【第22回】Kindleとうとう国内サービス開始! アマゾン ジャパンの中の人に素朴な疑問を聞いてみた

更新日:2014/3/6

電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答!
教えて、まつもと先生!

かべ :ということで、国内サービス開始となったKindleについて、前回いろいろとその気になるポイントを解説してもらいましたが、今日は中の人にお話をうかがいます!

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まつもと :ですね。今回は前置きなしでさっそく本題へまいりましょう。

 

国内参入が「遅れた」理由とは?

友田 雄介(Yusuke Tomoda)
アマゾン ジャパン株式会社 ディレクター Kindle コンテンツ事業部長
1994年、早稲田大学大学院理工学研究科卒業。住友商事(株)、ヤフー(株)を経て、2005年アマゾン ジャパン(株)入社。コンテンツ開発統括部長として書籍の立ち読みサービス「なか見! 検索」立ち上げ後、書籍事業本部長を歴任。2011年9月より現職。

まつもと :今日はよろしくお願いします。2010年のいわゆる「電子書籍元年」以来、いよいよ来るぞと噂されたり、報じられたりしながら、2年以上経っての国内サービス開始となりました。時間がかかった理由は何でしょうか?

友田 :まず最初にお断りしておかないといけないのは、わたしたち自身が「来るぞ」とはひと言も言ってないんですよね。ですので、「遅かった」というのは正直困ってしまいます(笑)。北米では2007年11月からスタートしたKindleですが、ヨーロッパでの開始は昨年です。UKはもう少し前になりますが。今年に入ってインド、日本というペースですので、2010年の段階ではグローバルで見てもまだまだ、という状況だと思います。私たちとしても精一杯やって、やっとここまで来ました、という状況なんです。したがって、「遅れた」という認識は持っていないですね。

まつもと :なるほど。2010年当時は、Googleがブックサーチをはじめて集団訴訟が起こったりと、日本の出版界が衝撃を受けていた時期でもありました。そこにKindleの存在がクローズアップされたという状況はあったかもしれませんね。とはいえ、当時から国内でも準備を進めていたわけですよね?

友田 :アメリカで始めて、世界各国でもやっていくという方針はありましたので、そういう意味での準備はしていました。

まつもと :国内でのサービスをいつまでに開始する、という目標はあったのでしょうか?

友田 :社内的にはもちろんいくつかのマイルストーンはありましたし、4月にベゾス(アマゾンCEO)が来日した際には「年内には正式にお知らせします」というコメントを出していました。私たちの準備が整い、デバイスも含めてお客様にご満足いただけるようなサービスが提供できるタイミングを見計らった結果、今になったということです。

かべ :発表までの間、毎月のようにさまざまなメディアで「いよいよ開始か」と報じられていましたよね。正式発表を聞いたときに、なんだかモヤモヤが晴れました(笑)。

友田 :そうでしたか(笑)。

海外とほぼ変わらぬサービス内容と課題

まつもと :サービス開始前にいろいろと取材を重ねてきましたが、日本版Kindleストアがここまでの形――つまりホールセールでのディスカウント価格や自費出版サービスKDP(Kindle Direct Publishing)などが同時にスタートし、また5万冊以上の品揃えがある状態――でスタートすると予測する人は少なかったのが実情です。

友田 :そうですね……。いろんな誤解があって、憶測だけが大きくなっていたという面は否定できないと思います。私たちアマゾンは紙の本を12年以上売り続けてきましたから、出版社さんとも相応の関係を築いてきたという自負があります。もちろん契約交渉ですから、お互い“即締結”というわけにはいきませんでしたが、担当者同士あるいはトップ同士とのコミュニケーションは常にありましたので、当事者間の誤解は生じていなかったと思います。その外で噂や憶測が拡がってしまったのは残念ですね。

むしろ私たちにとって大変だったのは実務面でした。ストアのタイトル数も他に見劣りしない規模で揃えましたが、残念ながら一部期待されていた“何十万タイトル”というところまでは至っていません。もともと電子化が可能なタイトルというのは限られていたという現実があり、私たちがサービスを開始するからと言って、突然それらの電子化が可能になるといった魔法のようなことが起こる訳ではありません。そんな中で、いかにお客様が欲しいものを一定規模揃えられるのか、というのが一番苦労した点ですね。

まつもと :ホールセールモデル、つまりアマゾンに価格決定権がある形での販売を避けたいという出版社の意向もあったと言われますが、実際ホールセールモデルで販売されているものも相当数ありますね。

友田 :サイトをご覧いただければ分かるように、販売者がアマゾンと表示されているKindle版書籍はホールセールモデルが採用されています。もちろん料率などの契約条件についてはお話しできませんが。

まつもと :一方で、エージェントモデル(出版社が価格決定するモデル)の書籍には、販売者のところに「出版社により設定された価格です」という表示があります。

友田 :販売者の明示については、特定商取引法によって定められていますから、私たちはそれに則って表示をしています。日本で商売するにあたって、これは守らなければならないルールですから。

まつもと :販売価格の近くに大きく表示されているのが特徴的だと感じたのですが。

友田 :グローバルで表示方法は一定ですので、私たちもそれに沿って画面を構成しています。

まつもと :なるほど。先ほどファイルの準備、その多くは変換作業が占めると思いますが、むしろそちらに苦労があったというお話でした。一方で出版社に話を聞くと、社内でのKindle対応に限らず変換作業が大変だという声も聞こえてきます。このあたりはいかがでしょうか?

友田 :私たちは受け入れファイル形式についてはできる限り広く対応したいと考え、環境を整えています。EPUBはもちろんですし、.book、XMDF、あるいは紙の本の状態でも受け入れ可能にしています。ただその結果、こちらで変換したKindle版書籍の「検収」、つまり出版社さん側で正しく変換が行われているかの確認に時間がかかります。また、多様なファイルをいろんな所から送っていただくことになりますので、その対応、オペレーション面での体制作りも最初はかなり大変でした。

また、日本ではこれまで電子書籍に対してISBN(図書コード)を付番するという慣習がなく、いまもeコード(電子出版コンテンツ流通管理コード)を付ける、付けないという議論がある状況で、ユニークコードがありません。したがって、現状は各社が独自に付けたコードで電子書籍化を進めざるをえないのです。コードは流通の基本になるものですから、それが整っていないというのはなかなか私たちにとっても頭が痛い問題でした。

ユニークコードの問題に加えて、日本では文庫の扱いが課題です。これは実は紙の本にも共通の課題ですが、どの本が親であり、子供である文庫にはどのようなコードを付けていくのか、メタデータをどう整備するのかという議論は、ぜひ進めていただければと思っています。