『エヴァQ』同時上映の巨神兵、『ナウシカ』原作での悲しい運命

マンガ

更新日:2012/12/15

 現在公開中の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の同時上映として、『巨神兵東京に現わる』という短編の特撮映像が本編の前に流れている。今夏、東京都現代美術館で開かれた「館長 庵野秀明 特撮博物館」で登場した映像に若干のアレンジを加えたものだ。

advertisement

 ここに登場する「巨神兵」とは、宮崎駿監督による劇場アニメ『風の谷のナウシカ』に登場したものだが、骨格を基調とした鎧のような体の表面や背中から羽が生えるところなどは、アニメとは造形が大きく異なっている。中には戸惑った人もいたのではないか。

 それもそのはず、ここに出てくる巨神兵は、作者の宮崎駿が直々に描いた原作マンガ『風の谷のナウシカ』(宮崎駿/徳間書店)で描かれた方の巨神兵をもとに再現されているからだ。

 実際、『風の谷のナウシカ』は、劇場アニメとマンガでストーリーが大きく異なっている。巨神兵の位置づけについても、アニメでは一生物兵器という扱いだったが、マンガでは生まれながらに人格を持ち、自身の生誕にかかわったナウシカを母として心から慕っている。ナウシカとは念話(テレパシーのようなもの)で会話をし、「オーマ」という名を授かると、自らの巨大な力を打算なくナウシカに捧げ、最後は“青き清浄の地”復活を進める旧高度文明のシステムを破壊。力尽きて絶命するという悲しい結末を迎えている。

 そもそも、『風の谷のナウシカ』は自然と人類のあり方について考えさせるストーリーだ。高度な産業文明を持ちながら、巨神兵が「火の7日間」によって地球上が焼きつくしたあとにできたと言われているナウシカたちが生活する世界。そこには、「腐海(ふかい)」と呼ばれる人には有害な物質が蔓延していた。

 しかし、物語が進むにつれて、実は腐海は世界を浄化することを目的とした物質であることがわかってくる。そして、クライマックスシーンにて、今の世界は旧人類が侵してしまった環境破壊や宗教、戦争などにより混沌とした状況を1度リセットするために描いた筋書きどおりであり、永い浄化の時を経て「青き清浄の地」が復活した暁には、人為的に腐海に適応させたナウシカたちの種族に替わり、あらかじめ育まれた別の種族に入れ替わるのだという。

 その事実を知ったナウシカは、筋書きを語る旧人類が残したシステムに向かって「苦しみや悲劇やおろかさは、清浄な世界でもなくなりはしない。それは人間の一部だ」強く反発。たとえ滅びる可能性があろうとも、人類は自然の流れに身を投じるべきであり、その中できっと適応できるように変わっていける、と主張する。

 このクライマックスシーンにおけるナウシカの言葉に、宮崎駿の抱いている人類のあり方が特に強く込められているようだが、詳細については、1996年に刊行された『ナウシカ解読―ユートピアの臨界』(稲葉振一郎/窓社)という解説本で紹介されている。また、今年10月にも『「青き清浄の地」としての里山―生物多様性からナウシカへの思索』(中村聡/九州大学出版会)という関連本が刊行されるなど、いまだに作品の持つ影響力は大きいようだ。

 また、自然環境の問題を真剣に考えるにあたり、宮崎駿の考える世界観が強く込められているマンガ版『風の谷のナウシカ』を1度読んでおくといいかもしれない。

文=キビタキビオ