『桐島』作者・朝井リョウの最新作 テーマは「ソー活」!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/25

 2014年春卒業生の就職活動が12月1日、本格始動した。それに合わせるかのごとく話題なのが『桐島、部活やめるってよ』(集英社)が映画化され大ヒット、23歳にして直木賞候補となった朝井リョウの最新作『何者』(新潮社)。気鋭の小説家が新たに選んだ題材は「就活」である。
 これまでも「就職活動」をテーマにした小説はあった。マイペースで浮き世離れしている女子学生が漫画編集者になるため、出版社への就職を目指し悪戦苦闘する三浦しをんの『格闘するものに○(まる)』(新潮社)。またはノウハウがつまった実用書のような石田衣良の『シューカツ!』(文藝春秋)。こちらは男女7人が「シューカツプロジェクトチーム」を結成し、大手マスコミへの就職を目指してエリート学生がお手本のような華々しい就職活動を繰り広げる。

 『何者』では、そんな従来の就職活動小説と大きく違い、物語の軸にTwitterが使われている。というのも「ソー活」という言葉もあるほど、現在の就活はTwitterやFacebookなどソーシャルメディアを活用することが一般的。その「ソー活」に悩みながら行動する学生たちを描き、若者の複雑な心理をあぶりだしているのが本作なのだ。

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 さらに主題となっているのは、就職活動そのものよりも、活動を通して「何者かになろうとする」学生の自意識の痛々しさだ。ひとりの男子学生と、ほか4名の男女の就職活動を中心に話は進み、効果的に彼らのTwitterでのつぶやきが挟まれる。「こういう人いる」「このタイプはこういうコメント言いそう」のオンパレードで、SNSをやったことのある人なら心のヒリヒリする共感や既視感があるはず。「自分のままでは」選別されないかもしれないという恐怖、一方で自分を大きく見せようとしなければならないのかという居心地の悪さ。Twitterを中心に、誰もが「何者かである自分」を表現できるようになってしまった現在の就職活動戦線は、以前より企業や就活の情報は手に入れやすくなったものの、より他者との比較に心細さや焦燥を感じずにいられない状況なのかもしれない。

 ある登場人物の言葉をきっかけに、主人公の立ち位置が劇的に変わっていくラストは圧巻。就職するとはどういうことか、人生を生きるとはどういうことか。『何者』は就職活動を描いた小説ように見えて、その本質は、無数の価値観や意見があふれるSNS世界のなかで、「自分の」人生を生きる覚悟を描いた作品だ。『桐島』でも感じられた、作者の時代の空気感を描く力、あなたも体感してみてはどうだろう。

文=菅原信子(ユーフォリア・ファクトリー)