このマンガがすごい1位『テラフォーマーズ』作者の埋もれた傑作とは?

マンガ

公開日:2012/12/22

 スターと呼ばれる人間の多くが、不遇の時代を積み重ねてきた人たちだ。今や、スターの頂点に立っているといってもいいSMAPも、過去には『聖闘士星矢』の舞台など地道な仕事もしていた時代もある。

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 それは、マンガ界でも例外ではない。そう、現在は押しも押されぬ人気作家の方々も、過去には日の当たらなかった作品を発表した経歴がある。さまざまな事情があるだろうが、その作品で人気が出なかったのは事実。しかし、人気がないからといって、それがおもしろくないというわけでは決してない。むしろ、その作品からは人気作家になるだけの実力が伺える、「隠れた名作」ともいえるものなのだ。

 今回は、そういった、人気作家たちの、人気が出ずに埋もれてしまった、隠れた名作を紹介しよう。

 まずは、2013年版『このマンガがすごい!』(宝島社)オトコ編で1位を獲得した『テラフォーマーズ』(貴家 悠:原作/集英社)の橘賢一。『ミラクルジャンプ』で連載を開始し、人気が沸騰し、『週刊ヤングジャンプ』に移籍、そちらでも、看板マンガになりつつある作品である。この作品で作画を担当している橘は、過去に『週刊ヤングジャンプ』で『ラッキーセブンスター』(集英社)を連載していた。これは、パチスロを主題としたマンガで、単行本全3巻で完結した、短命といってもいい作品だった。しかし、これがけっこうおもしろいのだ。パチンコホールの店長でありヒロイン(?)の花川皐月と、彼女と同じ施設で育ったすご腕のスロッター、通称「心臓撃ちの銀蜂」こと蜂屋銀次が繰り広げるバトルあり、ギャグあり、お色気あり、人情話ありと、なんでもありのパチスロマンガなのだ。話の内容ももちろんだが、特筆すべきはその作画のすばらしさ。魅力的なキャラクターの数々や思わず興奮してしまうバトルシーンは、間違いなく『テラフォーマーズ』への片鱗を見せているといっていい。1度目を通してみることを強くオススメする作品である。

 また、『週刊ヤングマガジン』の看板マンガとして好評連載中の『彼岸島』(講談社)。その作者、松本光司も不遇の時代を過ごしたひとり。そんな彼の、初の連載作品となった『クーデタークラブ』(講談社)は、連合赤軍等の学生運動を題材にした、まさに衝撃作といってもいいほどの作品。変身願望からの女装趣味をもつ主人公、松崎潤が憧れているヒロイン高山絵衣子の心を手にするために、彼女が惚れている松岡ユウジ率いる革命組織「クーデタークラブ」に入ることから物語は劇的に動きだす。『彼岸島』に見られる息をつかせぬような衝撃な展開の数々、松本光司節ともいえる独特な息遣いと失禁描写、そしてエログロっぷりは、この作品のころから健在で、当時は多くの読者に「この作者は化けそう」と思わせたほど。松崎潤が松岡ユウジに放った「あんたに勝てないと思う僕の心に革命を」など、心打つ言葉やシーンもたくさん登場するので、『彼岸島』ファンの方は必ず目を通してみてほしい。

 『モーニング』で連載中の『へうげもの』(講談社)の作者、山田芳裕の隠れた名作といえば『度胸星』(小学館)。これは、休刊となった『週刊ヤングサンデー』で連載されていた作品で、火星着陸の瞬間に突然消息を絶った調査隊を救出するための救助隊に志願した主人公、三河度胸が、その厳しい審査に挑戦する話が描かれている。そしてその物語と平行して、火星調査隊の生き残りと、事故の発端である未知の物体との接触が描かれる。『へうげもの』にも引き継がれている個性豊かなキャラクター像と、彼らがページ内を縦横無尽に暴れまわる様、緻密なストーリーと設定は当時から根強いファンが少なくなかった。しかし、あえなく打ち切りとなり、未完となってしまっている。いまだ、再開を望む声は多い。

 テレビドラマ化、そして映画化もされ、『ビッグコミックスピリッツ』のトップを飾るほどに人気沸騰中の『闇金ウシジマくん』(小学館)の作者、真鍋昌平が過去に『月刊アフタヌーン』で連載していた『THE END』(講談社)も隠れた名作のひとつ。「何もかもに意味を見出せなかった」主人公、シロウ。彼はルーシーという不思議な存在感をもつ女性と出会い、彼女の魅力に惹かれる。だが突如として大きな謎に巻き込まれ、そして、日常からは離れた世界へと放り出される。近未来的な世界観で繰り広げられる「はじまり」と「終わり」の物語が、真鍋昌平お得意の過剰な暴力表現と繊細な心理描写で描かれる傑作である。『闇金ウシジマくん』の雰囲気を作りあげている、荒廃的ともいえる独特な絵柄と空気感は、このころから既に見られる。『闇金ウシジマくん』の初期の雰囲気と絵柄が好きな人にはうってつけの作品だ。

 いかがだったろうか。ここで紹介した以外にも、人気作家たちの不遇の作品はまだまだある。そのなかには、隠れた名作も多い。最新のヒット作を追いかけるのもちろん楽しいが、ヒット作から入ってその作家の旧作をさかのぼってみると、意外な発見もあり、マンガのたのしみもさらに広がるだろう。