サンタクロースの意外なヒミツとは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 今年も気がつけばもう12月。老若男女が胸躍らせる(?)クリスマスシーズンがやってきた。クリスマスと言えば、欠かせないのがおいしいケーキ……とサンタクロース。白く縁取られた赤い服と帽子を身にまとい、もこもこの白ひげ。トナカイのそりに乗ってやってきて、子供たちにプレゼントをしてくれる。子供ならずとも憧れる、クリスマス限定のヒーローだ。

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 しかし、身近な存在の割に、サンタクロースの正体を知っている人はあまりいないのでは? 「正体はお父さんとお母さんでしょ」なんて野暮な意見はさておいて、実はサンタは、なかなか興味深いルーツを持っているようなのだ。

 サンタクロースにモデルが存在するというのは、一部では有名なお話。4世紀ごろの東ローマ帝国(現トルコ)の聖職者・聖ニコラウスだ。彼が貧しい家の3人の娘のために、煙突から金貨を投げ入れた……という逸話が由来となり、サンタクロースが生まれたのだという。しかし、そんな伝説だけで、1600年の時を超え、キリスト教国家でもない日本でこれだけ愛されるほど世の中は甘くない。『12月25日の怪物―謎に満ちた「サンタクロース」の実像を追いかけて』(高橋大輔/草思社)では、キリスト教とは無関係な世界各地の風習もサンタクロースのルーツとされており、それが「子供のヒーロー」になった理由でもあると説いている。

 実は12月25日(とその前後)に行われるイベントはクリスマスだけではなく、この時期は紀元前から世界中でさまざまなイベントが行なわれてきた。「冬至」という冬のピークに合わせて少しずつ近づいている春の到来を喜ぶ……というのが共通したコンセプトであり、これらのイベントにはサンタクロースの元祖とも言うべき存在が必ず登場するのだ。

 本物のサンタクロースが暮らす北欧フィンランドでは怪物と思しきヤギ男。またアルプスの山奥では、村の人々に向かって鞭をふるい「悪い子にしていると春は来ない」と脅しかける不気味な仮面をかぶった男たち。そして、日本でも、秋田に行けば「悪い子はいねえが」と集落を練り歩くナマハゲがいる。この冬のお祭りの主役として欠かせない彼らは、いい子にしている子供たちに希望を与え、“春”という新たな季節の到来を告げる、すなわち春をプレゼントしてくれる存在だということが、見事に共通しているのだ。

 こうした世界各地にある土着の怪物たちが、聖ニコラウスの伝説と合体し、さらにイエス・キリストの降誕祭というタイミングともぴたりと合って、サンタクロースというヒーローへと進化していった……。どうやらこれが、サンタクロースの本当のルーツということらしい。同書では、世界中を旅しながらこの事実へと迫っていく様子がつぶさに描かれているので、詳しいところはぜひ手にとって読んでいただければと思う。ナマハゲとサンタの意外な関係についても、しっかりと記されている。

 そんな興味深いルーツを持つサンタだが、『空想科学読本12』(柳田理科雄/メディアファクトリー)には、彼らの過酷な(?)労働環境を物語る1節がある。
「サンタクロースはどうやって、一晩で世界中にプレゼントを配るのですか?」と題し、実際にひとりのサンタが一晩で世界中を回れるかどうかを科学的に検証している。実にバカバカしい話なのであるが、それによると、たとえ時空を超えるトナカイを使っても、壁をすり抜けることができたとしても、ひとりだけではさすがに困難なのだとか。そこで、同書では「宅配業者なみにサンタクロースがたくさんいたら?」と仮定してもいるのだが、“子供ひとりひとりの親がサンタクロース”ということであればすんなり解決してしまうような……。

 と、最後で再び夢を壊すようなお話になってしまったけれど、実はこれこそが真実なのかもしれない。古来より続いていた冬の祭りでは、子供たちに希望を与える存在として、サンタのルーツとなった怪物たちがいた。聖ニコラウスの伝説でも、ニコラウスが与えたお金は、貧しい一家の娘たちの希望になった。そして今も、子供たちにとってサンタクロースの来訪は大きな希望であることは変わらない。子供の希望をかなえてあげるのは、親の大きな役割。もしかすると、サンタクロースというクリスマスのヒーローが、お父さんやお母さんであることは、ごく当然のことなのかもしれない。

文=鼠入昌史(OfficeTi+)