サイコな女はあなたの隣に? 岩井志麻子が語る「あの女」の恐怖
更新日:2013/8/9
近頃、サイコな女たちが世間を騒がせている。
某女性芸人をマインドコントロールしていたという占い師の女、結婚を餌に次々と独身男性を毒牙にかけたと疑われる女、妹を監禁して死に至らしめた女。ニュースを見るたび、眉をひそめたり、肩をすくめたりすることしきりという向きも少なくないだろう。
だが、心のどこかで「サイコな女なんて私には関係のないこと」と思ってはいないだろうか。あれは、自分とは遠い世界のお話、と。
ところがどっこい、サイコな女はすぐそこにいると教えてくれるのが、岩井志麻子さんの新刊『あの女』なのである。
「私が実際に体験した、ある女との身震いするようなエピソードを書き綴ったのが本書です。個人が特定できそうな情報は変更してありますが、起こった出来事は全て本当にあったことなんですよ。どんなに信じられないような話でも……」
怪物級に異常な女と過ごした数年間
今から十年近く前、とあるマッサージ店で岩井さんは“あの女”と出会った。
「たまたま隣同士でマッサージを受けていたら、声をかけられたんです。『作家の岩井志麻子さんですか? 私、ファンなんです』って。そう言われたら、私も悪い気はしませんから、しばらくおしゃべりしていたんですね。すると、いきなり自分はもともと有名芸能人のマネージャーをやっていて、出版関係にも顔が効くから岩井さんのスタッフをやってあげようと言い出したんですわ」
普通なら見ず知らずの女にいきなりそんな申し出をされても、ではお願いします、とはならないだろう。だが、岩井さんはなぜかきっぱり拒否することができなかったと言う。
「それどころか、住んでいる場所を聞かれて素直に教えてしまったんです。今となっては我ながら無防備だと思いますけど」
たまたまマッサージ室の窓から見えていたマンションを指さして、「あそこよ」と答えた途端、女は目を輝かせてこう叫んだそうだ。
「なんて偶然なんでしょう。私もあそこに住んでいます。私のほうが先に入居しています。やっぱり私達、強い縁があるんですよ。やっぱり結ばれることになっていたんですよ」
結局、女は岩井さんのスタッフに収まることにまんまと成功する。
この顛末は第三章「あの女その後」に詳しいが、驚いたことに女が岩井さんに話した経歴はなにもかも嘘だったのである。それどころか、「偶然の出会い」も。
自称・元敏腕マネージャーの化けの皮が剥がれるには、そう時間はかからなかった。そのあたりの、呆れてものも言えないようなエピソードは、実際に本を手にとって確認してほしい。だが、単なる嘘つき女なら、そう珍しくもない。どこのオフィスにも、自分を大きく見せようとして、バレるような嘘を平気でつくタイプはいるものだ。
だが、彼女はそれではすまなかった。
女の「あの女」たる所以は、嘘のメッキが剥がれ落ちてから発揮されるのである。
どんどんエスカレートする虚言、周囲の男性たちに対する異様な性的アピール、そして霊感があるとの触れ込みで岩井さんに仕掛けてきた心霊的な脅迫。
「私の夫に、女の霊が憑いていると言い始めたんですわ」
この頃から、岩井さんも女に強い疑念を持つようになる。岩井さんの心が離れていくのを敏感に感じ取った女は、ますます異常性を発揮していく。最終的には女を馘首せざるをえなくなるのだが……。
真の『あの女』はそこから始まった。