世界でいちばん万引きされている商品、1位は?

社会

更新日:2012/11/27

 日常のなかでもっとも身近な犯罪といえば、万引きを頭に浮かべる人も多いはず。ドラマでは、少年・少女が思春期の屈折から手を伸ばしてしまうというのがおなじみの展開。ワイドショーでも孤独な高齢者による“決定的瞬間”を捉えた映像が紹介されることもしばしばだ。そうして日本ではエンタメ化され続けてきた万引きだが、日本の被害総額は年間4500億円以上。世界第2位の万引き大国であるという。

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 そんな万引きにスポットをあてた本が、10月4日に発売された『万引きの文化史』(レイチェル・シュタイア:著、黒川由美:訳/太田出版)。人気女優のウィノナ・ライダーが万引きをしたという仰天ニュースに関心を抱いた著者が、アメリカを中心に、世界の万引きの歴史から実態、対応策を綴った1冊だ。

 例えば2003年に行われたリサーチによると、「世界でもっとも多く万引きされている商品」第1位はジレット・マッハスリーのひげそりと替刃。2位は化粧品と酒類、3位は衣料品なのだとか。気になるのは、10位にランクインしているステーキ肉。やはり世界的にも、お肉はごちそうなのだなあと妙に納得してしまう。本書によれば、「(スーパーマーケットによる)ステーキ肉のこの堅実な人気は、むしろ健康美容商品と医療品売り場を施錠した効果を立証しているにすぎない」らしく、専門家は「職業的万引き犯は標的をかゆみ止めから牛肉へ切り替えた」と見ているそうだ。

 しかし、本書のなかでもっとも驚かされたのは、1970年代のアメリカでは、万引きが「革命的行動」として注目を集めたという事実だ。万引きを「既存の文化に対抗・敵対する文化」として世に広めたのは、アビー・ホフマンという男性。彼はこの思想を前面に押し出した本『この本を盗め』(小中陽太郎:編/都市出版社)を執筆したが、20社以上の出版社から出版を断られたことから、自ら版元を立ち上げて販売。書店チェーンが取り扱いを拒否すれば、その書店の前にテーブルを出して自著を売ったというから、相当な気合いの入れようだ。『この本を盗め』には、「万引きした食べ物はより美味」「“レジ袋に入れる”のにいちばん簡単でやりやすいのはフライドチキンだ」などなど、万引き指南がびっしり。しかも書評で「奇妙に高潔で、独自の倫理観がある」と紹介されたことから、本が有名になるのと同時に万引きも流行したらしい。ちなみに『この本を盗め』は、日本でも1972年に出版されている(現在は絶版)。

 ほかにも、万引きを描いた映画の変遷や、万引きセレブの盛衰、万引き依存症の更生など、さまざまな視点から万引きを掘り下げている本書。著者は、万引きが増加する原因をひとつには絞れないとした上で、「物欲や消費社会が肯定、さらには奨励され、社会的・経済的不公平が拡大するいまの世の中では、万引きは増える一方だろう」と述べている。これは日本でも同様のことが言えるだろう。この濃厚な万引き史に興味をもった人は、ぜひ“買って”読んでみてほしいと思う。