回答も悩みもブラック!? 過激すぎて話題騒然の人生相談

暮らし

公開日:2012/12/18

 人生には悩みはつきもの。とはいえ、昨今の“人生相談”ブームには目を見張るものがある。伊集院静の『悩むが花』(文藝春秋)が話題を集めたり、情報サイト「大手小町」内の「発言小町」には投稿される悩み相談を毎日の楽しみにするウォッチャーが存在するなど、他人の悩みとそのアドバイスを見るのは、多くの人にとって大好物のようだ。

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 そんな好奇心いっぱいの人にはきっとたまらない一冊が、先日12月7日に発売された『車谷長吉の人生相談 人生の救い』(車谷長吉/朝日新聞出版)だ。これは朝日新聞の土曜版「be」で連載されていた「悩みのるつぼ」という身の上相談コーナーを抜粋してまとめたものなのだが、『赤目四十八瀧心中未遂』(文藝春秋)で人間の業や情念の深淵を描いた芥川賞作家・車谷長吉の名回答に、連載時から話題騒然となった“問題作”なのだ。

 たとえば、40代の男性高校教師による「5年に1度くらい、自分でもコントロールできなくなるほど没入してしまう女子生徒が出現するんです」「情動を抑えられません」という赤裸々すぎる相談に対して、車谷は「好きになった女生徒と出来てしまえば、それでいいのです」と、予想を裏切るまさかの回答! 無一文になったときに人間とは何かをわかりかけたという車谷は、“職も家庭も名誉も失うことで、はじめて人間とは何かが見える”というのだ。さすがは新無頼派と呼ばれる車谷らしい回答だ。

 また、“愛猫をひき殺した近所の人を恨む気持ちが治まらない”という50代主婦のディープな悩みには、「あなたが終生、その人を許せないとしたら、それでいいのです」と述べ、「ですが、もし恨んで恨んで、恨み殺せば、その人は地獄に行きますが、あなたも地獄へ行くでしょう。人を恨むのは蜜の味、と私は信じています」と、ブラックすぎる諭しを展開。しかも最後は「猫をひき殺した人の家へ行って、わんわん泣けばいいのです」と締めくくっている。なんとも苦い終わり方だが、人生相談に後味の良さを求めるほうが間違っているのかもしれないとも思えてくるから不思議である。

 このほか、「人の不幸を望んでしまいます」という46歳主婦には、「あなたのご相談を読ませていただいて、まず思ったのは、この人は一生救われないな、ということでした」としょっぱなから救いのない一言を放ち、かと思えば、「同僚女性がむかつきます」という48歳会社員には、気晴らしに山で歌を歌うことを推奨! 「私は『うれしいひなまつり』という歌が好きです」とオススメの楽曲まで紹介している。なかには、“「破滅型」の車谷先生でさえ夫婦仲がいいことにショックを受けた。うちはどうすればいいか”という相談を寄せる強者も出現するのだが、その回答は「あなたはなまくらな人です」。徹頭徹尾、車谷節が冴えわたっているのだ。

 解説では、作家の万城目学が「他人の悩み事を回答者が片っ端から殺しているようにも見える」と綴っているが、たしかに、これほどスリリングな人生相談というのもめずらしい。悩み事を抱える人はもちろん、何か強い刺激を求めている人にも、おすすめしたい一冊だ。