アイドルマスター 15周年の「今までとこれから」⑧(秋月律子編):若林直美インタビュー

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公開日:2021/2/16

『アイドルマスター』のアーケードゲームがスタートしたのが、2005年7月26日。以来、765プロダクション(以下765プロ)の物語から始まった『アイドルマスター』は、『アイドルマスター シンデレラガールズ』『アイドルマスター ミリオンライブ!』など複数のブランドに広がりながら、数多くの「プロデューサー」(=ファン)と出会い、彼らのさまざまな想いを乗せて成長を続け、2020年に15周年を迎えた。今回は、765プロのアイドルたちをタイトルに掲げた『MASTER ARTIST 4』シリーズの発売を機に、『アイドルマスター』の15年の歩みを振り返り、未来への期待がさらに高まるような特集をお届けしたいと考え、765プロのアイドルを演じるキャスト12人全員に、ロング・インタビューをさせてもらった。彼女たちの言葉から、『アイドルマスター』の「今までとこれから」を感じてほしい。

 第8弾は、プロデューサー志望でありながら自らもアイドルとしてステージに立つ秋月律子役・若林直美に登場してもらった。ここまで、7人のキャストインタビューをお届けしてきたが、15年間でのエピソードをそれぞれに語ってもらう中で、最も多く名前が出ているのは、若林直美である。メンバーの精神的なよりどころとして、ライブのステージを引っ張る若林の、『アイドルマスター』にかける熱すぎる思いを存分に語ってもらった。

秋月律子
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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私には、私を信頼してくれる仲間がいて、もし何か失敗したときにはフォローしてもらえる相手がいる

――本日はよろしくお願いします。

若林:よろしくお願いします。待ってましたよ、ダ・ヴィンチニュース。

――ほんとですか(笑)。

若林:これまでのインタビュー、全部読みましたよ。もう、私がどれだけ765を好きなのか、と。

――実際、ここまでお話を聞いてきた皆さんが、かなりの確率で若林さんのお話をしているので、どんな人なのか楽しみにしてました。

若林:ありがとうございます、だいたいこんな感じです(笑)。

――昨年の7月に『アイドルマスター』のゲームの稼働から15年を迎えたわけですが、それについて若林さんはどんな感慨を抱いていますか。

若林:私、10周年という大きな節目に、産休してたんですよ。で、今までインタビューを受けて「こんなに長く続くとは思わなかった」と言うことが多かったと思うんですけど、私としては「続けていこう!」という感じなんです。15周年に来たんだから、次は20周年に行かないとなって。20周年まで来たら25周年に行って、そのとき私は55歳だから、「今から筋トレしよう!」みたいな感覚です(笑)。なんというか、10周年のときに出られなかったことによって、ある意味私の中では節目を残しているんですね。個人的に逃してしまったので、「あそこに戻ってやるぞ」みたいな思いが、どうしても強く残ってしまって。それ以降は、『アイドルマスター』自体が続くのはもう必然でしかない流れだから、それに置いていかれないように、という思いが強くなっていきました。今は、私が年齢が一番上なのかな? たぶんそうだと思うんですけど、『アイドルマスター』にとって20周年を迎える節目のときに、元気に歌って踊って、律子をやっていたいなって思います。

――実際、15周年で終わりになると思ってる人は誰もいないし、ひとつの通過点なんだと思うんですけど、それにしたって若林さんの感じ方は熱いですね(笑)。

若林:ほんとにもう、通過点ですね。11年目のときに、産休が明けてプロデューサー・ミーティングに参加したときに、舞台裏でお客さんの「提供コール」を聴いたんですね。それを聞いただけで、泣きそうになってしまって。「うわっ、早い、開幕前から泣いてる!」って、今井(麻美)と話し合ってたんですよ。今井がすごく優しい顔で笑ってくれて、「私もだよぉ~」みたいな感じで……舞台裏で「帰ってきたんだなあ」って感じることができました。だから、今お休みしている人たちにそういう場所を提供するためにも、続けている私たちがこの場所を守っていかないといけないなって思います。

――15年間続けていると、演じ手の皆さんの人生にもいろいろな転機が訪れるわけですけど、一時的にお休みを経験した人が口を揃えて言うのは、『アイドルマスター』の場合「とにかく悔しかった」「早く戻りたい」という話なんですよね。若林さんも思いは一緒だと思うんですけど、そこまで「あの場所に戻りたい」と強く思わせるものって何だと思いますか。

若林:愛。愛です。そこにあるのは、愛だと思います。『アイドルマスター』はプロデューサーさん、ファンの皆さんの愛情によって動いていることが、すごく多いんですよね。こちらが届けたものに対して、無償の愛が集まってきて、それが大きくなっていく。その繰り返しを、いい意味で運命的に回していってるプロジェクトなんだと思います。だから私は、『アイドルマスター』を応援してくれてるプロデューサーさんたちを信じています。それだけ愛がある場所に戻りたいのは、ある意味当たり前のことで、無償の愛をくれる場所があったら、戻ってきてまたその愛に包まれたい!って思いますよね。こんなに嬉しい場所ってないと思います。

――「無償の愛」と言いつつ、プロデューサーさんもステージや楽曲や芝居もそうですけど、キャストの皆さんから受け取っているものに満足したり、楽しいと思っているから、その愛を注いでくれるわけで。一方的なものではなく、双方向の話なんですよね。

若林:そうですね。だから持ちつ持たれつ、ウィンウィンな愛の中にいる、ということです。だからこそ、いいのかもしれない。与えられてばかりじゃなくて、ポジティブなボールの投げ合いをしてる場所だからこそ、休んでいるときに「戻りたい!」と思いました。あとは自分を表現できる場所として、芝居も歌もダンスもできるから、自分の引き出しがワッと広がる感覚があるんですね。人生が豊かになるなって思います。

――若林さんと律子の関係性について聞いていきたいんですが、当初はどんな印象を持っていたのでしょうか。

若林:最初は委員長気質で、律子自身も裏方志望だったがために、「いつかは自分もプロデューサーになるんだ!」という思いで、プロデューサーを見習おうとしていて。当時、私が持っていた印象ですけど、どうも上から目線なんですよね(笑)。「あなたの手腕、見てあげようじゃな~い?」みたいな。だからもう、ツンデレのツンしかないような人、気も強い。委員長気質だから、言うことはきっちり言うし。基本的には、私もけっこう気が強いし、チャキチャキものを言うんで、気質や声質のシンクロ率は高かったのかな、と思います。

 今回の『MASTER ARTIST 4』のドラマパートでもいろいろ語っているんですけど、みんなを牽引していく姿を見せるために、裏方でフォローするだけじゃなく、先頭に立ってみんなを引っ張っていくことも学んでいるんですね。15年経って、「りっちゃん、えっらい成長したな」と(笑)。「カッコいい、やっぱり私が好きな律子はこれだ」と思いました。

――若林さん自身がライブのステージに立つにあたって、そこで感じる楽しさ、喜び、難しさについて聞かせてもらえますか。

若林:私、ほんとにライブが大好きなんですよ。ダンスすることも好きだし、舞台の上でアドリブで何かをするのも大好き。お芝居が好きで舞台にも立っていましたし、お客さんの前でいかに自分のパフォーマンスを出すか、が試されるのが好きなので。

――わりとみなさん、ライブを楽しめるようになるまで時間がかかった、とおっしゃる方が多いんですけど、若林さんは最初からライブが好きだった、と。

若林:ええ。実は私は、最初っから楽しんでました(笑)。

――楽しむための準備を怠っていないし、ステージ上でもそれがしっかり発揮されているんでしょうね。

若林:そうですね。ただ、5周年のライブのとき、状況的に「私はどんな気持ちでここにアイドルとして立っていればいいんだろう」という不安感がモヤモヤしてしまったことがあって。未来の不安のために、自分が小さくなった現象なんですよ。それによって、5周年のライブのことを、ほとんど覚えてなかったんです。「あれ? なんにもしないで終わっちゃった。これで大丈夫だったんだろうか」と不安になってしまったんですね。その後、いつだったのかな? コンビニの前でひたすら夜遅くに長谷川(明子)とふたりで「自分が何をやったかわからないのはいかん」みたいなことをしゃべったんです。反省しました。ステージを観ているのは「今を楽しみたい人」なんだから、その人たちに対してなんて不誠実だったんだろうって。4年目までは自然にできていたことが、5周年のときに少しフワッとしちゃって、それは危機感でしかなかったんですよね。だから、ライブの練習でも、どんなに簡単だって言われていても一度も歌詞を間違えないようになるまで、練習を繰り返すようになりました。そうやって自分にノルマをすることで、自信がついて楽しめるようになったところもあります。

――何度かライブを観させてもらってるんですけど、若林さんのパフォーマンスってひときわ印象に残るんですよね。

若林:ありがとうございます、嬉しい。テンションがひたすら高いので、一見さんはドン引くと思うんですけど(笑)。

――(笑)「なんでこの人はステージ上でこんなに振り切れるのか」って、観ていると気になるんですよね。その背景にあるもののお話を今、聞かせていただいているな、と。

若林:そうですね。キャラクターなのか、演者自身なのか、と考え込んでしまう場合がある、と私は想像しているんですけど、ライブなのでステージ上で楽しんで、お客さんに「楽しいんだよ~」って伝えていかないと、「楽しい~」とは返ってこないじゃないですか。きっと、私が楽しんでいなくても、お客さん側は楽しいとは思うんです。でもそこに私が「この曲は本気で楽しいんだよ~~!」と出していくことで、もし斜に構えている人がいたとしても、「楽しそうだな」って思ってくれるはずなんです。だから、これはもう「楽しいの押しつけ」をやるしかないな、と(笑)。でも、アイドルってそういう存在なんじゃないかなって思います。ステージから元気をあげる――って言ったらおこがましいですけど、元気を与えるためにはまず自分が元気じゃないと、みたいな気持ちと一緒で、楽しいを与えたいときは自分が楽しんでないといけないと思います。ステージに立ってるときはあまり考えてないんですけど、そこに至るまでにはいっぱい考えて、ステージ上では忘れるようにしてますね。

――キャストの皆さんが口を揃えて若林さんの話をするんですけど、ステージでの振る舞いやそこに至るまでの背景を聞いたら、そりゃ影響受けるよね、と今思いました(笑)。

若林:(笑)ありがとうございます。やっぱり、どうしてもステージ上で不安になることはあると思うんです。実際、私だって不安になるし、だからといって相手と一緒に落ちていっても意味がないじゃないですか。「あなたはあなたの立場があっていろいろ考えていて、それでいい。私は私で楽しくやるわ。でも巻き込むからね」みたいな感じですね。最初は、みんなも一緒に同じように楽しめばいいのにって思っていたんです。でも、平田宏美に「直ちゃんは強すぎる。直ちゃんと同じようにみんなができるわけじゃないからね」って言われて、はっとして。平田宏美が、私を外から見た上で客観的な言葉をくれたりするので、「人は人、自分は自分」って思えたんですね。そうやってアドバイスしてくれる平田宏美の存在は、私にとって『アイドルマスター』における宝物ですね。真耶(仁後真耶子)もそうですけど、仲間がいて、ここに一緒に立てているから、信頼した上で100パーセント以上が出せる部分もあると思います。私には、私を信頼してくれる仲間がいて、もし何か失敗したときにはフォローしてもらえる相手がいるんですね。

秋月律子
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

律子として与えていただけるものをすべて受け入れた上で、どんどん成長していきたい

――今回の『MASTER ARTIST 4』は、新曲もありカバーもあり、共通曲のソロ歌唱もありで、盛りだくさんじゃないですか。律子ソロの新曲、“灯(あかし)”は懐が深いバラードになっていますが、どんな印象がありましたか。

若林:たぶん他のみんなも一緒だと思うんですけど、今回「今までやっていないことをやろう」もしくは「今までどおりをやろう」の二択に分かれたと思うんです。そこで私は、自分がやってこなかったジャンルをやりたいと思っていて。テンポがゆっくりめで、恋とかではなく、普遍的な思いを歌うバラード曲が歌いたい、と思いました。律子として、あまりそういう表現をしてこなかったし、りっちゃんにそれを表現してもらいたいとも思ったし、私自身も15年という長い時間の中で、自分がまだやっていないジャンルはそこかな、と思っていました。

――確かに、“灯”は普遍性が高い曲になってますね。

若林:そうなんです。“灯”を最初に聴いたときに、「これだと、“私”を表現することになっちゃわないか」って不安に感じたんですね。歌詞に思いを込め過ぎるのが怖いな、と思って。それで、話をしたりしながら突き詰めていったときに、「私は、この曲が歌えて幸せだなあ」と思ったんです。じゃあ、律子はどう思うんだろう?と。そこで思ったのが、律子との感覚共有――りっちゃんと私は、感覚を共有しながら生きてきてるな、と思ったんです。律子としてお芝居して、セリフを読むときって、私の経験による感覚じゃないですか。たとえば、私にとってイヤなことがありました。セリフの中で、イヤなことがあったことを具体的に言うんですけど、それに対してイヤだと思うのは、私が過去にそのことに対してイヤだなって思ったからで、そのイヤな思いを引っ張ってきて、セリフを言うんですね。今回は、律子として「幸せ~」という空気で歌ったり、具体的な物事や現象に対しての思いではなく、思いだけを抽出して、律子の声で歌おう、と思いました。「嬉しい」「明るい」「あったかい」、そういう感覚だけを律子に渡した、みたいな感覚で歌わせてもらっています。みんなの楽曲、聴く人ひとりひとりの楽曲になってほしいなあ、と思いますね。

――長い時間を『アイドルマスター』の一員として過ごしてきて、このプロジェクトは若林さんにとってどんな存在になりましたか。

若林:私にとっての『アイドルマスター』は、環境です。たとえば、なんだろう、紫のものをみたら「あずささんだぁ」って思う、みたいな、そういう感覚になっちゃってます。なんでも、すべてが『アイドルマスター』になってくるので。『アイドルマスター』がないと環境がなくなっちゃうことになるので、それってもう生きていけないじゃないですか。なので、環境です。『アイドルマスター』を中心に回ってるというか、私を取り囲むすべてが『アイマス』の糧になっていく、私が律子を表現するための何かになっていく、と思っています。

――では、ともに歩んできた律子に対して、若林さんからかけたい言葉は何ですか。

若林:「プロデューサーになりたいってあなたの思いは私も理解してるよ。でも、今はあなたを輝かせたいって思ってるプロデューサー(私も含めて)を信じてついてきてほしい。アイドルとして積み重ねた経験は将来、絶対に糧になる。自信がなくなったら支えるし、こっちが困ってたら頼ると思う。そうして二人三脚で進んでいこうよ!今までみたいに、これからも。プロデューサーとして立つまでは、アイドルとして輝こうね!」ということですね。私の声が出なくなるまで、ずっとアイドルの律子をやっていきたいと思っています。

――歌って踊ってパフォーマンスをするのもずっと続けていきたい。

若林:そうですね。プロデューサー・ミーティングのときに、打ち上げで三瓶(由布子・秋月涼役)ちゃんと話していたんですけど、自分が演者として何かを与えられて、「それはキャラとは違うからダメです」って突っぱねたときに、そのことがキャラクターの可能性を閉じてしまうんじゃないかっていう話になって。その話を三瓶ちゃんがしたときに、私は「はあ~、三瓶ちゃんすげえ」と思ったんです。私が今まで感じてたことってこれだったんだ、と思って。ずっと、自分が表現して、それが受け入れられてきたことに対して説明がつかなかったんですけど、私は自分が表現をすることでりっちゃんの可能性を広げて、さらに新しいものを手に入れられるようにしてきたんだなあって、そのときに思いました。それ以降、「キャラクターが~」って止めることに対して、自分はもうノーガードでいようと思ってます。まずは受け入れて、表現してみて、どうしても違和感が拭えないものに関しては相談するけど、律子として与えていただけるものをすべて受け入れた上で、どんどん成長していきたいです。

――打ち上げで話している内容が熱すぎますね(笑)。

若林:(笑)三瓶ちゃんは「覚えてない」って言うんですけど、私にとっては衝撃的でした。この話をするときは、必ず三瓶由布子の名前を出してます。私ではなく、三瓶ちゃんの言葉なので――そう、あとひとつだけ言わせてください。この特集の最初のインタビューが、中村繪里子だったじゃないですか。6月くらいでしたよね。当時私はその記事を見ていなかったんですけど、『MUSIC ON THE RADIO』っていうラジオ番組で、灯火とか灯(あかり)の話をして、そのあとでダ・ヴィンチニュースの春香の記事を読んだんです。で、そのときに繪里子が「春香が私の灯火だ」っていう話をしていて、「繪里子、しゅき~~!」って思いました。もちろん、私の灯火と繪里子の中の灯火は違うけど、同じ言葉を使ったこの感覚を共有できていて、私は繪里子には信頼しかないです。繪里子と私って、表現の仕方が全然違うんですけれども、こうやって舞台上でパーンってハイタッチするかのような触れ合いがあると、嬉しくて仕方がないんですよね。「もう、だから繪里子には信頼しかないんだよ!」と思って、これだけは今日のインタビューで絶対言おうと思ってました(笑)。


取材・文=清水大輔