爆笑と共感と驚きに満ちた著者と“お友だち”になれる2冊!

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

 今年4月に『舟を編む』で2012年度本屋大賞を受賞し、ノリに乗っている三浦しをん。新刊への期待が高まるなかついに上梓されたのは、エッセイ集『お友だちからお願いします』と書評集『本屋さんで待ちあわせ』。8月と10月、連続刊行という嬉しいサプライズだ。併せて手に取れば、三浦の世界を心ゆくまで堪能できる。

 カバーイラストは、三浦が大ファンだというスカイエマが担当。素敵な仕掛けが隠れているので、ぜひ2冊並べて楽しんでほしい。こんなこだわりも三浦的世界の一部で、本と読者に対する深い愛情を感じさせる。

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爆笑と共感となるほど! ネタ選びは“怒り”から

三浦しをん

みうら・しをん●1976年、東京都生まれ。2000年に長編小説『格闘する者に○』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞した。小説とほぼ同数のエッセイを刊行する名手。13年1月よりテレビ東京で、ドラマ『まほろ駅前番外地』が放送予定。
 
 
 

 さて、早速ページを開いてみよう。まずは、『お友だちからお願いします』から。エッセイ集は意外なことに3年ぶり。『人生激場』など数々の名著を世に送り出し、現代を代表するエッセイストの一人でもある三浦だが、今回は少し逡巡があった。
「エッセイは難しいなと改めて思いました。以前はあまり何も考えずに書いていたんですが。今はネット文化も発達して、日常を綴った文章は巷にあふれている。敢えてお金を出して読んでいただくほどの価値が私のエッセイにあるのか? そのジャッジがすごく難しいですよね。まあ、私は自分に対するジャッジはユルユルなので本にしちゃったわけですが(笑)」

 ユルユルなんてとんでもない。世の中の隠れたマナーや三浦流の旅行のこだわりなど、厳選されたネタばかりが盛りだくさんに並んでいる。本人曰く、コンセプトは“よそゆき仕様”!
「新聞などに掲載されたものを集めているので、当時の読者層に合わせてオタク話は少し控えめだったりします。でも結局、以前とあまり変わらない仕上がりですね。いつもシモがかったこと考えてるし(笑)」 

 このエッセイ集、電車の中で読んだら危険だ。絶対に爆笑を抑えられない。保阪尚希を知らないという女子大生の会話に自らの加齢を実感し、世にはびこる相づち“そうなんですね”の功罪を考察。『THEワイド』観たさに蕎麦屋を行脚する……。ヴィゴ・モーテンセンへの恋など、おなじみの“妄想”も健在だ。“私も!”と激しく共感し、同時に“なるほど!”と鋭い視点に感心する。三浦作品は初めてという人にも読みやすく、以前からのファンにも愛される。そんな美味しい一冊なのだ。

 三浦は、こんな絶妙なネタばかりどうやって見つけるのか? 
「たいていご依頼をいただいて書くので、いつも頭の片隅にはエッセイのことがある。町で面白い人を見かけたら、“これやー!”って思ったりします。電車で他の乗客の会話に聞き耳をたてるのも好き。ネタ選びのポイントは、自分の“怒り”ですかね。『お友だちから~』の原稿を読み返して、私、しょっちゅう怒ってるなと思いました(笑)。ただエッセイは楽しく読んでいただきたいので、人間の本当に嫌な部分や心底不快な経験は書きません。それは自分の中で時間をかけて熟成させて、小説に出すと思います」

 三浦流の旅の記録は、第3章に登場。キリストの墓探訪や川中島の戦いの足軽体験など、とにかく個性的だ。仕事の出張もいくつかあるが、ほとんどはプライベートで訪れたという。
「歴史が好きなんです。旅先に博物館や遺跡、神社仏閣があれば思わず観に行っちゃう。歴史小説も書きたいと思っているくらいです。逆に、自然の風景には全然興味が持てない。そこに人が集っていれば、それを観察してフムフムって思ったりするんですけど。鳥取砂丘の話を書きましたが、そこでもカップルの観察に余念がなかったですもんね。やっぱり人間が作った城や遺跡、あるいはそれらを展示している博物館などのほうがいい。人間が絡んでいないとピンとこないんです」

 

人って何なんだろう? 日常と人間への愛

“人間が絡んでいないとピンとこない”─これは、三浦作品を読むうえで重要な一言だ。『お友だちからお願いします』の冒頭で、このエッセイ集を“ゆるーい日常をつづった”と説明している。日常とそこに生きる人間の営み。この二つは、エッセイ、小説、書評集などを問わず、すべての三浦作品の根底にあるテーマではないだろうか?
「それはその通りだと思います。自分が日常以外を知らないっていうのもあるんですが(笑)。私、人里離れた所にたった一人で暮らしたいとは、絶対に思わないんですね。自分以外の人間が存在している所に、私も暮らしたい。俗世間とつながりを断った隠遁生活とか、ほんと無理です。

 人間にすごく興味があるんですね。自分自身のことがよくわからないし、他の人のことはなおさらわからない。“人っていったい何なんだろう?”といつも思っています。そして、そういう“何なんだろう”が一杯集まって暮らしているのが、日常ですよね。しかも皆、何となく何らかの秩序に従っている。自分もその日常の中にいるので、なおさら興味深いんです」

 第4章の章題“だれかとつながりあえそうな”は、非常に印象的だ。まさに三浦が切り取る日常の有様と、人と人との距離間を表しているように思う。
「そういうモヤモヤとした希望を抱きつつ、人は生きているんじゃないでしょうか」