真の素晴らしさ。ネコの毛のもふもふ感や体温、さらに鼻息まで感じられるリアルさ。ネコの後ろに広がる風景も愛しい。