堤幸彦「僕自身、まだ抗いたい、まだ逆らいたいという気持ちがあるから」

あの人と本の話 and more

更新日:2013/12/19

毎月3人の旬なゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、斬新な手法で独自の映像世界を切り開いてきた堤幸彦監督。渾身の異色作『MY HOUSE』については、56歳にして「もう一度、監督デビューする気持ちで撮った」と語る。その真意に迫った。

「最近大学に復学したんです」と堤監督は言う。

「僕は大学を途中でクビになった人間でね。
今、通信教育で地理を学んでるんだけど、
すごく楽しい。
この間は水文学研究の現地学習で水質検査しながら、
東北の被災地をめぐる旅をして論文を書きました」

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名古屋で『MY HOUSE』の撮影をしていた時に、東日本大震災が起こった。

「『自虐の詩』『スシ王子!』で
お世話になった気仙沼に、
ボランティアで何度も行って、
年末に気仙沼でもドキュメンタリードラマ
『Kesennuma,Voices』(3月11日にCSで放送)
を撮ったんです。
たとえ自腹でもいいから、
やるべきことをやらねばという思いでした」

『MY HOUSE』の主人公は組み立て式の家に暮らすホームレスだ。壊されても、壊されても、また家を建てる。

「それって抵抗そのものですよね。
そこは危険と背中あわせで
決して牧歌的なユートピアではないけれど、
あの自由自在さ、タフな生命力に惹かれました」

そうして何度でもスタート地点に立ち続けることができることを、「強さ」と言うのかも知れない。

「僕もこの作品が新たな
デビュー作のような気持ちなんですよ」

(取材・文=瀧 晴巳 写真=鈴木慶子)

堤 幸彦

つつみ・ゆきひこ●1955年愛知県生まれ。88年、オムニバス映画『バカヤロー! 私、怒ってます』内『英語がなんだ』で監督デビュー。『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『トリック』など斬新な演出で連続ドラマにおける独自の映像世界を切り開く。映画『明日の記憶』『20世紀少年』3部作、『BECK』など多彩なジャンルのヒット作を手掛けてきた。

 

紙『八月の犬は二度吠える』

鴻上尚史 / 講談社 / 1785円

山室は旧友の長崎と再会するため、二十数年ぶりに京都を訪れた。余命半年の死の床にある長崎は、かつてひとつの恋が原因で未遂に終わった「八月の犬作戦」で自分を送ってほしいという。あの頃果たせなかった笑激の作戦を遂行すべく、今や40代の男たちが決起する。京都を舞台にしたほろ苦い青春グラフティの傑作。

※堤幸彦さんの本にまつわる詳しいエピソードは
ダ・ヴィンチ6月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

映画『MY HOUSE』

原作/坂口恭平 企画・監督・脚本協力/堤 幸彦 出演/いとうたかお、石田えり、村田 勘、板尾創路、木村多江 配給/キングレコード、ティ・ジョイ 5月26日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
●都会の片隅に鈴本さんとスミちゃんが作った組み立て式の家が建っている。目からウロコのアイデアを駆使してほぼ0円生活を送る彼らはホームレスと呼ばれている。家とは? 本当に必要なものとは? 幸せとは何なのか? 凝った映像処理や笑いも封印し、モノクロの映像で挑んだ、堤幸彦渾身の異色作。
©2011「MY HOUSE」製作委員会