ブレイク間近! 山田うどんってなに?

食・料理

更新日:2012/12/6

 B-1グランプリが注目を集めるなど、地方の味が人気を博す今日このごろ。そんななか、最近一部で熱狂的に盛り上がっているローカルフードがある。その名は、“山田うどん”だ。

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 山田うどんを知らない読者は、「伊勢うどんのように、山田地方に伝わるうどんのこと?」と思われるだろう。じつはこれ、埼玉県を中心に展開する関東ローカルのうどんチェーン店の名前。『秘密のケンミンSHOW』でも取り上げられ、オードリーの春日は地元である埼玉に住んでいたころに付き合っていた彼女と店に通ってはセットをふたりで分け合って食べたエピソードを披露。埼玉県民にとっては“ソウルフード”というべきものであるらしい。そして先日、この山田うどんを「青春の山田」と呼び、最大のリスペクトを送る本『愛の山田うどん 廻ってくれ、俺の頭上で!!』(北尾トロ:著、えのきどいちろう:著/河出書房新社)が発売されたのだ。

 この本の著者は、ライターの北尾トロと、コラムニストのえのきどいちろう。ふとしたきっかけで山田うどんが話題になり、それぞれに青春のモヤモヤを抱えて山田うどんをすすった記憶があった2人は、すっかり山田うどんが頭から離れない状態に。ラジオをはじめとする各所で山田うどん愛を語りつくした結果、同じように山田うどんに一家言ある者が集まり、さらには山田うどんの母体である山田食品産業からラブコールがかかり、社長・会長訪問にまで至る。本書は、そんな山田うどんに青春時代を経て再びハマっていく両名のドキュメントであり、山田うどんとアメリカのフリーウェイ沿いに展開されるダイナーを比較した「山田ロードサイド論」や、天下取りを目指すのではなく地方を制覇することで生まれるうどん文化を論じた「地方豪族としての山田」など、さまざまな角度から山田うどんを掘り下げた研究書でもあるのだ。

 しかし、なぜ山田うどんは、局地的とはいえここまで人を魅了するのか。著者の2人は、山田うどんを「好ましいまでの普通のうまさ」「フツーのほっとする味」と評する。麺はコシを重視する流行と逆行し、もちもちと柔らかい。うどん一筋のこだわり店とも違い、カツ丼やかき揚げ丼などとのセットメニューも多く、餃子やチャーハン、「パンチ」と呼ばれるモツ煮まで取り揃える無節操ぶりだ。だが、北尾が「困ったら山田とか、しょうがなくて山田とか、ありきたりな食の選択肢として定着していったんだと思う」と書いているように、そうした“地元の人が喜ぶ”ローカルチェーンの存在は、問答無用の安心感を与えてくれる。その記憶こそが“ソウルフード”を生み出すのだろう。

 「部活の帰りに小走りになって駆け込むときの倒れそうな空腹感。行くとこなくてまた来ちゃったよの情けない気分。友達とドライブしていてたどりつくいつものあの店。その味で育った人たちが、小さな物語を持っているんだ」。――この文章にもあるように、山田うどんを知らない人にも、きっとこんな味の体験・記憶があるはず。年末の帰省前には、本書を通して“自分の青春の味”に思いを馳せてみてはいかがだろうか。