刃牙シリーズがこの夏、完結! 板垣恵介の新作『謝男』は土下座で対決!?

マンガ

更新日:2012/12/17

 板垣恵介の人気格闘技マンガ『範馬刃牙』(秋田書店)がこの夏、完結した。1991年に『グラップラー刃牙』の連載がはじまり、第2部『バキ』を経て、第3部『範馬刃牙』完結まで足かけ21年! 「史上最大の親子喧嘩」を描いたことで刃牙シリーズは一端終了となるが、作者にとって刃牙シリーズはいわばライフワーク。『ダ・ヴィンチ』2013年1月号のインタビューによると、早くも次のネタが浮かんでいるそうだ。きっと、刃牙ワールドのキャラたちが黙っていてくれず、勝手に動き回っている感じなのだろう。

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 「上には上がいる」とばかりに次々と強い男たちを登場させ、ついには「地球史上最強」にまで至った刃牙シリーズ。一転して、現在、板垣が『週刊漫画ゴラク』に連載しているのが『謝男(シャーマン)』(日本文芸社)だ。こちらは刃牙シリーズとは真逆の内容。なにしろ、「下には下がいる」とばかりに誰よりも低く頭を下げる男の物語なのである。

 この前身となった作品に板垣恵介(企画・全面協力)とRINの共作による『どげせん』(日本文芸社)という作品がある。リーゼント頭にメガネという風貌の一見うだつのあがらない教師だが、とことん土下座をすることで、あらゆる困難を解決に導くという内容だ。ちなみに主人公のモデルは、あの田代まさし。彼のファンだった板垣は、コカイン所持による4回目の逮捕を見て、どうしたら田代まさしが再び浮上できるだろうと考えていたところ、教師ドラマを思いついた。上から目線の教師ではなく、下から目線で生徒に哀願する教師像だ。毎回、全国に向かって謝る気持ちで土下座シーンを入れていけば、大きな反響があると考え、教師ものマンガを企画したわけだ。

 しかし、板垣恵介とRINは、土下座に対する考え方の相違から意見が衝突。RINは続編にあたる『どげせんR』(少年画報社)を連載し、板垣恵介は新たな主人公による『謝男』を連載することになった。どちらが真の土下座を描き、どちらが面白いかを勝負する全面対決だ。こうしたマンガ対決は前代未聞! さすがは男と男の戦いを描き続けてきた板垣恵介である。

 板垣恵介の土下座に対する考え方は、『謝男』を読むと一目瞭然。それは、いわゆる「平謝り」の謝罪ではなく、感謝、敬意、祈願などを含む神聖な日本古来の座礼といった感覚だ。それは、ときに無理を押し通そうとする“我がまま”でもあって、弱気で情けない印象はない。むしろ強気な行為である。「ひれ伏す」という行為を徹底させることで奇跡を起こす、という描き方は、徹底して強さを求める刃牙シリーズとも通じるもの。マンガならではの荒唐無稽さが小気味いい。一見、敗北を意味する土下座だが、これもひとつの戦いなのだと思えてくるあたり、やっぱりどうして、板垣節なのであった。

 板垣恵介の『謝男(シャーマン)』とRINの『どげせんR』を読み比べてみるのも面白い。なにしろテーマは土下座である。どちらの土下座があなたの胸に響くだろうか?

文=大寺 明