8周年の『アイドルマスター シンデレラガールズ』、それぞれの想い⑦(片桐早苗編):和氣あず未インタビュー

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公開日:2019/11/10

(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『アイドルマスター シンデレラガールズ』のプロジェクトが始動したのは、2011年。今年でまる8年を迎える『シンデレラガールズ』は現在、東名阪の3都市で、それぞれ「Comical Pops!」「Funky Dancing!」「Growing Rock!」と異なるテーマを掲げたライブツアーを行っている。9月に開催された幕張公演では、ステージ上でパフォーマンスを繰り広げるアイドル(=キャスト)と、彼女たちを見守り、支え、盛り上げるプロデューサー(=ファン)が気持ちを通い合わせる光景を目撃し、改めて『シンデレラガールズ』のライブや楽曲が生み出す引力を実感した。今回も、7周年を機に実現した昨年の特集に続いて、自身が演じるアイドルとの信頼関係や、ライブへの想いを、3都市のライブのいずれかに出演するキャストに、熱く語ってもらった。キャストインタビューのラストは、名古屋公演に出演した、片桐早苗役・和氣あず未のインタビューをお届けする。

『シンデレラガールズ』に関わって、人前に出る楽しさを知ることができた

――『アイドルマスター シンデレラガールズ』は今年で8周年になります。和氣さんは、これまで4年間このプロジェクトに関わってきて、『シンデレラガールズ』にどんな印象を持っていますか。

和氣:高校の同級生がずっと『アイドルマスター』が好きで、私もカラオケで歌ったりもしていたんです。初めてのオーディションでいただいたのがこの作品だったんですけど、「受かったとしても、ライブで歌えるかな」って不安に思っていたんですけど、関わっていくうちに、本当に成長させていただいていて。作品に関わっている皆さんが優しいし、支えてくれてるファンの方も、最初から温かく受け入れてくれて。プロデューサーの皆さんやスタッフさんも、「最初から100パーセントは要らないから、早苗さんと演じていって、一緒に成長していってる姿を見たいから」って言ってくださる、めちゃめちゃ温かい作品です。

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――初めてライブに出たとき、ステージから見える景色はどういうものでしたか。

和氣:もう、「奥が見えない」って感じです。「このまま落ちたら私は世界からいなくなるんじゃないか」って思うくらい(笑)、水平線みたいに果てしない景色でした。でも、皆さんが振ってくれるライトがすごくきれいで、ウルッときちゃって。自分があんなに大きなステージに立てるとも思っていなかったし、夢じゃないんだなあって思って、感動しました。ライブで、早苗さん役をいただいたことを改めて実感したし、今まで憧れてきた人たちと同じステージに立てている喜びもありました。

――早苗さんは、和氣さんにとって初めてオーディションを受けた役。声優として初めて担当した役だそうですね。そう考えると、めちゃくちゃ大事な一歩目だったのかな、と。

和氣:はい。一歩目だし、専門学校にいたときから、「オーディションは100パーセント受かるものじゃないし、落ちるものなんだよ」って聞いてたんですよ。「1本落ちても、次頑張ろうって前向きになってもらえればいいから」って言われていたし、初めてのオーディションだから、そんなに簡単に受からないよなあって思いながら、最初は佐々木千枝ちゃんで受けたんです。

――ずいぶん飛距離のある役に決まったんですね(笑)。

和氣:はい(笑)。オーディションの知識も何もないまま受けに行っちゃったんですけど、歌唱のときに、自分が歌いやすい声で歌ったら、当時のディレクターさんが「その声だと、こっちが合うかも」って早苗さんを持ってきてくださって。私自身は、セリフを読み込んでからオーディションに挑みたかったんですけど、その場でセリフを読んだら、「イメージにピッタリかもしれませんって」と言っていただきました。何日か経って「受かりました」って聞いたときは本当に驚いて、初めての収録に行くまで、受かった実感がなかったです。

――オーディションのときに感じた最初の印象と、4年間やってきてその間に変わってきた早苗さんの印象について聞きたいです。

和氣:第一印象は、まず見た目が幼い感じがしたんです。なのでオーディションのときは、見た目も元気で、かわいらしい感じで演じようって思いました。それで合格をいただいたので、収録でも声が高めで元気なお姉さん、という感じで演じていたんですけど、早苗さんと関わって、セリフやイラストの表情をたくさん見ていくうちに、「それだけじゃないんだな」って感じるようになって。28歳であるお姉さん感はしっかり持っているんですけど、そのお姉さん感にも、いろいろ種類があって。演じていくうちに、いろんな表情の早苗さんを見つけることができたので、演じやすくなりました。

 今は、台本を読んだだけで自然と「こう演じよう」ってプランが浮かび上がるくらい、自分の中でイメージが完全に固まっている気がします。基本、プロデューサーくんといるときは「おふざけお姉さん」なんですけど(笑)、他のアイドルと関わっていると、「ほんとに28歳なんだな、しっかりしているな」という部分が見えたりするので、特にそういうシーンは大切にしないとって思うようになって。しっかりした早苗さんを、もっと見せていきたいなって思います。

――早苗さんや『シンデレラガールズ』と関わり続けてきて、和氣さん自身が成長を実感したり、自身の変化を感じたりもしていますか。

和氣:私、人前に出ることがあまり得意じゃなかったんです。でも『シンデレラガールズ』で初めてステージに立ったときに、「もっと出ていたかったな」って感じて。アンコールの曲を歌って、ステージからはけるときに、「もっとこの場にいた~い」「あと何回もライブがあればいいのに」って思ったんです、まさか、人前が苦手だった自分がそんなことを思うなんて、と感じて。『シンデレラガールズ』に関わって、人前に出る楽しさを知ることができました。それはほんとに、早苗さんのキャラクターありきだなって思っていて。早苗さんが明るくて元気なので、ステージ上で早苗さんを演じる、という部分ですごく楽しいし、そのおかげでステージに立つ怖さがなくなりました。「踊りを間違えたとしても楽しいからいいや、次、次!」って思えるようになったので。

――「楽しいからいいや」って思えること自体、和氣さんの中で意外なことなんじゃないですか。

和氣:そうだと思います。私は、性格的に考えすぎちゃう部分があって。他のキャストさんと一緒にレッスンをするときも、「自分が踊れてないせいで、足を引っ張っちゃって申し訳ないなあ」とか考えちゃうし、わりとネガティブなほうではあったんですけど、ステージに立ってしまうと、常にポジティブな考えしか浮かんでこないです。

――早苗さん楽曲の歌詞には、ポジティブさに加えて、自分に言い聞かせるような側面もあるような気がするんですけども。

和氣:そうなんです、それはあります。早苗さんは元婦警で、アイドルになったことを親に言ってないんですよ。だから、アイドルになったことに対しての不安がちょっとあるかもしれないんですけど、早苗さんは「それでも私は、このステージに立つのが嬉しい」って言っていて。早苗さん、常にめちゃめちゃポジティブというわけではなく、悩み事もあるのかもしれないけど、それを乗り越えてアイドルをやっていて。だからこそ、早苗さんのソロ曲ですごく楽しそうに歌っているイメージができたので、ライブでは開放感にあふれた早苗さんにならないとって意識をして、ステージに立ちました。

――演じている和氣さんにだけ見えている早苗さんのいいところって、何だと思いますか?

和氣:私は、お芝居のプランはわりと自分で決めていって、収録でディレクターさんのディレクションを聞いてひとつの方向を作っていくんですけど、その過程には私とディレクターさんとの間で話し合いがあるんです。そこで――自分で言うのも変なんですけど――いろんな表情をした早苗さんが見えるんですよね。実際に、プロデューサーさんが聞いてるのは、そこから選ばれたひとつのニュアンスのセリフだと思うんですけど、そのひとつのセリフに対して、何パターンも録っていて。たとえば「バキューン」というセリフだけでも、いろんな言い方や意味があるんです。

――興味深いですね。実際、どんな言い方、ニュアンスの「バキューン」であっても、言ってるときの気持ちはそれぞれ違うわけで。

和氣:そうなんです。たとえば私には「かわいらしくいきたいな」っていうプランがあって――文字になると、難しいですよね(笑)。そうだな、私が考えているのは後ろにハートがつくイメージで、ディレクションは星がつくイメージ、とか。でも、実際にプロデューサーさんが聴く「バキューン」は♪マークだったりするんですね。私自身は、どれも正解だと思っていて。自分が知ってる早苗さんは、ひとつのセリフだとしても、いろんなパターンの表情を見せてくれるところが魅力だなって思います。「逮捕しちゃうぞ?」とかも、同じですね。お芝居の仕方でいろいろ意味が変わっていくのが楽しいので、今後もあまり固いことにとらわれず、いろんな楽しい表情をした早苗さんをお届けできたら、と思いますし、『シンデレラガールズ』の収録は勉強になることが多いので、自分の演技プランの幅が広がっていく感じがします。

私が今こうして声優業を続けられているのも、最初に早苗さんに出会えたから

――個人的に思い入れの強い楽曲と、その理由を教えてください。

和氣:1曲だけですか?

――たくさん挙げてもいいですよ(笑)。

和氣:(笑)もちろん、早苗さんのソロ曲は大好きだし、思い入れも一番深いんですけど、“モーレツ★世直しギルティ!”も大好きで。セクシーギルティの3人で歌っている楽曲なんですけど。初めて『アイドルマスター』で早苗さんの声がついたのがTVアニメで、その登場シーンもセクシーギルティの3人で出ていたので、「3人の楽曲が欲しいな」ってずっと思っていたら、まさかのけっこうぶっ飛んだ感じの曲をいただいて(笑)。収録はとにかく楽しかったんですけど、セクシーギルティは「セクシー」ってつくので、吐息を入れたり、「もっとセクシーにお願いします」っていうディレクションがあったりして。でも、早苗さんは本気のセクシーをやってるつもりだけど、それが逆に面白い、みたいな(笑)、そう感じてもらえるセクシーさを出さなきゃって思ってました。初めて3人で歌ったときも、プロデューサーの皆さんがほんっとに待っていてくださったんだなっていうことを、皆さんの顔を見て感じました。ソロ曲は緊張するんですけど、セクシーギルティの3人で歌うときはまったく緊張感しなくって、歌っていても踊っていても面白いなあって感じられる楽曲なので、お気に入りだし、大好きです。

 あともう1曲、“お願い!シンデレラ”がもう、好きすぎて。だいたいアンコールで歌うんですけど、いつも泣きそうになっちゃいます。なんでだろう――《夢は夢で終われない》っていう歌詞かな? 私も、声優になりたいってずっと思っていて、それが叶って広いステージで歌っている自分と重ねてしまうところがあるので、いつも泣きそうになりますね。

――意識としては人前に立つことが苦手でも、潜在的にはかわいい衣装を着て、たくさんの人の前で歌ったり踊ったりすることに憧れている。それを叶えてくれるのが『シンデレラガールズ』であり、“お願い!シンデレラ”なんでしょうね。

和氣:そうですよね。ステージに立ってるのは普段と違う自分なので、そうなんだと思います。

――早苗さんとして立つ次のステージは、ナゴヤドームですね。

和氣:6thライブでもナゴヤドームに立たせていただいたんですけど、それまでも幕張メッセ、さいたまスーパーアリーナ、大坂城ホール、どこもほんとに大きなステージだったんですね。だから、「みんな、ドーム広いって言うけど、どうなのかなあ」って思ってたんですけど、実際に下見に行ったら、デカすぎました(笑)。でも、私は会場が広いと逆にあまり緊張しないタイプらしく、6thライブはそこまで緊張せずにできたんですけど、「もっとお客さんを見られたんじゃないか」「もっとこうできたんじゃないか」と思っていたので、またナゴヤドームに立てると聞いて、二度目の場所なので、「次こそは前回できなかったことをやるぞ」っていう気持ちでいっぱいです。

――和氣さんの中で、今回のライブに向けて設定しているテーマは何ですか。

和氣:会場が大きいので、直接見えているとしても、遠くからだとちっちゃくなっちゃうじゃないですか。でも、「ここで早苗さんが踊ってるな」って感じてもらえるくらい、身体全部を使って踊りたい気持ちがあります。今回のテーマが『Funky Dancing!』で、今までの私はあまり体力がないことと、緊張もあるのか、歌とダンスで両方100が出せていないと思ってたんです。だけど、今回は「Dancing!」ってついているので、歌もダンスも100以上にしなきゃいけないなって思っていて。もっともっと体力をつけて、歌もダンスも100以上のものを出していきたいです。早苗さんは、ステージに立っている間はずっと全力で踊っていると思うので、私も早苗さんに負けないように、「止まっている時間がないんじゃないか?」って思うくらい踊りたいですね。

――では最後に、これまでの時間をともに歩んできた早苗さんにかけたい言葉をお願いします。

和氣:ライブの後なので、まずはお疲れ様のビールを飲んでいただきたい(笑)。早苗さんの大好きなマッサージも、ぜひ――いっつも「腰が痛いわあ」とか言ってるので(笑)、とりあえず休んでいただきたいのと、私は元気な早苗さんをずっと近くで見ていきたいなって思っているし、その分私も全力で頑張らないといけないな、と思っているので、早苗さん、応援してください(笑)。早苗さんとしてステージに立つのはほんとに楽しくて、そう思えるのも早苗さんのおかげだし、私が今こうして声優業を続けられているのも、最初に早苗さんに出会えたからだと感じています。初めての役が早苗さんでよかったなって、めちゃめちゃ感謝しているので、今後もどうぞよろしくお願いします(笑)。

取材・文=清水大輔