小さな胸も、妊娠線も、あなただから美しい。写真家・花盛友里が女性ヌードを撮り続けて気づいたこと

文芸・カルチャー

更新日:2020/7/4

『NUIDEMITA 脱いでみた。2』(花盛友里/ワニブックス)

 モデルやOL、主婦、学生など36人の女性たちのヌード写真集『NUIDEMITA 脱いでみた。2』(ワニブックス)が発売された。「ヌード」と聞くと、ついセクシーなイメージが思い浮かぶが、写真家・花盛友里氏の切り取る彼女たちの裸体はどこまでも“ヘルシー”で、朗らかで自然体だ。

 約3年前、既存のヌード写真集のイメージを覆し話題になった『脱いでみた。』。その2作目となる今作は、より「多様な女性の身体」が写し出されている印象だ。写真の加工は一切なし。その女性の「ありのままの姿」を肯定するような写真たちは、花盛氏のどのような思いから生まれているのだろうか。

『脱いでみた。』を通して女性のヌード写真を撮り続ける、その情熱の源泉について伺った。

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妊娠によって生まれた、「自分」が失われるような不安

 花盛氏が『脱いでみた。』という作品作りを始めたのは、自身の妊娠がきっかけだった。

「私はいま二児の母なんですけど、第一子を妊娠したとき、ものすごく大きな不安に襲われたんです。自分が自分でなくなってしまうような。それは日々変わっていく自分の肉体も心も『自分』ではなくて『お母さん』にならないといけないような気がした。それまでは、毎日のように友達と朝まで飲んで、しっちゃかめっちゃかに生きてきたのに、そういう自分が許されなくなったような気がしたんです。

 当時は私の周りには妊娠や出産を経験した人がいなくて、自分の中には世間一般的な『良妻賢母』のようなイメージしか持てていなかったんですよね。そういう『あるべきお母さん像』に引っ張られて、自分の人生が終わってしまう気がしていたんです。

 とにかく焦って、抗いたくて、そこで頭に浮かんだのは専門学生の頃の自分が撮ったヌード写真でした。初めて女性のヌードを撮ったのは、19歳のとき。当時は専門学校の友達と、単なるノリで撮ったものだったけど、ヌードを撮ることで、あのときの衝動的な自分を取り戻したかった」

「あなたのホクロだから美しい」と言いたい

 過去の自分を取り戻したい、という思いから始めた女性のヌード撮影は、花盛氏に予想外の気づきを与えた。

「1冊目の写真集になる『脱いでみた。』を出す前に個展を開いたのですが、その個展のときに初めてモデルじゃなくて一般の人を撮影したんです。

 Instagramで公募して先着順だったので、みんな初対面。撮影までは顔も体型もわからない状態でした。撮影時間は40分間ずつで、1日に9人撮ったかな。それまでは、モデルさんに合ったシチュエーションやスタイリング、ヘアメイクを考えて、ひとりひとりロケーションを変えながら撮影をしていたので、撮り方が全然違った。

 そうなると、自然と個々人によって違う『その人の美しい部分』を探っていくようになるんですよね。痩せてるとか太ってるとか、大雑把な特徴ではなくて、『この人のお尻にあるこのホクロが素敵だな』とか、とても細かくて具体的な魅力を見出せるようになってきた」

 撮影中は、被写体の女性ととにかく喋り続けているという花盛氏。話せば話すほど、その人の魅力が身体にも見出せてくるという。

「ぱっと見たときの第一印象で『こういうところが綺麗だな』とか『チャームポイントだな』と感じる部分はあるけど、会話をしていくうちに『この子の身体のこういう部分、この子っぽいな』と思うような瞬間がある。

 そういう人柄って肉体にも表れるし、私はその部分を美しく感じているんだと思う。女性の丸みのある身体とかすべすべとした肌とか、女性らしい肉体美にも惹かれる部分はあるけど、本当にその人を美しいと思うときって、その人の心のあり方を美しいと思えたときなんですよね。」

自分が言ってほしい言葉を、写真で撮り続けている

「正直、私は今まで他人の『肉割れ』や『胸の小ささ』っあまり気にしたことがなかったんです。でも、多くの女性と撮影を重ねていくうちに、『ああ、そういう部分をコンプレックスと感じるのか』という気づきがあった。

 私は彼女たちのそういう部分を見て、『全然問題ないし、なんならチャームポイントやん!』って思うけど、それをいくら他人が言葉にしても響かないこともわかってる。だからその気持ちが伝わるように写真で撮って見せるんです。それでその子が『ああ、たしかに可愛いかも!』って言ってくれるときがあって、それが私のいちばん嬉しくなる瞬間です」

 花盛氏が彼女たちのコンプレックスを肯定し続けることは、自分自身にとっての励ましの意味も持っていた。

「私だって、昔からコンプレックスだらけですよ。でも、この自分の身体とは死ぬまで一緒だから、どこかで受け入れてあげないといけない。自分自身を肯定してあげないといけない。

 私が彼女たちを肯定するとき、なんだか自分も肯定されているような気がするんですよ。『足が太いって気になるかもだけど、全体で見たらめっちゃ綺麗やで』とか『妊娠線、可愛いやん』とか、自分が今まで言ってほしかった言葉をかけている気がする。他人を肯定するって、自分を癒してあげる行為でもあるんですよ。

スマホよりも自分を大切にしてあげてほしい

 花盛氏の、コンプレックスも含めた「ありのままの姿」を肯定する姿勢は、たとえば自撮り加工アプリが隆盛している現代においては対極の位置にある。フィルターと加工によって簡単に自分のコンプレックスを無くすことができる時代に対して、花盛氏は「ただただ悲しい」と語る。

「アプリで加工すること自体は決して悪いことじゃないし、『こんな自分も可愛いな』と思えるのはいいことかもしれない。でも、アプリで加工した状態の写真じゃないと、SNSに自分の顔を載せられないような、そういう時代になってしまっている気がして、それがとても悲しい。

 携帯で加工した自分の顔ばかりを見て、SNSではさもそういう自分であるかのように生きていても、朝起きて鏡に映る顔は『自分が思っている顔』とは違うわけです。そしたら当然のように自己肯定感も下がっていく。

『化粧しなくても可愛いやん』という気持ちで撮ったのが写真集『寝起き女子』で、今もその気持ちは変わってなくて。『加工しなくても可愛いやん』って心の底から言いたいです。

 加工した自分の顔じゃなくて、鏡に映る自分の顔が可愛いんだ、って思ってもらえる時代にしたい。架空の顔と比べて落ち込むなんて、虚しいじゃないですか。自分をもっと大切にしてあげてほしい。携帯よりも、まずは自分と向き合ってほしい」

自分を丸ごと好きになる必要はない

 そうは言っても、誰もが自分のコンプレックスを前向きに受け止められるわけではない。鏡を見て落ち込んでしまう気持ちはどのように解消すればいいのだろう。そんな問いに対して、花盛氏は「私も、昔からずっと、健康的でぷにっとした肉体に憧れている。ただ、そうじゃない自分も“嫌いじゃない”ということなんです」と返す。

「そもそも、無理やり顔や身体を丸ごと好きになる必要もないし、コンプレックスを全て受け入れるって無理だと思うんですよ。誰しも理想の女性像ってあると思うし、そこと比べちゃう気持ちもある。

『理想の姿のために頑張っている自分は好き』とか『ここはすごく嫌いだけど、ここはすごく好き』とか、部分部分で自分のことを褒めることができればいい。

 それに、本当に嫌で嫌で仕方がない部分があるのであれば、私は整形をすることだって視野に入れてもいいと思っています。辛くて卑屈になってしまうくらいなら、整形して笑っていた方がずっといい。私は、その人の勇気を美しいと思うし、その悩みも決断も体もすべて含めてその人自身だと思うから。

 いずれにしても、自分の好きな部分を見つけることは生きていく上で大きな力になると思います」

毎日鏡を見て、自分を褒めてあげる時間を

 花盛氏は、「自分を褒める」言葉の強さを信じながらも、同時に「自分を貶す」言葉の脅威についてもこう語る。

「Instagramのアカウントnuidemitaには鍵をかけているんです。それは、見る側も見られる側も同等であってほしいから。被写体の女性たちに、通りすがりのような気分で、適当な言葉をかけてほしくない。

 たとえば、自分が太っていることがコンプレックスの女性が、自分の写真に1000いいねとかついて、褒めてくれるコメントもたくさんついたら、それってすごく自信になりますよね。でもそこに、たったひとりの『何このデブ』みたいな心無い一言があると、今までの賞賛がかき消されてしまう。たったひとつのヘイトは、たくさんのあたたかい気持ちをかき消してしまう威力があるんです。」

 自分宛ではなくても、テレビをつければ、雑誌を開けば、SNSを見れば、そこには自分のコンプレックスを刺激するような言説が溢れている時代だ。だからこそ花盛氏は「自分自身と向き合ってほしい」と言葉を強く重ねる。

「なんぼ人から言われても大丈夫なように、自分で自分を認めてあげる時間が必要だと思います。自分で自分の心を育ててあげないと負けてしまう」

 今まで写真で多くの女性を肯定し続けてきた彼女は、日々自分自身に対しても愛情をもって接している。

「私は毎日鏡を見て、自分の身体を褒めてあげるのが習慣です。たとえば、お風呂上がりとかに、パンツを穿いてぐいっと上げてみるんです。パンツでおへそまで隠れたときの、腰のラインとか肉の出方とか、めっちゃいいやん、って思ったりする。

 ……あれ、分かりづらいですか? いや、でも、いいんです。個人個人で、自分だけがわかるような可愛い部分、好きな部分を見つけるのが大事なんです。『顔が可愛い!』だけだと本気で思えないかもしれないけど、『顔のこの眉のラインは綺麗』とかだったら心の底から納得できると思うんです。

 そうやって、自分を褒めてあげる。ありのままの自分を愛そう、だとちょっと大それたことのように聞こえてしまうかもしれないけど、つまりは、自分を大切にしてあげましょう、って、それだけなんです」

取材・文=園田もなか

※本記事に掲載の写真は写真集未掲載のものになります。