イスラム教徒は寿司が大好き? 外国人移住者の食事情

公開日:2013/1/13

 2011年の調べによると、日本に住む外国人の人口は207万人。最近では都市部でなくても、外国人の姿を見かけることがめずらしくなくなった。しかし、その一方で、彼らがどのような生活を営んでいるのかを知らない人も多いのではないだろうか。とくに気になるのは、やっぱり食事情。果たしてその食卓には、どのようなおかずが並んでいるのか……。

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 そんな疑問に答えてくれているのが、『移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活』(高野秀行/講談社)。さまざまな国を旅してきたノンフィクション作家の著者が、日本に住む外国人たちの食卓を、ヨネスケばりに“突撃”取材した記録だ。

 たとえば、“在日ムスリム(イスラム教徒)の一大中心地”とも呼ばれる群馬県の館林市には、モスクが2カ所もある。このモスクにムスリムが集まり、夜のお祈りと勉強会を開いているのだが、そのあとにはお食事会を開催。著者が赴いた際のメニューは、チキンカレーとナン。もちろん、チキンカレーの鶏肉は「イスラムの作法にのっとって処理した肉」であるハラルミートを使用している。このハラルミート、アラブ系ブラジル人が輸出し日本でも安く出回っており、ムスリムだけではなく「血抜きが上手だからおいしい」と日本人も重宝しているのだとか。

 しかし、こうして読むと「カレーとナンとは、やはり日本でも祖国の味が愛されているんだな」と思ってしまうが、館林でムスリム向けの雑貨店を営むミャンマー人の店主は、6月の取材時に「最近暑いからカレーが食べられなくてね。毎日、お寿司」と話している。じつはムスリムの寿司支持率は高く、本書に登場するスーダン人の男性もお寿司が大好き。日本人の著者よりも寿司に詳しく、シリア人やエジプト人の“寿司仲間”もいるほどだ。味噌を買うにも原材料に酒が入っているかどうかまでチェックするなど、食事にはいろいろと気を遣うムスリム。寿司は安心して食べられる食事のひとつなのかもしれない。

 他方、東京の西葛西にはIT系インド人コミュニティがあり、全国で2万2000人の在日インド人のうち2000人が西葛西に集中。これほど増えたのはコンピュータの誤作動が起こると混乱が生じた「2000年問題」がきっかけで、日本にITエンジニアが不足していたことから企業がインドより呼んだのだという。たしかに西葛西は、2000年問題に揺れた金融機関が集まる大手町や茅場町にも地下鉄でアクセスしやすい立地。しかし、もともと西葛西で輸入業を営んでいたインド人男性が、日本人がもっているインド人への偏見を払拭すべく、不動産屋や大家にはたらきかけたことも大きかったよう。また、インド人にはベジタリアンも多く、そんな彼らのために「夜だけクーポン券でインドの家庭料理を提供する食堂」までつくったという。これが日本人からも「食べたい!」の声が高まり、レストランに発展。いまでは駅の北口には北インド料理店、南口には南インド料理店があるのだそう。それでも、いつもインド料理だけ口にする、というわけでもなさそうで、熱燗に梅干しを愛する人もいれば、蕎麦に納豆をトッピングする人など、かなり“通”な日本食も好まれているようだ。 

 このほかにも、レストランのまかないにも赤ワインのボトルとチーズを忘れない東京・神楽坂のフランス人や、宮城・南三陸町に住むパワフルなフィリピン女性たちがつくる賑やかなフィリピン料理の数々、イラン人のお母さんが17時間もかけて仕込みをする手間暇をかけたイラン料理など、本書にはさまざまな国の料理と、日本に住む外国人たちの生活が登場する。暮らしぶりも習慣も、それぞれに抱えた事情も多様だが、それを知ることは、なかなか触れあう機会のない彼らとの距離を縮める第一歩になるはずだ。

 ちなみに本書では、多くの人々が“日本食はつくるのが簡単でいい”と口をそろえている。その理由は一体どこにあるのかも、ぜひ手にとって確かめてほしい。