人類絶滅を救う最大の鍵は多様性 そして、この世界を愛すること

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

 一本のダビングテープで日本中を未曾有の恐怖に陥れた『リング』シリーズ。そして今、再びあの“貞子”の物語が幕を開けた。少女4人を猟奇的に殺害したとして逮捕された男(柏田)が死刑に処せられる直前に書き遺した“S”の文字。ネット上にさまよう不気味な動画──。本書『エス』には、より進化した謎と恐怖が重厚かつダイナミックに展開されていく。しかも本書は、現在公開中の映画『貞子3D』とも、きっちりリンクしているのである。

「そもそもこの企画が持ち上がったのは、2年前。普通はまず原作があって、それから2~3年後ぐらいに映画化になるものなんだけど、今回は原作よりも映画化の話が先にありきで──、それってあり得ないよね?(笑)。しかも、そのとき俺にはまだ片づけなきゃいけない仕事があったので、それをすべて書き終えたらやると。それでとりあえず1年前ぐらいにまずは映画のほうの原案、簡単なシノプシスみたいなものを創って出して、それからやっと小説にかかったという感じだったんだよね」

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 まさに異例の誕生秘話。でもそれは、それだけこの『リング』シリーズが時代を超えて多くの人を惹きつけてやまないポテンシャルを持ち続けているということだろう。そして、今回の小説『エス』の特徴はといえば。

「まず、ストーリーは映画とはそうとう変えている。今回の映画『貞子3D』はアトラクションとしても凄く面白いし、まさに画期的な作品だと思う。だから小説のほうは、人間ドラマをより重視した。つまり、それぞれの味わい方が違うようにしたわけ。3Dの映像みたいなものを小説の中に取り込むのは無理なわけで、だからこそ小説の中で描かなければいけないものは人間と人間との関わり。小説のほうは特にそこのところに重点を置いたんだよね」

 しかも本書は、読み進むうちに、その人間と人間との関わり=登場人物たちの関係が驚くべき“事実”に向かって収束していく。まさにこちらの想像を遥かに超えた未知の領域に向かって。

「ほんと、自分でもよくこんな短期間でここまで書けたよな、と思うよ(笑)。ただ、そのためにはとにかく、毎日午前中はずっとこのことだけを考え続けた。同じ時期に新聞連載もやっていたんだけれど、そっちは一カ月ぶんぐらいどんどん前倒しで書きためておいて、残りの時間はすべてこの『エス』を書くことに集中した。でも、そのかいあって、本書にもかなりしっかり根源的なテーマを内包させることが出来たと思う」

 では、その根源的なテーマとは? それはじつは『リング』シリーズの第一作からずっと貫かれているものでもあるという。

 

善と悪の問題。それがこのシリーズを貫くテーマ

「結局、この『リング』シリーズは“善悪の問題”を描いているんだよね。この『エス』の中にも、神と悪魔を象徴する人物が出てくる。歴史上で観ると、悪魔がどのように生まれてきたかといえば、悪魔=神を詐称したもの。要するに偽物の神が悪魔になったわけだよね。一方、神のほうはといえば、もしキリストの再来が本当にあったとすれば、それは間違いなく“上位概念”が背景にある。つまり、我々が住んでいる三次元ではなく、多次元構造というのがあると。そして、それはすでに現代物理学・現代数学でも認識されている。我々が認識している三次元構造の宇宙というのは、多次元構造の表面にすぎないということが。で、そうなると、この三次元は、その上位次元の四次元、五次元……にいるものからすれば、いじり放題となる。それはたとえば、我々が地面=二次元を這っている蟻をいじり放題なようにね。だから、もし神というものがいるとしたら、あるいは超能力者という存在があるとしたら、その上位次元と何らかの形でアクセスする方法を持っているもののことなのではないかと、1980年代の半ば頃に俺は気づいた。それは『リング』の最初から、特にシリーズ第三作の『ループ』には明確に書いたし、この『エス』の中にも、より発展させた形でモチーフに組み込んでいるんだよね」

 善と悪、神と悪魔の存在──。おそらく人間にとって最も重大な問題=テーマの一つを、物理的・数学的な視点をベースにしたオリジナルの思考で解き明かす。未曾有の恐怖の根底には、そんな壮大な試み=テーマも隠されていたのである。また、さらに本書は、人間の“生命”というものの根源にも深く迫っているのである。

「俺は今、“少子化への対応を推進する国民会議委員”もやっているんだけど、子供を増やすのにお金は重要じゃない。俺はまったくお金のないときに娘を二人育てたわけだし、圧倒的に貧乏だった戦前戦後のほうがみんな子供をたくさん生んでいたわけだから。つまり、少子化対策を本当に考えるなら、生命とは何か、男女のSEX=アガペーではないエロスの愛とはどういうものなのかということをまず考えなければいけない。

 そして、もう一つは、男と女の“相補性”の問題もある。そして、その相補性はできるだけ離れていたり、違っていなければ生まれない。だから、俺は今回あえて男にとっての暴力の問題にもリアルに向き合ってみたんだよね。もし自分にとってものすごく大切な存在の生命を奪おうとする人間がいたら、どうするべきか? あるいは自分が愛した女性が貞子だったら、はたしてその女性を愛し続けることができるのか? そういうことも、この『エス』の中には書いた。近頃よく言われている“癒し”なんて男がするものじゃない。男が癒しなんて、バカも休み休み言えってね(笑)。男が男である資格は、いざというときには愛する者を守るために戦うというオプションを持っているか否か。それがなければ、男は女の荷物になるだけ。性としてみれば、生まれたときから完成しているのは女性で、男は出来損ないなわけだから」

 草食系男子という言葉もあるように、今、多くの男性が女性に近づいて女性化しつつあるけれど、行きすぎれば人類は滅亡する。ほんの100年前の絶滅は戦争などの大爆発=いわゆる男性的な絶滅だったけれど、今はもっと女性的な絶滅の仕方に変わってきている。音もなく静かに人口が減っていき、気がつくとゼロになっている。それは爆発的な絶滅よりもずっと防ぐのが難しいかもしれない。だから、男女の相補性=生命の多様性を守るためにも、男よ、立ち上がれ──。そんなメッセージも、本書には託されているのである。