井澤詩織「恥ずかしいけど、一言のセリフに執着していた頃もありました」声優図鑑+

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公開日:2020/10/6

井澤詩織

 編集部が注目する声優に、仕事に向き合う気持ちからプライベートまでをじっくり伺い、撮り下ろしのミニグラビアを交えて紹介する人気企画「声優図鑑」。【声優図鑑+(プラス)】では、これまでに「声優図鑑」を飾ってきた声優たちが2度目の登場! 前回を振り返りつつ、成長したことや新たな目標をインタビューし、今の素顔に迫ります。

第7回となる今回は、2015年の初登場以来、約5年ぶりに井澤詩織さんをお迎えしました!

声優としてのデビューから10年を超え、ご自身を代表するような作品が続々と増加中。最近では、専門学校などで声優の先輩として話す機会も増えたとか。言葉の一つひとつに重みが増して、前回のインタビューからたくさんの経験を積まれたことがひしひしと伝わってきました。

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——前回は黒白の衣装でしたが、今日はちょっと雰囲気が違いますね。

井澤:ちょっと恥ずかしいんですけど、つい最近、新大久保で政財界とかの偉い人ばかり占っているような占い師さんから、「あんた好きな色なんなの?オレンジ?まさにラッキーカラーなんだから身につけなさいよ!」と怒られまして(笑)。でも持っている服は黒が多いので、撮影くらいはオレンジを着ようと思って。運が左右するお仕事だし、商売繁盛の神社とか、もともとゲン担ぎが好きなんですよ。

——これから効果が出てきそうですね!

井澤:今日いろんな人に褒めていただいたので、すでに効果ありってことで(笑)。

——なるほど。前回は、その当時演じられていた『ガールズ&パンツァー』や『銀の匙 Silver Spoon』についてお話していただいたんですが、井澤さんにとって最近の思い出深い作品はなんでしょうか?

井澤:大切な作品はたくさんありますけど、『メイドインアビス』のナナチの存在は大きかったですね。デザインがかわいいし、背負っているストーリーが深くて、みんなに愛されるキャラクターだったこともあって。それまでは「変わった声」って言われることが多くて、声にコンプレックスを抱えたままお仕事していたんですけど、ナナチが素敵なキャラクターだったが故に「かわいい声」って言われることが増えたんですよ。

——そうなんですね。それによってご自分の中にも変化が?

井澤:ナナチは地声に近いんですけど、地声を生かして演じることにためらいがなくなったというか。実際に、ナナチっぽくやってほしいっていうお仕事も増えて。「この声でよかったな」って、ようやく思えました。

——やっとコンプレックスから解放されたと。

井澤:はい。その前に『ヘボット!』っていう子ども向けアニメに1年間、出させていただいて。ギャグアニメでずっと会話しているし、主役だから、セリフ量が多かったんですよ。プロなのに恥ずかしいんですけど、それまでは一言二言に執着して、セリフを発するまでにドキドキしていたのが、ヘボットでは全体通して緩急つけないといけないし、全セリフに一点集中していたらアニメが成立しないから。抜くところと力を入れるところのバランス感覚が養われて、その経験がナナチにも生かされたのかなと。

——経験が見事につながったんですね。そのほかに、『Tokyo 7th シスターズ』の芹沢モモカ役にも、「井澤さんしか演じられない」という声が多くて。

井澤:ナナシスはやっぱりライブの印象が強いですね。歌やダンスを披露したことは初めてではないですけど、ナナシスはステージの規模が違うので。もともと歌やダンスには苦手意識があるんですよ。私が声優になったばかりの頃は、選ばれた人だけが歌って踊るような時代でしたけど、今はアイドル声優の幅が広がってきたから腹をくくるしかないなと(笑)。歌やダンスのパフォーマンスに対する責任感が増したコンテンツでした。

——もともと苦手だったんですか?

井澤:中学校で合唱コンクールの練習をしているときに、同級生から「ソプラノとアルトのどっちを歌ってるのか分からない」と言われたのが割とショックで。人の迷惑になるのなら歌うのをやめようと思って、でも口パクだと怒られるし。ちゃんと歌おうとすると悪目立ちするから、消え入るような声で歌ってたんですよね。

——そんなに大変だった経験が。でも今回、ナナシスで歌ってみてどうでしたか?

井澤:最近は、歌もダンスも好みなのかなって思うんです。うまい、へたにこだわった時期もありましたけど、音程を外さないからうまいわけでもなく、私の歌を好きと言ってくれる方がいるなら、その方に向けて一生懸命届けたいなと。ダンスも、私はちょっと腕が長くて、手を振るだけでもちょっと気持ち悪いんですよ(笑)。いつも処理に困るんですけど、ダイナミックと前向きに言ってくださる方もいて。

——まさに好みの問題ですね。

井澤:ナナシスはフォーメーションが複雑だし、最初はアイドルステップも分からずにただの横揺れになってたり(笑)。でもユニットの仲がすごく良くて、できなくても誰も責めないし、助け合っていける雰囲気があったから、私も腐らずにできたのかなと思います。できないことが多いと自分を責めがちなので、その環境がありがたくて。いろんな意味で、今の声優業界に馴染むためにすごく必要な作品でしたね。

——実績のある井澤さんでも、そんなふうに感じるものですか?

井澤:それはもう、つねに試行錯誤してます。トレンドって言い方をするとこずるく感じますけど、最近は演技もナチュラル志向になってきたから、家で練習するときは必ず録音をして、自分の声を客観的に聴くようにしてますし。ナチュラルといってもアニメーションだから、100%人間味がなくてもいいんじゃないかなって私は思っていますけど、加減は気になりますね。

——お芝居への探究が伝わってきます。そんなお芝居の仕事の一方で、『井澤詩織のしーちゃんねる』のようなプライベート寄りの番組も持たれていて。

井澤:『しーちゃんねる』は、自分に起こったすべての出来事を報告させてもらえる番組。自由度が高いから、思いつきでコーナーを作ったり。私、学生時代に、声優さんのラジオを聴いて、その人自身のことを知るのが好きで。自分もアニメでデビューする前の2年間くらいはラジオが中心だったんですよ。フリートークが好きだし、SNSで一つ一つ返信できないこともあるから、それをお伝えできる場があるのはありがたいですね。ファンの方の声に左右されがちなので。

——左右されがち?

井澤:質問されたらちゃんと答えたいし、会話したくなっちゃうんですよね。

——なるほど。声優を10年以上続けるなかで、このお仕事に感じている楽しさやむずかしさって、どんなことでしょうか?

井澤:とにかくデビューすることに必死だった新人の頃を思い出しますね。最近ありがたいことに、新人さんや声優志望の方の前でお話させていただく機会が増えて。新人のときに言ってほしかった言葉はなんだろうって考えるんですよ。新人の時ってとにかくオーディションに落ちるんです。今もまあ落ちますけど(笑)。今思えば、もちろんうまいへたもあるけど、キャラクターとの相性とか縁とか、タイミングもあるんですよ。自分自身を売り出すのに、自分のことを嫌いになっていたら、嫌いなものを人に売ることになっちゃいますよね。商品の良さを伝えるために、まずは自分のことをいちばん好きでいて!と。若い方にお伝えしているし、以前の自分にも伝えたかったなと思います。

——ご自分のことを好きになれない時期があったんですか?

井澤:ありました。今は、主役でデビューしてずっとトップっていう方もいますけど、私は下積みが長くて。学生時代はなるべく怒られないように生きてきたのに、養成所ですごく怒られるんですよ。オーディションでも、落ちるたびに自分を責めて、どんどん自信をなくして、毎日泣きながら生きてました。自分を好きになるって、どうしても人の言葉に左右されたり、環境に影響されたりするからむずかしいんですけど、でも声優を続けているなかでは、やっぱりいちばん大事なことかなって。

——今では鍛錬されて養成所の頃より強くなられていると思いますが、落ち込んだときに前向きになれる、ご自分なりのコツはありますか?

井澤:自分で自分のことをよく褒めます。「よー、天才っ!!!」つって(笑)。別に本気で思ってなくても、言霊ってあると思うので。スピリチュアルだと引き寄せの法則とか言われますけど、脳科学でもマインドフルネスとか、“願望実現”みたいな言葉が実際にあるらしいんですよ。だから、何もなくても「大丈夫!天才!!」って言ってます(笑)。

——毎日言うだけでも効果がありそうですね!

井澤:「これは仕事だぞ!」って思うことも大事にしてますね。夢の職業だったけど、それだけじゃ意味ないというか、金銭が発生すると責任が生まれたりするので。声優志望の方から「お芝居さえできれば…」って言われますけど、それだと途中で立っていられなくなるんじゃないかと。好きなことだけじゃなくて、苦手なことでも最後までやることが仕事だから。楽しいことをお仕事にさせてもらっているからこそ、ワガママになりそうなときがあるんですよ。そういうときに、「仕事だから!」って気持ちを忘れないようにしていますね。

——歌やダンスに苦手意識があったと伺いましたけど、井澤さんが特に好きな仕事ってなんですか?

井澤:やっぱりいちばんは演技をすること。でも最近、朗読のお仕事も楽しくて。高校で放送部だったんですけど、お仕事では最近になってからポンポンとやらせていただいて。朗読にもいろいろありますけど、アニメのように絵がつかなかったり、尺が決まっていない分、自分のさじ加減で世界観を作っていけるんですね。「間を大事にしなさい」ってよく言われてましたけど、間をとるのって勇気がいるんです。経験を積んできた今だったらそれができるのかなと。もっと朗読の機会が増えたらいいなと思います。

——プライベートについても伺いますが、お休みの日は何をされてますか?

井澤:今年になってから、猫を飼ったんです! 犬と猫の両方アレルギーがあって、実家では犬を飼っているときはアレルギーと共存していたんですが、猫ちゃんは無理だろうなって思ってたんですよ。そしたら、アレルギーが限りなく出にくい猫ちゃんがいるって聞いて。サイベリアンっていう種類で、寒いところの猫ちゃんだからモッフモフで、見た目がとっても好み。もともとインドアだし、最近の休日はその子たちと過ごすことが多いです。今のところ、アレルギーも大丈夫ですね。

——井澤さんといえば“猫耳キャラ”だったりもしますから、その井澤さんが猫を飼われたとは!

井澤:私、母性本能みたいなのがないと思ってたんですよ。子どもはかわいいと思うけど面倒をこまめに見られる自信がないので。でも「私にもあった!」と思って。朝早くに起こされても「そうだよね、ごはんだよね」って思えるし、猫ちゃんたちを食わせるためにお仕事がんばろうって(笑)。カメラが趣味なので、「さあ〜今日はかわいい写真を撮るぞ!ほら、ここに座って!」ってひたすら撮ってます(笑)。

——充実した休日ですね(笑)。では最近、声優さんでよくお会いされる方はいらっしゃいますか?

井澤:今は一緒にニコ生に出ている吉岡麻耶ちゃん。本当にいい子で、元気をくれるし、私の話をいっぱい聞いてくれるし、もう生きるパワースポットだなって! 彼女も猫ちゃんを飼っていて、猫情報を教えてくれるし。気持ち悪いけど、ずっと一緒にいたい子です(笑)。デビューしたばかりのときにやっていたOToGi8っていうユニットの子たちとも、いまだに仲がいいですね。今年はできなかったけど、8人全員で毎年新年会をやっているし、みかしー(三上枝織)だけ、なーな(浜崎奈々)だけ、とかでも会ったりします。

——いろいろお話していただいてありがとうございます! 声優としてのこれからの目標も、ぜひ伺いたいです。

井澤:昨年から『パウ・パトロール』っていう子ども向けのアニメに出させていただいて、それをきっかけに世の中のパパママ世代の方から「観てます!」って言ってもらえることが増えたんです。出させてもらえる作品、全部うれしいんですけど、子どもの成長過程で観られるアニメに出られることに、また違ったうれしさを感じて。もっとたくさん出演できたらいいなと思います。それと、最近になって初めて出させていただいた吹き替えの映画。アニメとはまた演技の仕方が全然違って。もっとスムーズにお芝居できるようになりたい! やりたいこと、たくさんありますね。30歳になってからギターを買ったりして、今はいろんな習い事にも興味あるし。もう止まってられないなと思います。

——常に進化されている井澤さんに注目するファンの方は多いと思います! では最後に、読者へのメッセージをお願いします。

井澤:最近すごく感じるのは、求めてくれる方がいるから私の居場所があるんだなと。ありがたいことに、年々、若い方や学生の方のファンが増えていて。これからも、Twitterやインスタ、作品の公式さんなどを通して、みなさんの声を聞かせていただけたら。みなさんの声には大人を動かす力がすごくあると思うので。ぜひ力を貸してください。よろしくお願いします!

——井澤さん、ありがとうございました!

【声優図鑑+】井澤詩織さんのコメント動画【ダ・ヴィンチニュース】

次回の「声優図鑑」をお楽しみに!

井澤詩織

「井澤詩織」声優インタビュー&ミニグラビア【声優図鑑】(2015/07/08)

井澤詩織(いざわ・しおり)EARLY WING所属

井澤詩織(いざわ・しおり)Twitter

◆撮影協力

撮影=山本哲也、取材・文=麻布たぬ、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト