過熱気味のネコブーム、書籍に見るその理由とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 世は空前のネコブーム、だとか。

 2000年代後半から過熱しはじめたこのブーム。『ネコ鍋』というネコが詰まった土鍋の動画コンテンツが話題となったのも今は昔。現在、街にはネコ耳ヘアスタイルやネコの顔がデザインされた洋服を身にまとった若者があふれ、ひとり暮らしでネコを飼うネコ男子も急増しているという。珍しいネコがいるネコカフェでは、休日2時間待ちも当たり前と、猫も杓子もネコネコネコのネコブーム。「カワイイ!」「癒される!」なんて黄色い声に調子づいて近所の野良ネコも、心なしかどや顔で闊歩しているように見えなくもない。

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 しかし、1982年に行われた内閣府の世論調査では、意外なことに「ネコが好きか」という質問に対し、22.0%が「好きな方」、48.8%が「嫌いな方」と答えている。この30年間ですっかり人間のネコに対する意識が様変わりしたようだ。何故ここまでネコがもてはやされるようになったのか。その秘密を今話題のネコ本の中から見つけてみたい。

 11月15日の発売後から、文藝春秋の書店セールスランキング1位となった『旅猫リポート』(有川 浩/文藝春秋)は、主人公・悟と賢くプライドの高いネコのナナが、“最後の旅”に出るというストーリー。旅先で出会う懐かしい人々となごやかなエピソードや感動のラストに心が温まる作品である。そしてナナの目線で語られる言葉からは、気まぐれなネコと人とのつかず離れずの関係がわかる。

 また、スマホ向けメッセンジャーアプリ「LINE(ライン)」初の連載小説として先行配信されたのが、『世界から猫が消えたなら』(川村元気/マガジンハウス)。著者は『告白』『悪人』『モテキ』など数々のヒット映画を手掛けた映画プロデューサーである。ネコのキャベツと生活を共にする30歳・郵便配達員である主人公の物語。余命数日である彼の前にアロハシャツを着た悪魔が現れ、“1日生き延びられる代わりに世界から自分の大切な何かを消す”という契約を交わす。大切なものを失うことで見えてくる世界という哲学めいた内容で、日常で忘れがちなものの価値を再認識させられる。途中、悪魔の魔法で人の言葉がしゃべれるようになったキャベツの口調がなぜか時代劇風で、主人公に向かって「お代官様」と呼びかける姿は、なんともいえない可愛らしさがある。

 そして、5月の発売以来増刷を重ねているのが、ネコとのエピソードを描いた実話コミック『猫なんかよんでもこない。』(杉作/実業之日本社)。世界チャンピオンを目指すプロボクサーの主人公は、兄が拾ってきたネコ2匹の世話を押し付けられてしまう。はじめは嫌々ながらも、いつもそばにいてくれる2匹がいつのまにかかけがえのない存在に。ネコたちが主人公の日常に入り込んでいくさまを描いている。

 じゃれてきたりそっけなかったりと、普段は気まぐれなネコ。しかし、本当に辛いときにそばに寄り添ってくれる。まるで人の気持ちを見通しているかのようなネコたちは、ペットではなく、パートナーのような存在だ。これらの作品は、ネコと人との深い“絆”が描かれており、読者からは、涙なしには読めないという声が続出している。

 インターネットや携帯電話が普及し、他人と直接接することが少なくなってしまった現代、そこに生きる我々は、そっとそばに寄り添ってくれるネコのような、温かみのあるつながりを探し求めているのかもしれない。だとすれば、このネコブーム、どこまでも過熱してきそうである。

文=廣野順子(OfficeTi+)