総選挙目前! 政治家センセイ決死の就職活動、その悲壮な裏側とは?

更新日:2012/11/29

 いよいよ総選挙である。政権交代劇が起こった2009年の前回から3年3ヵ月。自民VS民主という軸があった前回と比べると、政党乱立で混沌とした様相の今回。日本の未来を誰に、どの政党に託すのかしっかり考えて投票したいものである……。とまあ、平凡な一国民が言えるのはこの程度。もちろん重要な選挙ではあるけれど、「どうせ誰でも一緒でしょ」という冷めた思いがあることも否めない。

advertisement

 しかし、冷めている場合ではない人たちもいる。総選挙に立候補する政治家たちだ。何しろ彼ら、当選すれば国家を動かす議員先生になれるけれど、落選すればただの無職の人。彼らにとっての総選挙は、本人と家族の生活を賭けた決死の就職活動なのである。となれば、当然その舞台裏は熾烈を極める戦場そのもの。2010年、参議院選挙にみんなの党から立候補した若林亜紀さんの『体験ルポ 国会議員に立候補する』(文藝春秋)には、一般の有権者にはなかなか見ることのできない苛烈な選挙戦の模様が克明に記されている。

 立候補要請時には党が負担すると言っていたはずの供託金(立候補するために必要なお金)600万円を、自宅を担保に借金して払うことになったり、怪しげな選挙ブローカーに騙されかかったり、味方であるはずの党の候補者や幹部からの思わぬ裏切りもあったり。さらに、自腹で500万円以上使い、家族や友人、ボランティアにアルバイトも頼んで戦って、その結果があえなく落選……。どうにもならないほどの悲劇なのだが、一方で喜劇としか思えない“バカバカしい一面”も選挙には多くあるようだ。

 その代表的なものが、お金。実は、選挙戦で使ったお金の一部は国が援助してくれる仕組みになっている。例えば、ビラやポスターの製作費や有権者に送り付けるハガキの郵送料。これらの多くはちゃんと国が“税金から”払ってくれるのだ。他にも、ウグイス嬢や事務員のアルバイト代なども一部公費負担。国政選挙を1回するだけで、膨大な税金が使われているということなのだ。「こんな無駄遣い、ネット選挙を解禁すれば一発で解決するのに……」と若林さんが嘆く気持ちがよくわかる。

 そして、さらにバカバカしいのが公職選挙法。候補者は誰しも選挙違反をしないように心がけながら選挙活動をしているはずなのだが、その基準が実に曖昧。『選挙の裏側ってこんなに面白いんだ! スペシャル』(三浦博史、前田和男/ビジネス社)には、その公職選挙法のバカバカしい基準が綴られている。

「深夜までハガキのあて名書きをしてくれた学生ボランティアにラーメンおごる」
「選挙事務所に来てくれた支援者にお茶を出す代わりにペットボトルの水を渡す」
「候補者の応援に駆け付けた歌手が一曲披露」
「友達にメールで“立候補したからよろしく”と報告」

 なんとこれら、すべて選挙違反濃厚なのだという。特に1番上の「おごる」はストレートに買収ということになり、一発逮捕で当選しても無効になる可能性も高いそうだ。金を渡して「投票しろよ!」はアウトなのは誰でもわかる。だけど、いくらなんでもここまでやることないじゃないかというのは普通の国民の発想。選挙を戦うためには、かように厳しいルールを守らなければならないのだ。

 で、こんな厳しい規則に縛られ、お金をふんだんに使っても、落選すればすべてがパー。前職議員の場合は、地位も仕事も名誉もお金も何もかも失う。現職でなければ支援者も一気に減るから、本当に踏んだり蹴ったりなのだ。

 しかしだからこそ、選挙期間中に足を止めて「応援してます」と励ましてくれる有権者の声や、落選しても「次回まで一緒に頑張ろう」と言ってくれる家族や友人、支援者の存在は涙が出るほどありがたく感じるのだとか。“選挙の裏側”を書いたこれらの本からは、今の選挙システムのバカバカしさとともに、候補者たちのこうした1票1票にかける思いもひしひしと伝わってくる。今回の総選挙では、こうした裏側の部分に注目してみるのも面白いかもしれない。

 ちなみに、接戦の選挙区で当落を分ける最後のポイントは、政策でもばらまいた銭金でもなく、「握手をした有権者の数」らしい。あれれ、これではどこぞのアイドルグループの総選挙と同じじゃないか。でも、案外人間ってそんなものなのかもね。

文=鼠入昌史(OfficeTi+)