中央に負けない! 地方新聞社の本

社会

更新日:2012/12/17

 ライター・北尾トロが、本にまつわる様々な取材や企画を展開し、ルポ形式で連載する「走れ! トロイカ学習帳」。『ダ・ヴィンチ』1月号では、地方新聞社の出版部の実態に突撃している。

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 きっかけは、栃木一箱古本市で出会った1人の男性。地元出版社が合同で店を出しているテントで、ひときわ大きな声で呼び込みをしていたのが、下野新聞社の出版部の嶋田一雄さんだ。話をすると、新聞社出版部門には全国的なネットワークがあって、46社で組織する全国新聞社出版協議会まであるという。

「大ベストセラーとはいかないまでも、その地域を中心に数万部売れる本もある。東京の出版社が出さないような本もたくさん作っています。全国新聞社出版協議会では年に二度ほど各社の出版担当者が集まる機会もあり、合同フェアを仕掛けたりもしているんですよ。そうしたことを調べるというのも意義があると思いませんか」(嶋田さん)
 はい、すんません! 新聞社の本って、ジャーナリスティックなものや地方の歴史をたどるようなものしか思い浮かびませんが、そうじゃないと。
「新聞と連動した本ばかりじゃなくて、その地域に関わるものなら何でも企画の対象です。下野新聞社は餃子のムックや観光ガイドから歴史もの自然その他幅広く手がけています。これ、何かの参考になれば」(嶋田さん)
 渡されたのは『ふるさと発見 新聞社の本』という合同目録。北は北海道新聞から南は沖縄タイムスまで参加している。そうか、新聞社はこんなに本を作っているのか。

 いただいた目録を見ていくと、聞き覚えのある本がいくつかある。たとえば大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち』(渡辺一史 北海道新聞社)だ。
「東北の新聞社は震災関連で力のこもった写真集や書籍を続々と出していますね。『報道写真集 巨大津波が襲った3・11発生から10日間の記録』(河北新報総合サービス)は英訳版まで出版しています。ボクの出身地である岩手県もそうで、『コミックいわて』(岩手日報社ほか)を出すなどがんばっています」とドヤ顔の担当編集のK。岩手日報社は文芸誌『北の文学』も発行するなど総合出版社的な展開をしているところだ。
 数万部を売り上げるヒットとなり、映画化された『ペコロスの母に会いに行く』(岡野雄一)は西日本新聞社が版元。2013年夏の公開予定だから、ロングセラーになること必至だ。TOKIOの松岡昌宏主演でドラマ化された伊勢新聞社の『高校生レストラン、本日も満席』(村林新吾)も地方新聞社発のヒット作。気がつかないだけで、話題作がいろいろあるのだ。当然、全国的には知られていなくても、それぞれの地域ではよく読まれている本が多数存在するのだろう。

 同誌では実際に旅へ出た北尾が、新潟日報事業社や信濃毎日新聞社を訪れ、知られざる名本を紹介している。

(『ダ・ヴィンチ』1月号 北尾トロ「走れ! トロイカ学習帳」より)